1.終わりなき絶望と、闇に葬られた始まり
2047年1月。
それは、突然起こった。
黄昏色の空に、突如として黒点が発生。それらは黒色の靄となって空を凄まじい速度で駆け巡り、やがて全ての光を奪う。
その光景を目にした人間たちは、それが"何なのか"すら分からず、ただ暗闇の中で騒ぐしか無かった。
そして、次の瞬間、滅びの風が吹いた。
その風は、全てを奪い去り、消し去った。
数時間後、"防衛都市"全体を覆っていた黒色の靄が晴れた。靄の中から発せられた救難信号は、極東国に十七箇所ある防衛都市全てに届き、それに応じて、一番近い防衛都市から救援部隊が送られた。
だが、その救援部隊の隊員たちは、防衛都市に入った途端、目を見開き、発狂した。
理性を失うほどに、その"滅び"の光景は美しく、残酷だった。
それから更に数時間後、大規模な調査隊が編制、投入された。
戦場で幾重もの死線を潜り抜けてきたベテランの調査員ですら、胃の内容物をそこら中にぶちまけるほどの地獄だった。
まず、目に入ったのは"血"だった。主要道路は既に文字通りの"血の川"となっており、その濁流の中には、肌色、桃色、白色、黒色、黄色、茶色と言った、様々な"パーツ"が垣間見えていた。
絶望的な状況の中、調査員と護衛の兵士たちは防衛都市の淵に降り立った。上空を飛ぶ数機の支援ヘリが照らすサーチライトを頼りに、地獄の中を彷徨う生存者を探そうと試みる。が、正気を保つのは、数分が限界だった。
発狂した調査員が、一人、また一人と、高さ60mもある防壁の淵から飛び降りた。
ほぼ同時に、サーチライトを照らしていた支援ヘリも、一機、また一機と、墜落していった。
展開していた調査隊員が次々と発狂し、自殺していく。
事態を重く見た軍上層部は、調査を軍事衛星による遠隔調査に切り替え、展開している全ての部隊に撤退命令を下した。
調査隊が展開してから凡そ一日。2000人いた調査隊員と護衛の兵士は、僅か117人となって撤退、帰還した。だが、その全員が極度のPTSDに陥り、真面に話すことすら出来ない状況であった。
数日後、近隣の防衛都市はほぼ同時に特一級警報を発令。軍事衛星を利用した調査により、これらが"生物兵器によるバイオハザード"だと断定し、発生した防衛都市一帯を"第一級汚染区域"として侵入を固く禁じた。また、同時に軍全体の警戒レベルが最大まで引き上げられ、臨戦態勢となった。
◇◆◇◆◇
後に"黄昏蝕(Twilight Eclipse)"と呼ばれることとなったこの出来事は、人類史上類を見ない凶悪な"バイオハザード"として歴史に深く刻まれた。
極東国第六防衛都市"鹿倉"全域を呑み込んだそれは、数時間で約130万人もの人間を、原型を留めさせずに殺した。生存者は一人も居らず、その地獄を後の世に語り継ぐことが出来る人物は、当然ながら一人もいない。
―――だが、それは表向きの話だ。
終わりなき絶望が繰り広げられる中、表の世では語り継がれることのない、"闇"に葬り去られる物語が生まれていた。




