エピソード32 親バカ
エリオットがレミリア王女と結婚して3ヶ月経った。
「もし止めてなかったらどうするつもりだ?」
王子は気になっていた。エリオットが首を切ろうとした時、王子が止めた。
実際はエリオットの臭い芝居だったのだが、もしあの時止めていなかったら本当に死ぬつもりだったのか?
「王子なら絶対止めてくれると信じてましたよ、そして実際止めてくれた、感謝してます」
「もし止めないという選択を取るとしたら?」
「それは絶対あり得ないですね、王子は私が次の戦争の鍵だという事に気づいてる、そうでしょ?」
「まぁな、実際にエリオットが重要な戦力なのはバカでも分かる、でもそこで他人を信じるのは普通の人間だったら躊躇する筈だ」
「私は信頼してるんですよ、自分の能力、実績、そしてそれを正当に評価してくれるレオタード王子の力をね、この国の未来は私と貴方で決まる」
「王国史上最速で二番隊隊長に登り詰めただけあって、流石の自信だな」
「自信ではなくて確信ですよ、私には未来が見えます」
レオタード王子は、二番隊の全体訓練を見に来ていた。
戦争の足音が近づき、城や街の一部は慌ただしくなる。国民も国の異変に勘付いていた。
「最近始めた槍の訓練は順調か?」
「まずまずですね、戦争が開戦するまでには仕上げますよ」
エリオットが渋い顔で答える。
想定よりまだ上手くいってないのだろう。重い空気が流れたのでレオタード王子は空気を変える。
「妹の調子はどうだ、新婚生活は上手くやっているか?」
「お陰様で毎日晩御飯を一緒に食べるくらいには仲良く過ごしてますよ」
「夜の方もか?」
「・・・」
エリオットから反応はないが頬が紅くなったので、思っていた以上に順調なのが分かりレオタードは安心した。
エリオットは次第に迫る戦争への恐怖を目の前の幸せで誤魔化していた。
外面は軽薄で言動とノリが軽いが中身は意外に一途である、目の前に居る男と違って…
エリオットの前に居るのは第一王位継承権を持つレオタード・ライブ王子である。王様の息子であり、次の王になる男である。
レオタードはエリオットと違い、正室の他に側室を3人迎えている。
世継ぎの事もあるが、ただ単に女好きが理由の大半を占める。
「私の夜の話が聞きたいから呼んだ訳ではないですよね、わざわざこんな所まで来てどうしました?」
エリオットは少し不機嫌そうに聞く。照れ臭いのだろう。
「ある噂を耳にしてな、あの二番隊隊長エリオットが奴隷を拾い育てていると、その子はどんな子だ?」
「アレスですか、そんなに気になります?」
エリオットは少し嫌な予感がした。
「あぁ、大いに気になる、現時点でリヒト人の血を引いた奴隷上がりの子供が二番隊では既にトップクラスの速さを持っていると聞いた、実に面白い」
「大体合ってますが間違っているのが二つ、一つは、既にアレスは二番隊で一番剣が速く鋭い、二つ目に私は全く面白くないですね」
エリオットの顔が数センチ近くまでレオタードに迫り詰め寄る。額と額がぶつかるが、互いに引くつもりはない。
「珍しく怖い顔するな、せっかく義兄弟になったというのに、そんなに手塩にかけた子を取られるのは怖いか?」
「アレスは私の切り札です、たとえ王子と言えどアレスを奪うのは辞めて頂きたい」
「嘘は良くない、学生時代の時の様に本音で話してくれ、今は二人だけで他に誰も聞いていないんだ」
「嘘?何がです?」
「次の戦争にアレス君を連れていくつもりはないだろ?」
エリオットは嫌な所を突かれた、面倒である。
「その時になって見なければ分かりませんね」
エリオットは誤魔化して逃げ道を探す。又しても目は泳ぎ、王子から顔を逸らす。
「生憎、私も未来が見れるから分かる、次の戦争にアレスは行かないとな」
もちろん二人とも未来など1ミリも見えていない。しかし未来など見えていなくとも見えるモノはある。
エリオットは、持ち前の頭のキレと的確な判断能力で戦争の状況が見え、レオタード王子はエリオットとの長い付き合いで考えが読める。
王子とエリオットはクライフ学校の先輩後輩という関係である。
学生時代から王子は王様と同様に、エリオットを可愛いがっていた。
「何故私がアレスを連れて行かないとでも?もしかしたら連れて行くかもしれないのに」
「いや絶対に連れていかない、確信を持って言える。アレス君は最初から切り札として考えて育てた訳ではない、あくまで自分が死んだ時の後継者として育てていた、そうだろう?」
「はぁ〜そんなにアレスの将来性に魅力を感じてるんですね、実に面倒臭いな」
渋い顔をする。流石に王子に言われたらエリオットと言えど逆らえない。
「勘違いしているがアレス君を奪う訳じゃない、ただ少しの期間貸して欲しいだけだ、しっかり後で返すよ」
「貸すってなんの為に?」
「私に娘が居るのは知っているだろう」
エリオットは思い浮かべるが、どの人の何番目か見当が付かない。
