第102話 入ると溶けてしまう
すべての一級鍛冶師の工房を回ってみたけれど、そのほとんどで断られ、受けてくれるとしても半年以上先の話だった。
しかもアダマンタイト製の武具をパーティ全員分となると、作成にも数か月はかかるそうだ。
「仕方ありませんわ。むしろアダマンタイト製の武具の希少性を考えれば、それくらい待つ価値は十分にありますの。半年先ならと言ってくれた工房のどこかに依頼してみますわ」
「ちょっと待ってください。あと一か所、もしかしたら一級鍛冶師の工房があるかもです」
「あるかも、なのだ?」
〈道案内〉が示す矢印たち。
それが一級鍛冶師の工房を教えてくれているのだけれど、その中に気づきづらいほど小さな矢印があったのだ。
「どうしてこんな消え入りそうなサイズの矢印になっているのか分からないですけど、とにかく行ってみましょう」
そうしてその極小矢印に従って進むと、やってきたのはとても一級鍛冶師の工房とは思えない、随分と年季の入った建物だった。
しかも他の工房よりずっと小さい。
「ここに一級鍛冶師がいるんですの?」
「よくて三級、いや、四級鍛冶師ではないのだ?」
ドアをノックしてみる。
だけど返事がなかった。
「もしかして不在なのかな?」
それで〈道案内〉の矢印が小さかったのだろう。
そのときちょうど近くを通りかかったドワーフに声をかけられた。
「おい、お前さんたち、その工房に用があんのか?」
「え? はい、ここが一級鍛冶師の工房だって訊いてきたんですけど……」
「悪いことは言わねぇから、やめといた方が良いと思うぜ? そこの鍛冶師はとんてもねぇ奇人でよ。一級鍛冶師だけあって腕は確かなんだが、これまでに何人もの依頼者が半殺しにされてるって話だ」
依頼者を半殺し!?
一体何があったらそんなことに……。
「ちなみに今は不在だぜ。『灼炎迷宮』に行ってるはずだ」
「『灼炎迷宮』ですの?」
「ああ。火山の火口に入り口があるダンジョンだ。そこで武具の試し切りか、素材探しでもしてるんだろう」
どうやら件の一級鍛冶師は武闘派で、自分で打った武具の性能を確かめたり、自ら鍛冶用の素材を探したりしているようだ。
「なかなかヤバそうな鍛冶師なのだ……」
「ですが依頼してみる価値はあると思いますわ」
「え、ローザ、本気なのだっ? 半殺しにされたらどうするのだっ?」
「こちらはAランク冒険者を目指している身ですのよ? 鍛冶師相手に恐れをなしてどうするんですの?」
ちょっとクセの強そうな鍛冶師だけれど、逆に穴場かもしれない。
「一応、俺は警告したぜ? ちなみにその鍛冶師の名はゼッタ。アラサーくらいの女だ」
ドワーフでも割と珍しい女性鍛冶師らしい。
「人を捜すとなると〈道案内〉は使えないですけど、代わりに〈失せ物探し〉が使えると思います」
というわけで、僕たちは火山の火口にあるというダンジョン『灼炎迷宮』へと向かった。
火口は山腹にあるため、ドワーフの街を見下ろしながら急峻な斜面を登っていく。
まぁ急峻といっても、魔境深部の斜面に比べればずっと緩やかだけど。
「ここが火口のようですわね」
「綺麗な色の水が溜まっているのだ! 湯気も出ているし……もしかして温泉なのだ!?」
火口には美しいエメラルドグリーンの色合いをした火口湖があった。
「これはもしかして、ダンジョン探索前にひとっ風呂浴びていけという意味なのだ!?」
いや、普通に熱すぎて入れないんじゃ?
「強酸性のお湯で、入ると溶けてしまうと思いますわ」
「ひぇっ!?」
温度だけの問題じゃなかったようだ。
ダンジョンの入り口は、その火口湖から少し逸れたところにある断崖絶壁の足元にあった。
僕たち同様ダンジョンに挑戦するつもりなのか、冒険者らしき集団の姿もある。
その大半がドワーフだ。
同胞に作ってもらったのか、明らかに量産品とは一線を画す武具を身に着けている。
そのうちの一人がこちらに気づいて声をかけてきた。
「まさかとは思うが、お前さんたち人族か?」
「ええ、見ての通りですの」
何かいちゃもんでも付けられるのかと思ったら、
「おいおい、そんな装備じゃ危険だぞ? このダンジョンの中は常に灼熱で、儂らのように火や熱に耐性がなければ、耐熱効果を付与した装備が必要だ。そんな恰好じゃ、三十分も探索できずに熱中症になって死んじまうぞ?」
こちらのことを心配してくれているらしい。
先ほど警告してくれたドワーフといい、彼らは確かに全体的に荒っぽい態度と口調だけれど、人情味のある種族のようだ。
「大丈夫です。僕の魔法で対策できますので」
〈冷房〉を使えば、高熱のダンジョン内でも涼しく探索ができるはずだ。
「おっと、そうだったか。なら心配ねぇな。余計なお世話だったみてぇだ」
「いえ、お気遣いありがとうございます」
そのドワーフは仲間たちと一緒にダンジョンへと入っていった。
「さて、あたくしたちも行きますわ」
そうして僕らもダンジョンへと足を踏み入れる。
すると猛烈な熱が全身に襲い掛かってきた。
「これは確かに凄い熱さね!」
「……すぐ死ねるレベル……」
目を開けているのも辛いほどで、一瞬で汗が噴き出してくる。
「〈冷房〉!」
「一気に涼しくなったのだ! さすが少年!」
「ですが気を付けなければいけませんわ。仮にライルくんと逸れてしまって、そこで効果が切れてしまったら一巻の終わりですの」
「そ、それは怖すぎるのだ……」
「特にアルテア、あなたは勝手にあちこち行ってしまう悪癖がありますから、注意してくださいまし」
「……はいなのだ」
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