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楽園〈エデン〉〜才能無しと言われた少年が失われた才能を継承する〜  作者: SS神威


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エピソード31 愛国心

 エリオットは王様に呼ばれていた。

理由は明白で少なくとも3年以内に戦争が始まるからである。

ルーラ教会が兵や武器を集めだしたという情報が伝わり、世界中が緊張状態に入る。


 ルーラ教会の狙いはライブプレスト王国の国土とクライフ学校の裁量権である。


 約100年前にあった三国世界戦争は、グラオザームVSライブプレスト王国とルーラ教会の連合軍の間で起きた。


 結果はグラオザームの大敗で全面降伏し、不利な条約を結ぶ事になった。

 

 ライブプレスト王国が勝利した事で結んだ条約は3つある。


 一つ目はグラオザームがライブプレスト王国に対して多額の賠償金を払う事。


 二つ目はこの戦争を指揮又は指導した者を処刑する事。


 三つ目は100年間互いの国に干渉しない不可侵条約を結んだ。 



 サントルクラフト及びルーラ教会が勝利した事で結んだ条約は3つある。


 一つはグラオザームの国土の一部をサントルクラフトの国土として渡す事。


 二つ目はシエル鉱山をルーラ教会に譲渡する事。


 そして三つ目はグラオザームの国民の三分の一を奴隷としてルーラ教会の元で働かせる事。


 

 三つ目に関してはグラオザーム側が猛反発したが戦争に完全敗北したため、対抗出来ず条件付きで条約を結ぶ事になった。


 グラオザーム側が提示した条件は、今後100年間はサントルクラフト及びルーラ教会が他国に対して戦争を仕掛けない事。


 この条件を提示した結果、世界は100年間戦争がない平和な世が訪れ、各国は一時的な楽園を築き上げた。


 しかしその100年の縛りも終わりが近づき、ルーラ教会がまた世界を支配しようとしている。



(私達の番が来たか…)

エリオットは思う。


 サントルクラフトは100年間の急激な経済成長の裏で戦争で得た奴隷を使い倒した。


 今となっては奴隷の需要と供給が間に合っていない。次はライブプレスト王国の国民を狙っている可能性がある。


 万が一、大勝しなくてもライブプレスト王国は温泉などの観光業で儲かっている。

多額の賠償金を取れればそれで良いと思っているはず。言ってしまえば賠償金はオマケに近い。 


 一番の本命はクライフ学校の裁量権になる。

近年のライブプレスト王国は教育機関に多くの資金を投じることで優秀な人材を輩出してきた。


 その象徴がクライフ学校でありこの国の未来で希望になる。それをルーラ教会は喉から手が出るほど欲しがっている。


 エリオットは学校で習った歴史と今の情勢を照らし合わせ思考を整理させていた。



 気がつくとエリオットは王様の前に居た。

周りには王様とその王様の息子、第一王位継承権を持つ王子しかいない。

エリオットは違和感を覚えながら片膝をつき王様の話を聞く。


「エリオットよ、わしがお前に何を言いたいか分かるか?」


「はい、分かっています、先ほどからずっと考えていました」


 エリオットは次起こるであろう戦争について頭を張り巡らせていた、この時までは…


「ならばエリオットよ、目の前にある剣を取りなされ」


 エリオットは王様の前で頭を垂れていたので今まで気づかなかった。顔を上げると不自然に剣が置いてある。


「あの、この剣は何でしょうか?」


「エリオットよ、その剣で自分の腹を斬れ」


 穏やかな表情から想像の出来ない言葉が出てきた。


「な?!いや、あの王様、言っている意味が全く理解出来ません!」


「いいから早く腹を斬れと言っているわ、お前の顔はもう見たくないわ!」


 まさかの発言にエリオットは戸惑いを隠せず、魚の様に口をパクパクしている。


「王様!!何が気に食わなかったのか分かりませんが今までのご無礼があったのならお許しください!!私はこの国に忠義を尽くして来ました!それは今も変わるこッッ」


「早く斬れと言っているのが分からぬか!!」


 王様のいつもの穏やかな表情から激怒に変わり、それを見たエリオットの頭の中は真っ白になった。口を半開きにしてバカみたいな顔している。


「はぁ…エリオットよ、わしはお主を一番可愛いがっていたし、期待もしていた、なのにそれをお主は裏切った」


 エリオットは王様のお気に入りだった。

クライフ学校卒業後、入隊する事でさえ難しい王国軍に推薦で入り5年足らずで1番隊副隊長に抜擢、それからヒカイト人史上初の二番隊隊長に任命されるなど、贔屓してる程の出世スピードで駆け上がった。


 実際贔屓にはされている。

本来ならヒカイト人という理由で王国軍に入隊出来ない筈だった。

それを王様の独断で周りの反対を押し切り入隊させて今に至る。

もちろん二番隊隊長に任命したのも王様である。


 それだけではなく、端から見たらエリオットの奇行とも呼べる行動や策略も「結果が出ているうちは許す」と言ってエリオットの出世が気に食わない大臣も黙らせてきた。


 これら全てはエリオットも身に沁みて感じており、感謝の言葉以外見つからない。しかし今のエリオットは処刑を宣告されている状況に様変わりしていた。


「何故ですか?私が何か重大なミスを犯したのでしょうか!」


 もし、大臣がこの場にいたら「黙って早く腹を斬って罪を償え!」と言われているがそのうるさい大臣はこの場所にいない。


 王様は顔を真っ赤にさせて、エリオットに言い放った。その言葉はエリオットの予想の斜め上を超える。


「何故かって?それはお主がわしの可愛い一人娘の純潔を奪っておきながら捨てた、ヤリ捨てたのだ!それがわしは気に食わん!!」


「父上、少しお言葉が…」

横に居た王子が間に入る。


(嘘!バレてた?)


