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3.腕を落とされた少女

 生体反応在り。数は―――5。

 1人は奥の部屋で、その手前の部屋に4人。

『こちら、赤城。生体反応複数在り。敵の可能性もある。5秒後に突入する』

 赤城は既に覚悟を決めている。持っていたセミオート式ショットガンの安全装置を外し、息を整える。

 そして、5秒経過。ネクスフィアによって強化された体当たりは、鍵が掛けられたドアを容易にぶち破った。同時に、部屋の窓が破砕し、窓際に近かった男の胴体が吹き飛んだ。

 目の前に2人、その奥に1人。赤城は照準すらせず、至近距離で立て続けに引き金を引いた。

 無数の散弾が手前の2人の胴体を撃ち抜く。だが、奥にいた最後の1人は我に返ったのか、こちらに向けて銃口を向けた。

 だが、赤城は右足で勢いよく踏み込むと、右に素早く動いた。それと同時に照準。

 複数の発砲音が耳を劈き、やがて静寂が訪れる。

 赤城は思わず溜息を吐くと、4人の死亡を確認し、奥の部屋へ続くドアに手を掛けた。

『敵は四人、全員射殺した。壬生、援護感謝する……』

 と、ここで奥の部屋から、泣き叫ぶような声が聞こえたような気がした。

 嫌な予感がした赤城は、ショットガンを背負い、腰のベルトに仕舞っておいたハンドガンに切り替え、静かに部屋の扉を開けた。

 赤城はその光景を見て思わず目を見開き、跪いた。


 窓の無い、薄暗い部屋だった。

 床には血溜まりと、華奢な白い腕が2本、それを切り落としたと思われる血塗れのマチェットが落ちていた。

 そして、壁には腕を切り落とされた少女が、鎖で縛りつけられていた。


◇◆◇◆◇


『―――あ、聞こえてます?』

 霧舞は重力制御翼を利用し、凄まじい勢いで飛行していた。

『……あぁ、聞こえてる。無線は全部こちらでモニターしているから、君が何を欲しているのかも分かる。今私がそっち向かっているから、あと3分、持ちこたえてくれ』

『了解です。助かります……蒼鷺さん』

 そう言って無線を切ると、霧舞は目の前に迫っていたビル壁に向かって更に加速した。

 恐ろしい勢いでビル壁に激突したが、幸いなことに、全て掠り傷で済んだ。立ち上がり、現在位置を軽く整理すると、霧舞は急いで赤城がいる部屋へ向かう。

 デバイスには、赤城がいる場所が表示されている。どうやら二つ下の階層にいるようだ。

 無線が途絶えてから、既に1分は経過している。敵が複数いる場合は、まず助からないだろう。と、最悪のシナリオを想定して歯噛みする。だが、こうしておかなければ、本当にそうなっていた時に何も出来なくなる可能性がある。

 やりたくはないが、と思いながら、霧舞はいつになく真剣な表情で廊下を駆ける。

 階段は全段飛ばし、着地直前に重力制御翼で勢いを殺しつつ踊り場でターンする。一気に3階まで下ると、10mほど先にある部屋のドアが、粉々になっているのが見えた。

 昂る怒りと焦りを抑え込み、ドアがあった場所をくぐる。部屋には一部が肉片と化していた死体が複数転がっており、その奥に、赤城がいた。

『赤城……ッ』

 その瞬間、冷え切ったナイフを突きたてられたような殺気が襲い掛かってきた。

 振り返ると、いつの間にか4人の男に囲まれてた。

「動くな」

 銃口は全て、霧舞の頭部と胸部に向いていた。

 霧舞は思わず笑う。

 4人の男はサブマシンガンで武装している。装備が正規のものではないことから、明らかに敵、それも雇われた兵士だということが分かる。おまけに、直前まで気配すら感知させなかったことを考えると、特殊部隊上がりの傭兵だろう。

 だが、霧舞が笑った理由は、彼らには分からない。

 短気なのか、眉間にしわを寄せた男が銃口を下げて右ストレートを放つ。

 速い、が、それは彼らにとって、致命的な隙だった。

 消えた、と思った時には、霧舞の後ろに立っていた2人の男の首が掻き切られていた。

 ダァンッ!という、銃声のような音を立てて踏み込む。亀裂が入った床から散弾のように飛び散る破片が、拳を放った男を襲う。

 跳躍した霧舞は、いつの間にか両手にナイフを持っていた。

 着地する直前にその男の後頭部にナイフを突き刺す。だがここで、我に返った最後の1人が、こちらに銃口を向けた。

 銃声が轟く。

 霧舞はその場で動くことは無かった。

 向けられたサブマシンガンが火を噴くことは無く、持ち主である男の眉間には、穴が開いていた。

『赤城ちゃん……』

 こちらも我に返っていたのだろう。だが、目が虚ろだった。

 ゆっくりと赤城の方に近づき、霧舞も奥の部屋の"惨状"を目にした。

『そっか……辛かったね』

 血塗れのナイフを仕舞い、近くの机に置かれていた鍵を取って鎖を繋いでいた南京錠を外す。重力に従って落ちる、腕を切り落とされた少女は、霧舞が抱きかかえた。

 その少女は恐ろしく軽く、だがほんの少しだけ温かかった。

『もう大丈夫……大丈夫だから……』

 これは、抱きかかえている少女と、その近くで蹲っている赤城の両方に向けて言ったものだった。

『終わったみたいだな』

 不意に、部屋の方から声がした。

『蒼鷺さん』

『……分かってる。すぐに撤退しよう。応急処置は機内で行う。彼女は持ってあと1分だ。私が運ぶから、君たちも直ぐに撤退するんだ。ここは危険だ』

 ネクスフィアを装備している"蒼鷺"と呼ばれた女は、霧舞から少女を受け取ると、風穴が開いていた窓から勢いよく飛び出していった。

『さて、私たちも行くよ。赤城ちゃん……大丈夫、何があっても、私が絶対に守るから』

 霧舞は、今にも泣きだしそうな顔をした赤城を強引に抱きかかえると、同じようにして、窓から勢いよく飛び出していった。

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