第91話 すぐに吐き出して
ギアの街を襲った魔境の底の魔物、エンペラーギガトード。
この巨大カエルを無事に討伐し、街を守った僕たちは再び魔境『無明の竪穴』の探索に乗り出した。
まだまだアダマンタイトの量が足りていないからね。
アダマンタイトは世界で最も硬いとされている鉱物の一つで、この魔境の深部で採掘することができる。
Bランク冒険者のローザさんたちは、Aランク冒険者を目指し、アダマンタイトの武具をそろえようとしているのだ。
「〈失せ物探し〉! こっちのようです」
漆黒の鉱物であるアダマンタイトを、四六時中ずっと真っ暗なこの魔境内で発見するのは決して簡単なことではないのだけれど、幸いにも僕の生活魔法を使えば、その位置を特定することができた。
「あっ、ありました!」
お陰でどんどんアダマンタイトが見つかっていく。
もちろん魔境の深部には、凶悪な魔物ばかり棲息している。
僕たちも前回の探索の際、魔物の襲撃を受け、パーティが散り散りになってしまったし。
だけど今回は強力な味方がいた。
「グルアアアアア――」
「――パクッ!」
上から飛びかかってきたワイバーンを、長い舌で捕まえて丸呑みしてしまう。
「あのリーパーテイルを……瞬殺してしまいましたわ……」
「つ、強すぎるのだ……」
「……これもう、あたしたち何もしなくていいんじゃ?」
「ひひひ……さすが、ゲコちゃん……」
その味方というのは、アンデッド化したエンペラーギガトードだ。
巨大カエルの死体に〈ペット飼育〉を使ったら、なぜか大人しく命令に従うようになったので、探索に連れてきたのである。
――〈お便り〉を習得しました。
ちなみに巨大カエルが魔物を倒すと、僕の経験値になるみたいだ。
「要するにライルくんの生活魔法で、魔物すらもペットにできるということですわね……」
「そ、それはつまり、魔物の軍勢を従えること可能なのだ……? 出鱈目すぎる……もはや魔王なのだ……」
ローザさんが呟くと、アルテアさんが頭を抱えて呻く。
「はは、さすがにそんな真似はしませんよ」
僕が苦笑していると、カーミラさんが巨大カエルにすり寄って、
「ああ、ゲコちゃん……最高……でも、背中に竜種の翼があったら、もっと最高かも……今度つけてもいい……?」
パクッ!
食べられちゃった!?
「ちょっ、カーミラさんを食べちゃダメだって!? すぐに吐き出して!」
ペッ!
「……何で……私には……懐いてくれないの……」
床を転がりながら嘆く死霊術士のカーミラさん。
彼女の死霊魔法では、巨大カエルを支配下に置くことができないようなのだ。
「臭っ……ちょっとあんた、こっちに近づかないでよっ」
巨大カエルの体液まみれになったカーミラさんに、タティさんが顔を顰めながら辛辣な言葉を浴びせる。
「〈汚れ落とし〉」
……確かに臭いので、キレイにしておこう。
「汚れ落としでコイツの辛気臭さも取り除ければいいのにねぇ」
「黙れ、淫乱クソビッチ……お前の能天気な脳みそこそ、早急に取り除くべき……」
「さすがに言い過ぎでしょ!?」
「陽キャに……慈悲はない……」
また喧嘩してる……。
性格が陰と陽で真逆な二人は、犬猿の仲なのだ。
ともあれ、巨大カエルのお陰で、魔境の深部も余裕で探索することができた。
身体が大き過ぎて一部の横穴を通れず、遠回りが必要な場面も多かったけれど。
「っ……地面ですわ!」
「まさか、穴底なのだ?」
やがて僕たちは最初にこの巨大カエルと遭遇した、竪穴の底へと辿り着く。
漆黒の闇の中に大量の骨が散乱している地獄のような光景だけれど、すべて巨大カエルの仕業で、それを味方にしてしまった今は何も恐ろしくない。
「骨骨骨骨骨骨骨っ……またこの天国に来れるなんて……っ!」
カーミラさんにとっては天国らしい。
「骨ならまた〈小物収納〉で持ち帰りますから。それより先にアダマンタイトを回収しましょう。すぐ近くにあるはずです。それも多分かなりの大きさです」
〈失せ物探し〉の反応に従い、しばらく進んでいくと。
「っ! あったのだ! ……けど、そんなに大きくないのだ?」
見つけたのは、せいぜい手のひらサイズのアダマンタイトだ。
「まだ分かりませんわ。見えている部分だけは判断できませんの」
壁に嵌った状態なので、実際の大きさは採掘してみないと分からない。
「なら早速、取り出してみるのだ」
アルテアさんが巨大なハンマーを振りかぶる。
「でえええええええええええええええいっ!」
ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!
アダマンタイトの周りの壁が破壊されて、瓦礫が地面を散らばった。
だけど、アダマンタイトはまだ落ちてこない。
それでも壁が壊れたことで、奥に隠れていたアダマンタイトが露わになった。
「なっ!? なんて大きさなのだ!?」
アルテアさんが叫ぶ。
「直径三十センチはありますわ! 今までで最大ですの! ……い、いえ、まだ埋まっていることを考えると、もっと大きい可能性も」
それからアルテアさんが何度もハンマーを叩きつけ続けた。
「ぜぇぜぇっ……ま、まだ落ちてこないのだっ! さ、さすがの吾輩も疲れたのだ……っ!」
疲労困憊になるアルテアさん。
一方、アダマンタイトはというと、すでに露出している部分だけで五十センチを超えている。
途轍もないサイズだ。
「げこげこ」
「え? 手伝ってくれるって?」
「げこ」
巨大カエルの舌が伸び、アルテアさんの持つハンマーを奪い取る。
「そ、それは吾輩の……」
抗議しようとするアルテアさんを余所に、巨大カエルはその長い舌でハンマーを大きく振りかぶると、アダマンタイトが埋まっている壁に叩きつけたのだった。
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!
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