ダンジョンは動き出す
あるダンジョンから発見された地図型の《魔法道具》は、自動で周辺のダンジョンの位置を描写し、地図の内容が変わることから、《移ろいの地図》と呼ばれていた。
その《移ろいの地図》を発見した冒険者は、売り払って豪遊した。
その後、《移ろいの地図》は様々な人の手に渡り、ミストのダンジョンに最も近い町、ザートに持ち込まれた。
希少な薬草、高額な魔物素材など、資源の宝庫である大森林の恩恵を受けているザートには、《移ろいの地図》を入手できるほどの資金と伝手があった。
ザートで高い地位を持つ人達は、さらなる富を求め、手に入れた《移ろいの地図》を使い、ザート付近のダンジョンを探した。
ダンジョンから有益な物が発見されれば、必然的にザートを拠点とする冒険者と商人が増え、ザートの宿を利用し、ザートの物を買う。
そうなれば、ザートは今まで以上に潤うことだろう。
しかし、肝心のダンジョンがザート周辺に存在せず、大森林奥地にしか見つからなかった。
それでも、ダンジョンが存在しないことに比べれば良い、と考えたザート上層部は、そのダンジョン――ミストが作成したダンジョン――に調査隊を派遣した。
ミストはザートの町などに数え切れないほど設置している情報収集用の《魔法道具》――《小人の耳目》――から得られた情報により、調査隊がダンジョンに来ることを事前に予想していた。
《小人の耳目》は砂粒ほどの大きさで《魔法道具》と見破られる恐れがない代わりに、小さすぎて性能が低くならざるを得ない。
その欠陥を補うため、ミストは10年かけて開発した《フォレズム》という魔法で、無数の《小人の耳目》を相互に繋ぎ、性能を大幅に向上させた。
《フォレズム》の性質上、数多く存在する《小人の耳目》の一部が壊れても、《フォレズム》が受ける影響は小さい。
ミストの指示で200年前から、メリルがその《小人の耳目》を大量に含む水を上空に打ち上げ、雨に紛れた《小人の耳目》を地上に設置し、《フォレズム》で情報収集を行っていた。
ザートから調査隊が派遣される一ヶ月前、ミストとメリルは今後のダンジョン運営について話し合っていた。
「《移ろいの地図》によって、ダンジョンの位置を知られてしまった。これで、上空にダンジョンがあると気づかれる可能性が高くなった。だから、このダンジョンのダミーとして、ダンジョン真下の地上に典型的な洞窟型ダンジョンを作る。勿論、ダミーダンジョンでダンジョンの機能は使えないが、このメインダンジョンの機能を使えばある程度補えるだろう」
「300年ぶりにダンジョンの外に出るのですね。《小人の耳目》設置のときでさえ、ダンジョンの入り口から出ませんでしたのに」
「漸く、俺が納得できる強さが身についたからな。外に出ても大抵のことには対応できるだろう。とはいえ、むやみに俺たちの情報を漏らしはしない。メインダンジョンを隠すのもその一環だ」
「それだけの力を得ても、油断されないのですね」
「ああ。油断するわけにはいかない。どんな相手だろうと、生き抜いてみせる。俺はメリルと永遠に生きるのだから」
ミストの言葉を聞き、メリルは嬉しそうに微笑んでいた。




