第103話 余計なことを言ったせい
ダンジョンに入ってすぐのところで、僕は亜空間に保管していた岩系の素材を取り出した。
「〈日曜大工〉!」
「少年はいきなり何をやっているのだ?」
「入り口に家を建てておこうと思いまして。そうすれば何かあっても〈即帰宅〉ですぐに戻ってこれるので」
「……なるほどなのだ」
できあがったのは犬小屋レベルの小さな小屋だ。
だけど鍵も付いていて、ちゃんと家として認定される。
『灼炎迷宮』の中は、溶岩が冷えて固まってできた火山岩の岩場が広がっていた。
「ごつごつしていて歩きにくいのだ!」
「手で触っただけで切れてしまいそうですの。転倒しないように気を付けて進まないといけませんわ」
黒い岩をよく見ると、どこも穴だらけだ。
刃物のような凹凸もあって、歩くだけでも非常に危険だ。
「こんなときこそ、〈歩行補助〉! これで転ぶ心配はほぼないはずです」
先に進んでいくと、溶岩が流れている場所へと突き当たった。
かなり幅が広く、渡るのは容易ではないだろう。
「〈失せ物探し〉の反応はこっちの方からなんですけど……迂回するしかなさそうですね」
アルテアさんがポンと手を打った。
「良いアイデアを思い付いたのだ! 少年の〈水生成〉で冷やしてみるのだ! そうすれば溶岩が固まって、上を歩けるようになるはずなのだ!」
「うーん、そんなに上手くいきますかね?」
「……なんとなく危険な気もしますわ。理由は分かりませんが、強いて言えばアルテアのアイデアだという点でしょうか」
「何でなのだ!? 吾輩だってたまには妙案を出せるのだ!」
たまにはと自認してるのが悲しい。
「分かりました。試しにやってみますけど、念のためできるだけ離れて、岩の影にでも隠れておきましょう」
「ふっふっふ、きっと完璧な橋が完成するのだ!」
「〈水生成〉」
行く手を阻む溶岩目がけ、僕は大量の水を放出した。
そして溶岩と水が激突した、次の瞬間だった。
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!
「「「「~~~~~~~~~~っ!?」」」
爆音と共にこちらへ猛スピードで迫ってくる煙、いや、水蒸気。
慌てて岩の影に身を潜めたけれど、全身が凄まじい高熱に包み込まれる。
「ななな、なんで爆発したのだああああああああっ!?」
「やっぱり嫌な予感がした通りでしたの!」
「これ〈冷房〉がなかったら死んでたわよ!?」
「……死んだかと……おもた……」
幸い〈冷房〉のお陰で熱さに耐えることができた。
「だ、だけど、これで橋ができたはずなのだ!」
やがてゆっくりと水蒸気の煙が晴れていくと、溶岩の上には冷えて固まってできたと思われる黒い塊があった。
「ほら! 上手くいったのだ! あれを足場に……って、流れていくのだああああっ!?」
しかし橋と違って固定されていないため、あっさり流れていってしまった。
「……お、惜しいところだったのだ」
「いえ、ぜんぜん惜しくなどありませんでしたわ?」
「ドロドロの塊でしたし、どのみち足場にはできそうになかったですね」
やっぱり迂回していくしかなさそうだね。
幸い上流の方に少し進むと溶岩流が分岐していて、簡単に飛び越えられそうになっていた。
〈重さ軽減〉を使えば、僕の身体能力でも余裕だ。
「シャアアアアアアッ!!」
「っ、魔物ですわ」
そんな僕たちの前に立ちはだかったのは、真っ赤な鱗を持つ二足歩行のトカゲ。
リザードマンの亜種、フレイムリザードだ。
フレイムリザードは長い槍を手に、俊敏な動きで距離を詰めてくる。
「はぁぁぁっ!」
だけどその槍の間合いに入る前に、ローザさんの鞭が鋭く唸った。
フレイムリザードの顎を直撃し、牙が数本まとめて吹き飛ぶ。
脳を揺らされたのか、ふらふらとよろめくフレイムリザードへ、今度はアルテアさんが躍りかかった。
「でやああああああっ!」
大剣がフレイムリザードの頭を両断。
赤いトカゲは絶命して地面に倒れ込んだ。
「気を付けて。どうやら一体だけじゃなかったみたいよ」
「群れる……タイプ……」
近くの溶岩流の中から、フレイムリザードが続々と姿を現した。
どうやら溶岩の中を泳いで移動できるらしい。
全部で七体のフレイムリザードが一斉に襲い掛かってくる。
けれど数が多いとはいえ、あの過酷な魔境で戦ってきたばかりのローザさんたちにとって、決して難しい相手ではなかった。
ローザさんの鞭が激しくしなり、赤いトカゲたちへ全体攻撃をお見舞いした。
それで怯んだところへ、アルテアさんの大剣が閃き、タティさんの蹴りが炸裂する。
さらにカーミラさんが死霊魔法で召喚したアンデッドキメラのケルちゃんが、その巨大な顎で赤いトカゲを次々と噛み殺していく。
「僕もサポートします! 〈食材切り〉!」
相手は比較的食用にできそうなイメージがあるトカゲなので、〈食材切り〉も割と効果を発揮した。
そうしてリザードマンの群れを一掃した僕たちだったけれど、ダンジョンの洗礼と言うべきか、そこから幾度となく魔物と遭遇することに。
灼熱の溶岩に覆われた甲羅を持つ巨大な亀の魔物、マグマタートル。
炎の息を吐きながら空から急襲してくるカラスの魔物、バーニングレイヴン。
体表が鋭い黒曜石と化したイノシシの魔物、オブシディアンボア。
どれもこのダンジョン特有の魔物ばかりだ。
ただ、いずれも問題なく倒すことができた。
「ふふん、魔境深部の魔物と戦ってきた吾輩たちの敵ではないのだ!」
「また調子に乗ってますわね……。そんなこと言っていると、強敵が現れるかも――」
「気を付けてください! 溶岩の中から強敵が近づいてきてます!」
「言った傍からなのだ!?」
直後、溶岩から巨大な影が飛び出してきた。
全長十メートルをゆうに超える、大型の魔物だ。
「「「ゴーレム!?」」」
土や岩で構成された身体が意思を持って動く、無機物系の魔物。
それがゴーレムなのだけれど、目の前に現れた魔物は溶岩を全身に纏っていて、恐らくラヴァゴーレムだろう。
「アルテアが余計なことを言ったせいですわ!」
「さすがにたまたまなのだ!?」
そのラヴァゴーレムが腕をブン回すと、溶岩の雨がこちらへ勢いよく降り注いできた。
「「「~~~~~~~っ!?」」」
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