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2.失った者たち

 "黄昏蝕"が発生してから数時間後、大規模な調査隊が到着するのとほぼ同時に、黒色の支援機が空域に侵入した。

 乗り込んでいるのは四人。操縦は自動化されているため、操縦士はいない。

『壬生です。通信に異常はないですか?』

 大型の対物ライフルを背負った"壬生"と名乗った男が、顔を覆う戦闘用拡張デバイスに向けて話しかける。

『こちら黒木。感度は良好、何も問題はない』

 壬生の向かい側にいる、サプレッサー付きのカービンライフルを背負った"黒木"と名乗った男は、壬生に向かって親指を立てた。

『ほいほい、霧舞ですよ。行けそうなら作戦終了までこのデバイスでやりとりするねー。赤城ちゃん大丈夫?』

 黒木の隣に座る、腰のホルダーに二挺のハンドガンをぶら下げている"霧舞"と名乗った女は、欠伸を噛み殺しながら、目の前で座っている"赤城"と呼んだ女に話しかける。

『問題ありません』

『緊張してる?』

『……いえ、そんなことは無いです』

『そう?ならいいんだけど』

 呑気な声で話しかける霧舞とは裏腹に、飽く迄も生真面目に対応する赤城は、背中にショットガンを背負っている。

 持っている武装は全員違うが、戦闘服とコンバットブーツ、戦闘用拡張デバイスなどの装備品は共通している。

『……それにしても』

 と、黒木は支援機の窓から、サーチライトで照らされている"地獄"を見やる。

『最初に送られた救援部隊との連絡が途絶えたって聞いた時点で予想はしていたんだが、これはヤバいな』

『このヤバい場所に、あと数分もしたら飛び込むんですけどね』

 壬生は壁に掛けられた、タッチパネル式の大型端末に表示された地図を見て苦笑した。

 彼らはデータ上では、調査隊の一員として、上空からの撮影を担当することになっている。が、実際は違う。

『……降下準備前に、念のため作戦の確認を行います。―――作戦目的は生存者の救出。今作戦用にカスタマイズした特殊作戦用強化外装"ネクスフィア"を装着し、それに備え付けた生物探知機で生存者を探します。作戦時間は二時間。緊急事態が発生しなかった場合は、最終集結ポイントで合流し、帰還します。緊急事態発生時は指令本部の蒼鷺さんに連絡してください。何か質問は?』

 一通り説明を終えた壬生が三人を順番に見ていく。どうやら問題はなさそうだ。

『あと、見て分かる通り地面は"汚染"されてるので、くれぐれも着地しないでください。するなら汚染されてない場所でお願いします』

 言い切るとほぼ同時に、降下準備の合図が鳴る。

 四人は頷き、立ち上がると、機内後部にある格納庫に移動した。

 固定された特殊作戦用強化外装―――ネクスフィアを装着し、降下態勢。霧舞以外の三人は、背負っていた銃を持ち、合図を待っていた。

 カウントダウンが始まる中、ふと思い出したように霧舞が口を開く。

『あ、言い忘れてたけど、もし敵対する奴がいたら、問答無用で撃っていいからね』

 その言葉で、壬生と黒木の口角が上がった。デバイスの上から僅かにそれが見えた霧舞は、思わず笑う。

 そして、次の瞬間、ネクスフィアを装着した四人は、支援機から勢いよく射出された。


◇◆◇◆◇


 闇夜を凄まじい勢いで落下していく壬生は、後方支援の為に他の三人とは少し離れた場所にいた。

 着地点は汚染されていない防壁の上であるため、重力制御翼で一気に減速、着地の衝撃を極限まで減らして防壁の上に降り立った。

 周囲をセンサーで探知。生存者は無し。

『こちら壬生。降下完了、攻撃支援に回ります。三人は各自決められたエリアの探索をお願いします』

 返事は無いが、恐らく聞こえているだろう。若干早く所定の着地点に降り立った黒木は、此方を見ると、右腕を掲げた。

 これは黒木曰く"頑張れ"という意味らしい。

 距離はざっと1km以上はある。こちらの姿はそこまで鮮明に見えていないだろうが、一応壬生も右手を掲げておく。

 防壁の淵に伏せ、対物ライフルを構える。13mmの専用弾は2km先まで容易に届き、コンクリート壁すら貫通する。

 スコープ越しに見えるのは、血の洪水と、ミンチになった肉や内臓などだけだ。この光景は、今まで地獄のような任務に当たってきた自分たちですら、吐き気のするようなレベルのものだと思った。

 だが、他の調査隊員の無線を傍受していると、吐き気どころではないのが分かる。ここからでは離れすぎていて見られないが、数分で発狂し、次々と隊員が飛び降り自殺をしている。

 遠くで爆発音がするのは、ヘリのパイロットが発狂して操縦不能に陥り、墜落した音だ。状況は極めて酷いが、自分たちは自分たちに課せられた任務を果たさなければならない。

『こちら、赤城。生体反応複数在り。敵の可能性もある。5秒後に突入する』

 作戦開始から僅か数分。絶望的だと思われていた生存者がいた。

 だが、間違いなく敵だ。そう思い、壬生は赤城がいる1.7km先のビルの三階、黒色のカーテンが掛かった窓を狙い、引き金を引いた。

 凄まじい反動と共に射出された13mm弾は、極音速で窓をぶち抜く。同時に、赤城がその部屋へ突入する。

 遠くから、断続的にマズルフラッシュが見えた。

『敵は四人、全員射殺した。壬生、援護感謝する……』

 ふと、赤城の言葉が詰まった。

『どうかしましたか?』

 壬生の問いかけに、赤城は応答しない。

『……こちら黒木。緊急事態発生。敵部隊と遭遇した』

 どうやら、状況は芳しくないようだ。

『了解。攻撃支援を中断、そちらに向かいます……霧舞さん、応答願います』

『はーい、ばっちり聞こえてるよ。赤城ちゃんのところに行けばいい?』

『話が早くて助かります。赤城さん……赤城さん?』

 立ち上がり、重力制御翼を起動。浮遊時特有の、胃が持ち上げられる不快感を伴って、勢いよく上昇する。

 赤城が応答しないことは、今までに一度もない。余程の精神的ショックを受けているのか、或いは敵に捕まったか。

 兎に角、そちらは霧舞に任せるしかない。自分は自分で、黒木の元に向かわなければならない。

 そう言い聞かせ、壬生は対物ライフルのグリップを強く握り締めた。

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