研鑽の日々
日課の剣と魔法の鍛錬をある程度済ませたミストは1階層の大森林で、一体のゴブリンがもう一体のゴブリンを殴り続けているのを観察していた。
その二体のゴブリンの体格は大して変わらないにもかかわらず、一方のゴブリンだけが終始優勢だった。
ゴブリンは人型の中では最弱の魔物だ。
多産で発育は速いが短命である。
《創造》に必要なコストである魔力の消費が少ない中で、一番人体に近い。
だから、ミストは実験目的でそのゴブリンを二体、10sの魔力を消費して《創造》した。
今回の実験目的は、《強化》で付与できる《身体強化》というスキルの検証だ。
一体のゴブリンはそのままの状態で、もう一体のゴブリンは《強化》で《身体強化》スキルを付与した個体だ。
その二体を戦わせることで、《身体強化》スキルがどの程度影響するのか、知ろうとした。
そして、実際に戦わせると、スキルを付与した個体が勝利した。
明らかにスキルを付与した個体の腕力の方が相手のゴブリンを上回り、肉体の強度が上がっているためか、相手の攻撃を受けてもダメージは軽そうだ。
《身体強化》スキルを付与した個体の顕著な戦闘能力向上が見られたが、ミストの表情に明るさはない。
(……《強化》のために必要なコストがゴブリンだと割に合わない)
一体5sのゴブリンに、180sの《身体強化》スキルを付与し、185sの魔力を消費した。
ゴブリンで換算すると、37体を《創造》できる魔力の量だ。
37体の武装したゴブリンという数の力と、《身体強化》スキル持ちの武装したゴブリンという突出した個の力では、数の力が勝るだろう。
(この《身体強化》の検証だけでは不十分だが、基本的に弱い魔物より強い魔物を《強化》した方が良さそうだ)
《身体強化》について検証していたミストの側にメリルが歩み寄ってくる。
「また何か実験を行っているのですか」
「ああ、そうだ。試さなければとわからないことが多いからな。本当は剣と魔法の鍛練をやりたいんだが……」
「仕方ありませんね。ダンジョンの機能を全て把握した訳ではないのですから」
そう言いながら、メリルは困った表情を見せる。
「いずれにしろ、必要ならやるしかないか」
ミストは淡々と口にする。
「そういえば、昨日作っていた魔法陣は完成したのですか?」
「いや、まだ完成にはほど遠い。不完全な効果しか得られないのが現状だ」
「そうですか。その魔法さえ完成すれば、魔法の研究がとても捗りそうなので楽しみです」
「まぁ、期待して待ってろ」
先ほどとは打って変わり、メリルは笑みを浮かべて楽しそうにしていた。




