転換期
足場が悪く、昼間でも薄暗い大森林を進む集団がいた。
その集団の一人が、この調査隊のトップに当たる隊長に声をかける。
「隊長、もうすぐダンジョンに着きますね」
「そうだな。魔物がいるかもしれないから、警戒を怠るなよ」
《移ろいの地図》の写しを見ながら、調査隊はダンジョンを捜索していた。
魔物を警戒し、互いの距離は話しかけることができる程度しか空いていない。
ダンジョンを捜索し始め半月が過ぎた頃、ついに調査隊はダンジョンを発見する。
「ダンジョンを発見した!? よくやった」
報告を行った部下を労い、隊長は思わず安堵の溜息をつく。
(これで地図がなかったら、どれだけ時間がかかったことか……)
隊長は大森林を彷徨う調査隊の姿を幻視してしまったが、これ以上想像したくもないので、すぐに忘れることにして、部下に指示を出す。
「半数をダンジョン入り口の警戒に当て、残りの半数でダンジョンに突入する。準備しろ」
指示を受けた部下が去る姿を見ながら、隊長は願う。
(どうか、このまま順調にいってくれよ)
ミストとメリルは、ダミーダンジョン最深部で《フォレズム》から送られてくる映像を見ていた。
ダミーダンジョンはダンジョンに見せかけた偽物のため、ダンジョンの機能である《千里眼》を使うことができない。
そのため、《フォレズム》システムを代わりに用いた。
「調査隊の半数ががダミーダンジョンに入ってきましたね」
「ああ。このまま予定通り、中層までは手を出さない。もし下層に到達したのなら、ある程度の被害を加えて撤退に追い込む。いずれの場合も、このダミーダンジョンの魔物を倒すと現れる宝箱に入れた《魔法道具》を持ち帰らせる」
魔物を倒すと宝箱が現れるという発想は、ミストが《管理者》の世界に来る前の世界にあったゲームから得たものだ。
その発想を実現する魔法は、予め魔物と現れる宝箱を設定し、その魔物が死ぬと、その場に対応する宝箱がダミーダンジョンの《宝物庫》から《転移》――瞬間移動――して来るものである。
「実験データを得るためとはいえ、《魔法道具》を与えても良いのですか?」
「問題ない。《魔法道具》は試作品の中でも危険性が低いものだけに限定し、複製、解析対策も施している。何らかの問題が起きたとしても、その《魔法道具》を自壊させる仕掛けも施している」
ミストはダミーダンジョンの役割をメインダンジョンの隠蔽だけに留めるつもりはなかった。《魔法道具》開発などに必要な実験データを収集する場としても使おうとしていた。
「これで、《魔法道具》開発が捗りますね」
「そうだな。だが、最終目標は《魔法道具》という道具の補助をなくし、魔法だけで完結させることだ。《魔法道具》はその一歩に過ぎない」
この300年でメインダンジョンは魔窟と言える存在となり、ミストとメリルは互いに剣の腕だけでなく、魔法などの技術も成長していた。
このまま数百年……、数千年と研鑽を積み続ければ、最強の存在へと至ることだろう。
しかし、それは生き残れた場合だ。
これからは今までとは違い、ダンジョンで侵入者との攻防が行われることになる。
ミストたちが窮地に追い込まれることもあるかもしれない。
いずれにしても、大きな転換期であることには違いない。