 エリオットはレミリア王女の平手打ちを食らってから一度も会っていない。可能な限り会わないようにしていた。その事を追求されエリオットは焦る。


「た、たっ確かにレミリア王女とはお付き合いはさせてもらいましたが…」


「もういいわ!!言い訳など聞きたくない、早く腹を斬らんか!!」


 そう言われるが、エリオットは斬るつもりもないし、周りに人はいない。

横から兵が来てエリオットを取り押される事もないので、謎の静寂が続き謎の空間が生まれた。


(どうしたら…本当に斬らなきゃ駄目か?だってあの時は一瞬の気の迷いだっただけで王様の娘だって聞いてないし…)


 クライフ学校在学中、レミリア王女は身分を隠してエリオットに近づき付き合う事になった。

エリオットは関係も持ってからレミリアが王女だと気づき、別れるわけにもいかないので蛇足で付き合っていた。 

男女の関係も一度きりで、それ以来していない。


 迷う子羊になっていたエリオットに王様が声を掛ける。


「戦争が始まるからか?だから結婚しないのだろう」


「・・・」


 エリオットは答えに迷い頭をフル回転させる。目が泳ぎながら全力で最適解を探し始めた。


「次の戦争はこの国が生きるか死ぬか瀬戸際を彷徨うだろう、エリオットよ、お主に問おう、次の戦争は勝てると思うか?」


「・・・間違いなく勝てません、奇跡的に済んでクライフ学校の裁量権、大敗すれば100年前のグラオザームと同じ道を歩む事になるでしょう」


「だろうな、マハト人が多く在籍するルーラ教会は強い、何とかならんか?」


「私が率いる2番隊が先手を打ちます、私と殆どの者が死にますがその代わり戦況は優位に立てるでしょう。それから1番隊が善戦すればルーラ教会は折れ交渉に持ち込めます!」


 エリオットの目は自信に満ちていた。レミリア王女が惚れるほどに。


「何故分かる?」


「私には未来が見えます!手を取るように戦況が見えルーラ教会の考えは私の考え中で完結しています!」


「うむ、なるほどな…」


 王様は信じていた。それはエリオットの未来を見れるという言葉ではない。

今までの実績と国への忠誠心を信じて心の底から信頼していた。


「私はこの戦争で死にます、悔いはありません、同時にレミリア王女が好きです!愛しています!しかし私などすぐ忘れて幸せになって欲しい、王様!レミリアに伝えてもらえますか?どうかお願いします」

 

 エリオットは誠心誠意の土下座をした。

エリオットが見据える未来は、漢として国を護り抜いて死ぬ。それが彼にとっての誉れだった。


「それは無理だ、エリオットよ、お主は一番隊に配属させる、二番隊隊長は他の者を入れる、これは決定事項だ」


「納得出来ません!私が先頭を立たなければ兵は動かない!私が戦わなければ兵は最前線に立たない!私が死ななければ兵は私と共に死んでくれない!お願いです、二番隊隊長として死なせて下さい」


「何故だ、何故にそこまで命を賭ける?元はお前も奴隷だったはず、どうしてこの国にそこまで忠義を尽くす?」


「奴隷だった私を救い育ててくれた国には感謝しています、本当は死にたくないです、レミリア王女と一緒に居たいです!愛しています!しかしそれ以上に、レミリア王女以上にこの国を愛しています、この国が死ぬという事は私が死ぬのと同義です!お願いです、仲間と共に戦わせて下さい」


 王様はエリオットの魂に震え涙を溜めた、しかし一度下した判断は変えない。


「エリオットはこの国の未来だ、この戦争で死なせる訳にいかん、一番隊の最後尾で我慢してくれ」


 この国で一番偉い王様が、元奴隷のエリオットに頭を下げて謝った。その事実にエリオットは決心をする。


「私が生きる意味はもうないな…」

 

 そう呟くとエリオットは目の前にあった剣を取り、首元を定める。


「エリオットよ、待たんか!!」


 王様の声を聞かずエリオットは目を閉じて最後の時を迎えた。


 迎えたはずだった…


「臭い芝居は辞めろ、お前は最前線に行って戦え、ただしレミリア王女と結婚するのが条件だ」


 エリオットの剣は王子に止められていた。


「父上、この辺りがベストな落し所でしょう」


 エリオットは不気味に笑う。


「バレたぁ?ハハハハハ」


「お前とは長いからな、気づくさ」


「このままだと最前線で戦えないと思ったからね、私が行かないと負けるよこの国は、だから無理を言いました、すみませんね」


「死ぬなよ」


「戦争に絶対は無いけど私なりに頑張るさ」


 王子が出した折衷案で決着がついた。


 

 王様の寝室にて。


「パパありがとう!!」


 レミリア王女は満面の笑みで抱き着く。


「レミリアちゃん、ごめんね、本当は戦争に送りたくなかったけどエリオットが全然聞かなくて、パパ結構頑張ったんだけどね…」


「良いのよ、結婚さえしてくれれば後はこっちのモノだから!絶対生きて帰ってくるわ」


 即日、エリオットとレミリア王女の結婚が決まった。

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