第101話 どいつもこいつも性格が悪いわね
大陸西部には、海へと大きく突き出す半島が存在している。
ドワーフたちが治めている火嶺王国は、その半島の中央あたりにあった。
ちなみに人間側の呼称が火嶺王国で、ドワーフ側の正式名称はドゥル=ヴァルド。
ドワーフたちの昔の言葉で、ドゥルは岩や砦の、ヴァルドは火や山といった意味があるらしい。
「見えてきましたわ。あれがドワーフの国ですの」
「大きな山があるのだ!?」
「グラン=ヴァルカル……ドワーフの言葉で偉大な火山と呼ばれている山ですわ。あの火山からの熱を利用することで、ドワーフたちは鍛冶を行っているそうですの」
ドワーフの国の各都市は、この火山の麓に点在しているという。
彼らは昔から火山の熱を活かした暮らしをしており、中でも温泉は鍛冶と匹敵するほどの名物だとか。
「温泉!? それは良いことを聞いたのだ! せっかくだし、まずはひとっ風呂浴びて、旅の疲れを癒すのだ!」
「いえ、まずは依頼する鍛冶師を探しますわ。全員分の武具を打ってもらうとしたら、相応の時間がかかるはずですの。ゆっくり温泉に浸かるのは、依頼を終えてからでも十分ですわ」
アルテアさんの意見は即座に却下され、僕たちはいくつかある都市の中でも、最も多くの鍛冶工房があるとされる万炉都ドゥル=フォルガへとやってきた。
道行くのはやはりドワーフばかり。
背丈はあまり高くないけれど例外なく筋骨隆々の体躯で、みんな鍛冶師なのか、ほぼ例外なく背中にハンマーを担いでいる。
立ち並ぶのはドワーフらしい質実剛健な石造りの家々だ。
その中に無数の煙突が乱立していて、そこから常に煙がもくもくと昇っている。
あちこちから金属同士を打ち付けるような音が響き渡り、人間の都市とはまた違った熱気に溢れていた。
〝一万の炉を持つ都〟が都市の名の由来というだけあって、本当にたくさんの工房があるみたいだ。
「なんだか面白みのない街ねぇ。娯楽とかなさそうだし」
「……いかにも職人気質な街……ひひひ……悪くない……」
相変わらずタティさんとカーミラさんの意見は正反対だ。
「でもこれだけ工房がたくさんあると、どこに依頼するのか迷いますね?」
「いいえ、これだけ工房があっても、依頼できる工房は限られていますの」
「そうなんですか?」
「ええ。いかに鍛冶に長けたドワーフとはいえ、アダマンタイトを加工できる鍛冶師はそう多くありませんわ」
ローザさんが言うには、アダマンタイトを加工できるのは一級鍛冶師だけだという。
一級鍛冶師は、千人を超えるというドワーフの鍛冶師たちの中でも頂点に位置づけられる存在で、せいぜい十人程度しかいないのだとか。
「それだけアダマンタイトの加工は難しいものなのですわ」
「なるほど……。じゃあ、ともかく一級鍛冶師を探していけばいいわけですね!」
一級鍛冶師の居場所なら、その辺の工房で訊けばすぐに教えてくれそうだ。
というわけで、適当に近くの工房へ入ってみると、
「ああん? もっと大きい声で言わねぇと聞こえねぇよ! は? 一級鍛冶師だと? そんなの自分で探しやがれ!」
「うちで武具を打ってほしいのか? え? 違う? じゃあ入ってくんじゃねぇ!」
「一級鍛冶師のいる工房? はっ、よその工房のことなんて知らねぇよ! せめて酒くらい持ってこい!」
どこに行ってもそんな感じで、まったく取り合ってもらえなかった。
「どいつもこいつも性格が悪いわね? ドワーフってみんなこんななのかしら?」
「……前言撤回……最悪の街……」
珍しくタティさんとカーミラさんの意見が一致する。
「確かにドワーフは荒っぽいところもありますが、決して悪い方々ではないはずですわ。ただ、自身の鍛冶の腕に対してプライドを持っていて、他の工房の鍛冶師のことを聞かれてカッとなってしまったのでしょう」
「これではなかなか見つからないのだ。……やっぱりいったん温泉で一休みするのがよいのだ!」
「えっと、多分、僕の〈道案内〉が使えると思いますよ」
〈道案内〉はその名の通り、目的地までのルートを矢印で教えてくれる生活魔法だ。
今回のように目的地が少し曖昧な場合にも使うことができる。
「〈道案内〉! ……あ、矢印がいくつか出ました。一級鍛冶師が何人かいるからだと思います」
矢印に従い、順番に一級鍛冶師の工房を訪ねてみることに。
最初にやってきたのは、街の入り口から割と近い場所にある工房だった。
「ここですね」
「外観は他の工房と大差ないのだ」
「とにかく入ってみますわ」
工房内にいたのは今まで見てきたドワーフたちと比べると、二回り以上も身体の大きなドワーフだった。
身長も一・八メートルくらいはありそうだ。
「何だ? 儂の工房に何か用か?」
「武具を打っていただきたくて参りましたの」
「……生憎と今は仕事が三年先まで詰まっておる。他の工房を当たってくれ。幸いこの街なら腐るほどある」
三年先!?
……さすがは一級鍛冶師だ。
「いえ、普通の工房ではダメですの。あたくしたちは魔境『無明の竪穴』の深部で、アダマンタイトを手に入れてきましたの。これを素材に武具を打てるのは、あなたのような一級鍛冶師だけですわ」
「ほう、アダマンタイトか。それなら興味はあるが……しかしどんなに短く見積もっても、受けられるのは半年後だな」
「半年……わ、分かりましたわ。他の一級鍛冶師の工房も当たってみますの」
工房を出た僕たちは顔を見合わせる。
「ちょっと舐めていましたわね。まさか、そんなに先まで予定が埋まってしまっているとは思いませんでしたわ」
「そうですね……でも、まだ他にも一級鍛冶師はいますし、懲りずにどんどん行ってみましょう!」
矢印に従い、僕たちは一級鍛冶師の工房を訪ねていった。
「ううむ、今は某国の王に頼まれた武具にかかりきりでな。一年くらい待ってくれれば対応できるかもしれん」
「忙し過ぎて無理。まぁ金貨五千万枚くらい出してくれたら考えてもいいけど」
「え? アダマンタイトを素材に武具を? そいつはなかなかそそられる依頼だな! ぜひ受け……あ、いや、ちょっと難しいな……嫁さんが殺気に満ちた目でこっち見てきてるし……これ以上、仕事を増やしたら今度こそ殺される……」
……うーん、これはちょっと厳しいかも?
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