ダンジョンマスターとサポーター
ミストとメリルが異世界を訪れてダンジョンを作成した日から300年の月日が経った。
その長い年月の間、一度もミストとメリルの平穏な日常を妨げる者はいなかったが、その者たちが現れる日は迫っている。
――冒険者たちが一般的な遺跡型のダンジョンだと認識している場所。
(冒険者が来ない……)
そんな悩みを抱えているのは、地球で死亡し、この管理者の世界でダンジョンマスターになったうちの一人である。
冒険者が拠点とする人間族の町付近にダンジョンを作り、冒険者にとって利便性の高い位置を確保したが、ダンジョンの魔物が強い割に実入りが少ないことから、冒険者に避けられていた。
(このままじゃ、いつまで経っても魔力が集まらない)
ダンジョンマスターとサポーターの魔力を毎日貯めるだけでは、微々たる魔力しか得られない。
それだけでは満足できないこのダンジョンマスターは、何か良い方法がないか考えた。
そして、大勢の冒険者をダンジョンに引き寄せて殺すことで膨大な魔力を得ることを思いつく。
その思惑を実行するため、まずは冒険者を引き寄せる餌を用意した。
餌とは、多大な魔力を消費して《創造》した魔力を込めると魔法が使える《魔法道具》という希少な道具だ。
それを豪華絢爛な装飾が施された宝箱に入れ、偶然ダンジョンに訪れた冒険者に発見させた。
宝箱の中身を取り出した冒険者は、《魔法道具》だと気づいたが、その使用方法と用途は、わからないようだった。
それでも、希少な《魔法道具》には違いない。
その冒険者は喜びを噛み締めながらも、地図のような《魔法道具》が傷つかないように慎重な足取りで拠点としている町へ向かった。
町では冒険者が《魔法道具》をダンジョンから持ち帰り、大金で取引されたことが噂話になるほど広まっていた。
この儲け話を他の冒険者たちが聞き捨てるわけがない。
巨額の富を得ることを夢想し、同僚たちを出し抜くべく、その噂話の元であるダンジョンに競い合うように殺到する。
これで、全てダンジョンマスターの計画通り……とはならなかった。
ダンジョンの外に出たことがないダンジョンマスターは、《魔法道具》の価値をよく知らないため、低く見積もってしまった。
そのことをダンジョンマスターが気づいたときには、想定を大幅に超える数の冒険者がダンジョンに押し寄せていた。
冒険者たちは宝箱を探しながら、ダンジョンの魔物を次々と殲滅していく。
ダンジョンコアがある《コアルーム》前の大部屋に冒険者が現れるようになった頃には、そこの魔物以外、ダンジョンの魔物は全滅していた。
自らの軽率な行いで自身の窮地を招いたダンジョンマスターは、ダンジョンの最後の砦――ボスモンスターが冒険者たちを全員殺してくれることを願った。
その期待に応えるかのように、ボスモンスターである巨人の魔物は奮闘する。
――血の飛沫が舞う。
それは巨人の魔物が冒険者の剣に切り裂かれ、槍と弓に貫かれて命を削られていることの証。
そして、5人組の一流と称される冒険者たちを殺すことはできなかったとはいえ、退ける。
その後も幾度となく、巨人の魔物は冒険者の集団を打倒するが、その度に消耗し、疲労の色が濃くなる。
それでもダンジョンマスターの命令に従い、冒険者と戦い続けたが、ついに息絶える。
ボスモンスターが敗れたことで、ダンジョンマスターを守る者は存在しなくなった。
ボスモンスターを倒した3人組の冒険者たちは大部屋の奥にある《コアルーム》に歩みを進める。
それをダンジョンコアの機能の一部である《千里眼》で見ていたダンジョンマスターは、このままでは殺されてしまう、と焦燥に駆られた。
隠れ潜もうにも、《コアルーム》にはダンジョンコアしかない。
結局、何もできないでいるうちに冒険者たちを《コアルーム》で迎えてしまう。
冒険者たちに《魔法道具》はどこにあるのか、と尋ねられたダンジョンマスターは冷や汗が出た。
先日、冒険者に渡した《魔法道具》を《創造》したことで、ダンジョンコアの魔力を大量に消費し、新たに《創造》する余裕はなかったのだ。
ダンジョンマスターから《魔法道具》がダンジョンにないことを知らされた冒険者たちは、苛立ちながらダンジョンマスターに致命傷を与え、ダンジョンコアを奪い、去っていく。
地に倒れ伏したダンジョンマスターは、薄れゆく意識の中で、サポーターが居なくなっていたことにようやく気づいた。
(…………あいつが居たら……こんな結果に……ならなかった……かも…………な)
「……死んでしまいましたか」
ダンジョンマスターのサポーターを勤めていた男が呟く。
「始めは素直に話を聞いてくれたのですが、ダンジョンマスターの力に溺れ、徐々に聞き入れなくなりましたね」
男はダンジョンマスターの死を機に過去を振り返っていた。
既に輪廻転生し、記憶を失くして新たな命として生まれ変わった元ダンジョンマスターの姿を見ながら、男は言う。
「あくまでも、私は助言することが役目。死を迎えたとしても、それは自分の選択が引き起こした結果です」
『――――』
周囲に誰も居ないにもかかわらず、男は誰かに話しかけられたが、それを不思議に思うことはない。
「わかりました。次のダンジョンマスターの下へ赴きます」
指示に従い、男はその場から消えた。