「どの子ですか?いっぱい居ますよね」
「もちろん一番目だ、第三王位継承権を持つレイナ・ライブさ」
エリオットは頭の中で記憶を辿る。
レイナ・ライブ王女はレオタード王子の正室の子供で長女である。
長女だった事もあり甘く育てられ、従者を困らせているという話を前に聞いた。城では有名な話である。
(よりによってレイナ王女か、最悪だな)
大体予想はついているが駄目元で聞いてみる。
「そのレイナ王女がどうしました?」
「来年から2年遅れではあるがクライフ学校に通わせる事にした、それで私の娘の従者としてアレス君と一緒に学校へ通わせて欲しい」
「分かっていると思いますがアレスは男ですよ、通常従者は同性が好ましいのでは?」
クライフ学校は全寮制であり、寮に入るの必須条件である。
クライフ学校の特色として貴族が多く、子供の従者を引き連れている者も多い。基本的に子供の従者1人に貴族の子供1人がベースである。
アレスはレイナ王女の従者に選ばれた。
普通であれば名誉な話であるがエリオットからしたら厄介である。
「戦争の話が上がってきてからはクライフ学校が怪しくなってきている、この前は貴族の子供が誘拐されたという話を聞いたからな。もしレイナが誘拐されたら学校ごと取り壊してしまうかも知れない、クライフ学校の為にも強い従者がついて欲しいんだ、エリオットには悪いがよろしく頼んだ」
(親子揃って娘に甘いな)
レオタード王子が頭を下げるの姿が目に焼き付く。3カ月前にも同じ光景を見た。
王族だろうが目的の為ならば頭を下げる。頭を下げられたら何も言えない。
「ハぁ〜休みの日は二番隊の訓練に参加させますよ」
エリオットは深いため息の後了承した。
オルグ温泉にて…
「槍の扱いは慣れた?」
「始めた頃よりは馴染んできたが、剣に比べたら全然だな」
「他は?」
「他の奴も似たり寄ったりだ、バーバラなんかまだグチグチ文句言ってるぜ」
「ハハハハ、まだ懲りずに文句言ってるなら逆に面白いよ」
周りにはエリオットとマテオしかいない。平日の昼間は空いていた。
彼らはこの時間に入浴する温泉が好きだった。しかし端から見たら税金泥棒に見える。
「アレスはどうするつもりだ?」
「予定通り、お留守番だね、連れては行かないよ」
「それがいいぜ、確かにアレスが居たほうが勝てるかも知れない、だけどよ、今のアレスが参加しても生きて帰ってくる確率は高く見積もっても半々だな」
「まだ私達が期待した姿とは程遠いか?」
「全体的に荒いな、そして持っている才能を持続させる能力が著しく低い、戦争に行ったら必ず体力が持たねぇ、だがその課題をクリアしたらアイツはこれから本物の鬼になるかもなぁ〜」
「アレス育成計画は、後何年掛かる?」
「少なくとも3年だな、まだ子供の身体から抜け出せてない、14の歳でやっと一人前って所だな」
「なら15歳で成熟すると思ってくれ」
「ん…なんでだ?」
「特別任務を頼まれた、今度王子の長女がクライフ学校に入学する。それの護衛兼従者にアレスが選ばれた、休みの日しか訓練出来ないから1年は遅れるだろう」
「こりゃぁまた、面倒くさそうなのにアレスも巻き込まれたもんだな」
マテオは半笑いで言った。エリオットはそれを見ても表情を変えず話を続ける。
「もしトラブルがあれば私の首とアレスの首が両方飛ぶかも知れない」
「ふん、これまた面白い冗談だぜ」
マテオは鼻で笑ったが
「冗談ではない、今のは大真面目な話だ」
エリオットはクスリともしていない。
「マテオは、王子と面識が無いから分からないかも知れないが今の王子ならな・・・」
「おいおい、お前は一応二番隊隊長だぞ、王子の一声で全て決まるってのか?」
「王子も自分の娘の話になると周りが一切見えなくなり親バカになる。王も孫のレイナ王女を溺愛しているし、もし仮にレイナ王女を死なせた場合絶対に死刑を宣告させられる」
現王様の娘と結婚した人の言葉は重い。実際、王様の圧力でエリオットは結婚せざる得なかった。
王様も王子もいつもは、国を一番に考えるが娘の話になると全ての権力を振りかざして国を私物化する。先日エリオットは身を持って体験した。
「でも、全て悪い話ではないさ、学校に行って同年代と触れ合うのも勉強だ。私達は少しアレスに詰め込みすぎた、この運命も全て良い方向に転がる筈だと期待してる」
「アレスが失敗したらお前は死ぬけどな、俺は知らねぇけどよ」
ポジティブに考えを持っていこうとしたがマテオが水を差した。
「・・・」
エリオットは優秀が故に抱えるモノが多い。
レミリア王女、アレス、二番隊、国を背負い、より未来が明るい方向に舵を切る。
アレスは重要な選択の連続で精神的に疲れていた。戦争が本格的に始まればもっと疲れ果てるのが分かり、精神が影と同化する。
皮肉にも結婚生活が予想以上に幸せなのが唯一の救いだった。




