14 宅配ピザですが何か?
「…すみません。妹が」
正はしばらくして清子にそう言った。
「いえ、私も驚いてしまって、見送りもせずに申し訳ありません」
そう言って、2人で頭を下げる。
♥夫婦っぽくないって何?
♠夫婦っぽくないって、どういうことだ?
2人とも、陽子が言ったことの意味がわからない。
「ピザを注文しましょう」
気を取り直して、宅配ピザを注文することにした。
ただ、2人とも、宅配ピザを注文したことがなかった。
2人とも自炊派だったので、宅配自体利用したことがない。
スマホで宅配ピザを調べてみる。
配達エリアやらなにやらと、わけのわからないことが書かれていた。
「俺が注文しますね」
宅配ピザを注文しようと言った手前、自分が注文したほうがいいだろうと思ったのだ。
「どのピザにしましょうか?」
そう言われて、清子が正のスマホをのぞきこむ。
♥♠近いっ!!
スマホを2人で見ようとすると、自然と顔が近くなる。
「す…すみません。視力はいいほうなんですが」
「いえ。画面、小さいですよね。ああ、拡大、拡大すれば大丈夫です」
2人はあたふたしながら、再度画面を見た。
「……」
2人ともマルゲリータしか味の予想ができない。
照り焼きソースやら、チリソースやら、ソースの種類なども色々とあるようだけど。
どんな味なのか想像できなくて注文するのを躊躇った。
「マルゲリータ、でいいと思います」
清子がそう言った。
「そうですね。マルゲリータ2枚で」
こういうときは、2種類を注文してシェアして食べるといいということを知らない2人だった。
正が悪戦苦闘の末、マルゲリータ2枚とサラダ、スープを注文した。
「30分で届くようです」
「便利ですね」
そう言って正は着替えのために部屋に戻った。
清子は陽子が使っていたカップを洗って、新たにお茶を淹れた。
正にお茶を出して、陽子と話したことを伝える。
「なるほど。陽子の家では家事の分担ができていないんですね」
「そのようです。ただ、子どもがいると分担が難しくなるのも事実ですよね」
清子にそう言われたけれど、正にはピンときていなかった。
「どうしても、子育ては母親がやるものだという観念が強いですし。子どもは何をするかわからない生き物ですから、父親か母親のどちらかが振り回されるか、2人とも振り回されるもののようです」
清子がそう言うと、正は「なるほど」と言った。
ただ、やっぱりピンとはきていない。
「清子さんは、子どもがほしいですか?」
そう言われて、清子は戸惑った。
「そうですね。出生率を考えると、少しは貢献しないととは思います」
口からそう出てきて、清子は固まった。
♥出生率とか考えたこと1度もなかったのに、どうしてそんなこと言っちゃったのかしら?
♠出生率…たしかに、出生率は下がっていると言われているけど。
変な沈黙が流れる。
ぴんぽ~んと玄関チャイムが鳴った。
「あ、宅配ピザですね」
正が財布を掴んで立ちあがった。
ピザを2人で黙々と食べる。
さっき話していたことが頭から離れなかった。
♠清子さんはずっと図書館司書になりたいと思っていたみたいだから、仕事に支障が出る出産はしたくないと思っているのかもしれない。
♥正さんは、私との子どもが欲しいと思っていないのかしら。
♠思えば、子どものことに関しては2人で話し合ったことがなかった。
こんな大事なこと、結婚前に話し合っておくべきだったのに。
♥正さんと結婚できると思ったら嬉しくて、結婚のことばかり考えていたわ。
子どもをどうするか、ちゃんと計画をしておかなくてはいけなかったのに。
「宅配ピザ、美味しいですね」
「そうですね。サラダに使われている野菜も新鮮です」
「……」
♠♥今さら、子どもをどうするかなんて聞けない。
♠男のくせに、そんなことも考えていなかったのかとか言われたくない。
いや、清子さんなら、俺の女神ならそんなこと言わないだろうけど。
♥いまさら子どもの話なんかして、めんどくさい女だと思われないかしら。
正さんは子どもを作るのに乗り気じゃないみたいだし…
清子がそう思ったのには、わけがある。
結婚して半年。
2人はまだ、プラトニックな関係だった。
♥実は男性が好きなんです、と言われるかと思ったけど。
そういう感じでもないし。
ただ、そういう行為が嫌いなだけなのかなと思っていたけど。
もしかしたら子どもが嫌いなのかもしれないわ。
清子はそう考えて尋ねることができなかった。
♠度胸がなくて女神に触れられずにいたけど。
清子さんは特に気にする様子もなかったし。
もしかしたら、子どもを作りたくなくて安心されていたのかもしれない。
正は正でそう考えて、尋ねることができなかった。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした」
モヤモヤしたまま、2人の初めての宅配ピザでの食事は終了した。




