08 デートですが何か?
♥てってれ~
…ついうっかり、心の中で自分で効果音をつけてしまったわ。
今日も正さん、お弁当完食してくれてるっ!
てってれ~!清子はレベルが上がった。
愛妻度レベル2になった!
うっかり、鼻歌まじりになってしまいそうになるのをこらえて、清子はお弁当箱を黙々と洗った。
「いつもすみません。職場で洗えるんですが、給湯室が女性職員のたまり場になっていまして」
「いえ、これも料理を作る担当の役割ですので」
無表情のまま2人はキッチンで話をする。
清子が洗った弁当箱を、正が布巾で拭いて食器棚に片付けていった。
「清子さんのお弁当のおかげで、お昼休みをゆっくり過ごせるようになりました。ありがとうございます」
正がそう言うと清子は正のほうに向きなおった。
「いえ。私がお弁当を持っていきたかったので。お付き合いいただき、ありがとうございます」
そう言って頭を下げた。
♠お付き合いするするっ!
清子さんのお弁当を毎日食べられる俺、幸せ者っす!
みんなに羨ましがられながら食べるの、超気分いいっす!
いや~、若者風になっちゃうよねっ!なっちゃうよねっ!
♥正さん、お昼休みゆっくり過ごせてるんだ。
嬉しい~、嬉しすぎるご報告っ、ありがとうございますっ!
ありがとうございますぅ!
「お礼ということでもないのですが。今週末は、で、デートに出かけませんか?」
正はできるかぎりスマートに伝えたかったが、少し噛んでしまって焦った。
♠デートで噛んだっ!1番伝えたいところで噛んだっ!
♥デート?!結婚してるのにデートって、どんだけ最高な夫なんですかっ!
世界中の皆さん!ここに、最高の夫がいますよ~!!
「久しぶりのデート、いいですね」
清子はついつい、デートという言葉を強調してしまって恥ずかしくなる。
無表情ではあるが。
「では、今週末は…水族館、などいかがでしょうか?」
♠♥水族館!!
♠結婚前のデートで行ったのが、美術館、博物館、映画館に寺社仏閣。
行っていないところで楽しめそうなところと思って選んでみたが、はしゃぎすぎたか?
♥水族館といえば人気のデートスポット!
結婚前に行ってみたいと思っていた、あの水族館!
まさか、このタイミングで行けるなんて…しかも、正さんとっ!!
「いいですね。水族館といえば、イルカショーでしょうか」
「イルカは生物学上、クジラと同じ生き物ですからね」
「はい。イルカを見て、クジラを感じることができそうです」
「・・・・」
「・・・・」
2人とも、かなりはしゃいでいる。
頭の中がもう、水族館デートでいっぱいになっていた。
そのため、意味不明なことを口走った…ということにしておこう。
翌日、出勤した清子は休憩時間にクジラについて調べた。
かなり詳しく調べたところで、調べるべきは水族館についてであることに気がつく。
「クジラにだけ詳しくなっても意味がないじゃないっ」
そう呟いて、水族館についての本を探す。
だが、清子は気がついていなかった。
水族館について詳しくなったとしても意味がない。
調べなければいけないのは、水族館デートについてだからだ。
お弁当を食べながら水族館についての本を読んでいると、同僚に話しかけられた。
「あら、山田さん。水族館好きなの?」
黙々と食べながら、ちらっと同僚を見て箸をおく。
「はい。週末、水族館に出かけることになりまして」
「あら。雨だし、ちょうどいいわね。大雨になるといけないから、傘は持っていった方がいいみたいだけど」
同僚がそう言ったのを聞いて、ようやく清子は気がついた。
♥何を着ていけばいいのかしら?
雨が降るなら足下が濡れても拭きやすいスカート。
いやいや、あえてパンツ?
…イルカショーを観るなら、水をかぶってもいいように…レインコート?
結婚前と同じ服装でいいのか、もう少し地味にしたほうがいいのか、悩みに悩む。
話しかけてきた同僚は未婚だ。
ぐるぐるとあたりを見渡し、既婚者を発見した。
「あの…鈴木さん」
少し年齢は上だが、既婚者 鈴木の意見を聞くことにする。
鈴木は、初めて山田から声をかけられて驚いた。
「はい?え…なにか失敗しました?」
「いえ。実は、今週末に夫とで、デー…かけるのですが、どのような服装で行くべきか悩んでおりまして」
「あら、旦那さんとデート?いいわね~。うちなんて、もうご無沙汰よ~」
鈴木はそう言って笑う。
「旦那さんとデート、されていたときは、どんな格好で行かれましたか?」
鈴木は茶化したいようだが、清子は真剣である。
「どうって…いつもの…こんな格好で、ちょっといい服?だって旦那よ?これ以上、どうしようもないじゃない」
鈴木がそう言った。
♥何を言ってるの!?
正さんとのデートだから、失敗したくないのに。
ダメだ。
やっぱり自分で調べよう。
誰かに頼るのはやめて、スマホと格闘する清子であった。




