愚者の末路
洞窟型ダンジョンに埋め込まれた《魔法道具》の光源が、調査隊の影を生む。
――ダンジョン上層。
未だ現れることのない魔物を警戒しながら、調査隊は隊列を崩さずに進む。
「……まだ魔物は出て来ないのかよ」
苛立ちを隠さない男は、調査隊随一の強さを誇るが、協調性が皆無で戦闘狂だった。
「ダンジョンに入ったばかりですからね。もう少し奥に行けば、魔物が出てくると思いますよ」
これまでの道中にも、散々苦労をかけられてきた調査隊の隊長は、男を宥める。
隊員達は男を刺激しないように黙したまま、歩みを進める。
「――おっ、ようやく来たかっ‼︎」
調査隊の進路から、一体の魔物が現れる。
男は今までの憂さ晴らしができそうだ、と嬉しそうな声を上げた。
その魔物は、ゴーレムと呼ばれる存在だ。
土などを材料にして、仮初めの命が与えられた人形。
戦闘狂の男は、洞窟という狭い場にもかかわらず、身の丈に合わないほどの大剣を構え、ゴーレムに突撃した。
それに反応したゴーレムは、土色の太い腕を振り上げ、男に振りかざす。
足は遅いが、その腕から放たれる攻撃は重い。
「――おっと、……危ねぇなぁ!」
そう口にしながらも、危うげなく男はゴーレムの攻撃を躱し、男を捉えることのなかった重撃が地面を揺らす。
そのゴーレムの片腕を振り切った隙を逃さずに男は間合いを詰め、大剣を横に振り――
ゴーレムの上半身が下に崩れ落ちた。
男の大剣によってゴーレムが両断されるのを見た調査隊から、感嘆の言葉が漏れる。
そして、破壊されたゴーレムが消えると、代わりに宝箱が出現した。
調査隊はゴーレムが消えて宝箱が現れるという現象に驚きつつ、その宝箱から《魔法道具》を得る。
ゴーレムを倒したことで、気を良くした男の跡を調査隊は追い、
――ダンジョン中層にたどり着いた。
《魔法道具》の光源が減り、視界が悪くなったことで、上層と中層の違いを確かに調査隊は感じた。
下層と同じように、ゴーレムと調査隊は遭遇したが、明らかにその性能は増していた。
鈍足だった足は、ダンジョンに足音を短い間隔で地響きのように響かせ、下層のゴーレムの倍の速さで移動し、その腕の攻撃は地面を陥没させる。
さすがに戦闘狂の男と言えど、多少の傷を負ってしまう。
それでも男の奮闘により、後ろの調査隊に被害が及ぶことはなかった。
男は調査隊から治癒薬を受け取り、傷を癒し、ついに下層へと至る。
《魔法道具》の光源はなく、何者をも阻む闇が広がっていた。
これまでとは違うダンジョンの雰囲気に気圧された調査隊は、隊長の命令に従い、中層に引き返そうとした。
だが――
「……下層来て引き返すのか⁉︎」
戦闘狂の男は違った。
「光源はカンテラで確保できますが、その分隊員達の行動を阻害しますし、まだ上層と中層の地図作成も終わっていません。まずはダンジョンの入り口から下層までの調査を優先すべきかと……」
隊長は下層に近づくほど嫌な感覚に襲われていた。
下層に行くと、取り返しのつかない事態が起こるかもしれないという予感に――
わざわざダンジョンが光源を減らずことで、中層では強化されたゴーレムという危険を暗示していたとすれば、下層ではさらに大きな危険が潜んでいるかもしれない。
無意識のうちに隊長は、そう考えていたのか、引き返すことを決断していた。
結局、調査隊は引き返した。
――反発する一人の戦闘狂とその部下達を残して。
「……来たか」
――ダミーダンジョン最深部。
《フォレズム》から送られてくる数多の映像を見ながら、ミストは呟いた。
下層初の侵入者の対応は、中層のゴーレム以上に強化された下層ゴーレムだけでなく、ミストとメリルも行う。
メリルには他の役目があるため、ミストの側にはいない。
まずミストは数百体存在する下層ゴーレムの指揮をとった。
「これだけで終わるかもな……」
「――ちっ、なんて強さだ……」
様々な経路から、男とその部下達に向かって下層ゴーレムが集まってくる。
さらに、下層は『どうすれば地図作成できるんだ』と叫びたくなるほど複雑怪奇で、平面の地図では表現できない。
一度道に迷えば、二度と下層から脱出することは叶わないだろう。
下層ゴーレムは戦闘狂の豪剣ですら傷一つつけられない装甲に加えて、その男の部下に少し劣るくらいの速度を持ちながら、中層ゴーレムの剛力も健在だ。
下層ゴーレムを倒すことのできない男達は、必然的に逃げの一手しかないが、下層の中心付近まで誘い込まれていまった上に、地図作成を行なえていなかった。
それでも把握していない出口を求めて、必死の逃走を続ける。
「……U23隊はP36からP84へ。U46隊はP49からP74へ。U161から167隊はP83、85の天井を崩壊させて封鎖。U9から14隊はP73、75で起爆準備。……」
ミストは下層ゴーレム3体で1隊を構成し、それを下層の様々な経路へ移動させていた。
そして、戦闘狂の男達があるポイント《P》に誘導され――
「――起爆」
爆弾の影響で男達の足場が崩壊し、為すすべもなく落下していった。
(これで場は整った。あとは――)
落下した男達は、その下層のさらに下――最下層の湖に着水し、派手に水飛沫を上げた。
一連の流れで気絶した者が大勢いたが、意識のある者もいた。戦闘狂の男もその一人だ。
しかし、全員が泳げないため、水の中で踠き苦しむ。
メリルは湖を見渡せる高所から、その光景を眺めていた。
「――次は私の役目ですね」
冷たい瞳を男達に向け、湖の水を操る。
水は男達の体を取り込み、宙に水球となって、浮かぶ。
そして、用意していた檻の上から水球ごと一人ずつ放り込む。
《魔法道具》である檻は、男達が入れられると、唯一の出入り口だった上部に蓋をする。
「《魔法道具》や薬、魔法の実験体として、ミストの役に立ってくださいね」
独り言のように呟やかれた声が、先程とは打って変わり、静寂に包まれたダンジョンに響いた。




