第100話 こんなキモいやつのどこが食材よ
「〈ペット飼育〉! ……効いたかな? ちょっとワンワン吠えてみて?」
「ワンワン! って、このオレに何をやらせやがる!?」
「うーん、やっぱりあまり効果がないみたいだね」
獣人には抜群の効き目だったけれど、やっぱり人族には効果は薄いようだ。
「次はニャーンって鳴いてみて」
「ニャーン! まただ!? どうなってんだ!?」
「まぁでも、まったく効いてないってわけでもなさそうだね」
続いて僕は別の生活魔法を試す。
「〈食材切り〉」
「いでぇっ!?」
「うえ、ちょっと効いちゃった」
〈食材切り〉はどうやら人が相手でも使えてしまうらしい。
ただし、二の腕の辺りが少し切れた程度だ。
もっと効果があれば、対人戦にも使えるかなと思ったんだけど、さすがにこの威力では難しそうだ。
だけど〈食材切り〉が通用するかどうかは、僕のイメージが重要なので。
「頑張って食材だと思えば……」
「こんなキモいやつのどこが食材よ?」
「だよね。せめてもう少し清潔感があればなぁ」
「こいつは清潔感でどうこうなるレベルじゃないわ」
「確かに。存在からしてダメかもね」
「おいテメェらさすがに好き勝手言い過ぎだろ!?」
続いて別の生活魔法を試してみる。
「〈胃腸活性〉」
「それは何?」
「名前の通り胃腸を活性化させる魔法だよ。石とか金属とか、そういうやつでも食べれるようになるのか試してみようと思ってさ。さすがに自分では試せなくて」
「それってつまりオレは今から石とか金属とか食わされるってことか!?」
絶叫するドリアルとは対照的に、シルアは楽しそうに笑って頷く。
「なるほど、なかなか面白そうな実験ね。毒とか汚泥とか、あとは動物の糞なんかも試してみたらどう?」
「余計なこと言うんじゃねえええええっ!!」
「いいね、それ!」
「よくねぇよおおおおっ!?」
こうして僕は、生活魔法の実験に使える人間を手に入れたのだった。
身体は頑丈だし、精神的にも強そうだから、多分ちょうどいい被験者だと思う。
今後も色んな魔法を覚えたら、この男で試してみるとしよう。
「もういっそ早く殺してくれえええええええええっ!」
そしてハイゼル峡谷での勝利からすぐに、シュネイル伯爵家の使者がやって来た。
使者の言葉を要約すれば「今回の侵攻、本当に申し訳ありません。今後二度とこのような侵略行為は行わないと誓います。だから報復はやめてください」という意外な内容だった。
三千超もの軍で侵攻しながらあっさり撤退させられ、しかも指揮官まで敵の手に落ちるという完敗ぶりだ。
いかに好戦的なシュネイル伯爵家とはいえ、フェリオネアと喧嘩をしてはマズいと思ったのだろう。
……そう油断させておいて、って可能性もゼロじゃないけどね。
まぁ今後も要警戒ってことで。
「すべてはお前さんのお陰だ! フェリオネアを代表して礼を言わせてくれ! そしてお前さんを少しでも疑っちまった俺が間違いだったぜ!」
ゼファルさんが頭を下げてくる。
「はは、僕はちょっとサポートしただけですよ……って言うと思うわ」
「はは、僕はちょっとサポートしただけですよ……って、シルア!?」
「一言一句同じだったぞ……?」
そうしてフェリオネアを後にし、アーゼルの家に戻った僕は、待っていてくれたローザさんたちにお礼と謝罪をした。
「すいません、思ったよりも時間がかかっちゃって」
「気にする必要はありませんわ。それより、街の治安は回復しましたの?」
「はい。犯罪グループはすっかり一掃されました。それに近くの領地の軍が攻め込んできたりもしましたけど、無事に撃退できました」
「……それ、詳しく聞かせてもらえますの?」
犯罪グループの構成員たちを〈ペット飼育〉で更生させた後、突如として侵攻してきたシュネイル軍を峡谷に〈日曜大工〉で砦を作って迎え撃ち、返り討ちにしたことを話した。
「ほんの数日でそんなとんでもない活躍をしてきたのだ!?」
すべて聞き終わるや、アルテアさんが叫ぶ。
「はは、僕はちょっとサポートしただけですよ……って、また同じこと言っちゃった」
「あ、相変わらずですわね……。もはやあたくしたちのパーティでは荷が重いのでは……」
ローザさんの呟きに、僕は慌てて反応した。
「えっ? や、やめてくださいよ!? まさかまたクビとか言わないですよね!?」
僕は前にいたリーゼさんのパーティをクビになり、それでローザさんのパーティに加わったばかりなのだ。
「大丈夫ですわ。……まだ今のところは」
今のところはって……。
「とにかく、ライルくんと合流できましたし、ドワーフの国へ向かいますわ。ここから普通に旅をすると一か月はかかるはずですが、ライルくんの生活魔法があればかなり短縮できるはずですの」
そうして僕たちはアーゼルを発った。
もちろん〈歩行補助〉を使っての移動で、馬車を使うよりもずっと速い。
「〈快眠〉や〈気分転換〉を使えば休息なんてほぼ必要ありませんし、〈視力向上〉と〈注意報〉で夜道の移動も心配ありませんし、食事は〈小物収納〉や〈味付け〉などでいつでも新鮮で美味しいものを食べることができる……世界広しと言え、こんな快適で時短な旅をしている冒険者パーティは他にいないと思いますわ」
結果、一週間もかからずにドワーフの国――火嶺王国ドゥル=ヴァルドへと辿り着いたのだった。
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