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『ワールドマスター』/サイバーソーシャルネットゲーム  作者: 著者不明
ERROR6 『魔王のジャスティスプログラム』
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第六話 『《正道騎士団》の【二つ名持ち】たち』

「撃て、撃てぇええ!! ヤツを近づけさせるなッ!!」


 その言葉が引き金となって魔術師と弓兵たちが俺へと攻撃を開始した。

 だが、俺はその矢を魔法を身を捻り、あるいは身体を傾け、あるいは右手の甲で弾き飛ばし、その間を縫うように階段を駆け上がっていく。

 ほんの瞬く間に、すぐそこまできた俺に彼らはギョッとなって間合いをとろうとする。

 だがもう遅い。俺は彼らの懐に潜り込んでいた。

 弓兵や魔術士でプレイする時に大事なのは相手との距離感だ。遠距離攻撃をベースとするキャラクターの場合、相手と適度な距離を保ちながら戦うのが基本戦闘となる。それ故、俺のような近接戦闘タイプとの戦いはやり難いものになるのだ。しかも味方が密集したこの場面ではやはり同士討ちを恐れ攻撃を躊躇してしまうだろう。

 加えて弓兵は矢を射るまでの一連の動作が長いので【敏捷性】と【行動力】のスキルが必須である。そのため防御力が疎かになる傾向がある。魔術士なら【魔力】【知力】【精神力】【集中力】を上げなければならないため、物理攻撃に対抗するスキルをとることが困難となり、紙装甲などと揶揄されるほどおざなりだ。物理攻撃に極振りし、【腕力】を徹底的に上げ、瞬間火力に特化した俺の攻撃ならば四発、いや三発で――クリティカルを狙えばもっと少ない攻撃数を――叩き込めば殺せるだろう。


「うおぉおぉおおぉおぉ――ッ!!」


 俺は剣を一閃させ、周囲の弓兵と魔術士を凪ぎ倒し、右拳を手近にいた魔術士の顔面にめり込ませる。肘鉄で背後の弓兵の鼻柱を殴り飛ばし、剣で魔術士を真っ二つにたたっ斬り、右手で魔術士の顔面を指が食い込むほどの握力で掴んで、密集している場所へ放り投げ、左手の剣で傍にいた弓兵の腹を貫く。

 階段の半ば、敵陣の真ん中で乱戦していると不意に、右脇腹に何かが触れる感覚がした。

 見れば魔術士が赤く発光した杖を押し当てていた。

 なるほど、考えたな。零距離ならば味方を巻き込みにくい。

 俺の脇腹へ杖を添えた魔術師は口をにぃと歪めた。


「この距離からは避けられまい! くらぇえッ!! 【ファイアー・ボール】!」


 俺は押し当てられたその杖を右手でパシッと払っていた。

 一階フロア出入り口から俺へと駆けてくる――騎士たちがいる方へ。


「あ」とその魔術士が間抜けな声をあげた。


 解き放たれた炎の球は果敢に雄叫びをあげていた騎士たちを吹き飛ばし、紅蓮に染めていた。猛火に苦悶の声をあげる騎士たちへ視線をやっていると――


「そこまでだッ! この数を腕一本で払いのけるのは不可能だろう!?」


 敵陣中央で眼を外したのがいけなかった。

 俺の周囲を矢を番えた弓兵が、詠唱を終えた魔術師が間近で取り囲んでいた。


「回復する暇もなく散り去れぇ、襲撃者がぁ! 【スタン・ボルト】ッ!」


 瞬間、俺は階段に両手をついて伏せていた。四方八方から飛んできた矢と魔法が頭上で幾重にも交差し、彼らは対角線上にいた相手の攻撃を受けて階段を乗り越えて吹き飛ばされ、あるいは矢を受けて膝をつく。

 俺は身を起こして周囲の状況を確認する。すると、互いの矢と魔法を受け倒れている弓兵や魔術師の姿。

 こんな埃の被った手に引っかかるとは……お粗末なもんだ。

 中にはまだ階段に倒れ伏せて生き残っている者もいた。ぴくぴくと小刻みに震えていた魔術士は俺を見上げ「ひぃっ」とか細い声をあげる。


「い、命だけは助けてくれっ……! 殺すのだけは勘弁してくれぇーっ!」


「…………俺も鬼じゃない。チャンスをやろう。お前、リアルでどこに住んでる?」


「は? え、えーっと、北海道だけど……」


 俺は無言でそいつを蹴り飛ばして階段から突き落とした。

 階段から何度も身体を打ち付けて転げ落ちていった魔術士は光の散りとなって消えていった。

 その時だった。階段を上がった先――二階の広場から粗暴な声がした。


「おいおい。なんだこりゃ……やってくれるねぇ、襲撃者さんよぉ。仲間たちをこんなにしちまって……全部で何人死んでんだ、これぁよぉ。ったく、泣けてくるぜ……。見たところ……あいつの眼、気配……かなりやべぇ相手だな、ありゃ」


「うむ。今宵の襲撃者は本気でやらねばならぬようじゃのぅ。間違いなく【二つ名持ち】じゃ。儂らも気を引き締めてかからんとな。一瞬の油断で命を絶たれるぞ」


「本気でやらなければ負ける相手。なればこそ戦う価値がある」


 そこには大剣を背負った大男と、白髪の老魔術士、そして姿勢の良い拳法家が立っていた。

 明らかにそこらに立っている騎士や弓兵、魔術師とは異なる存在感を三人は放っていた。

 …………こいつら、強いな。

 三人が俺を見て、俺が強者だと感じ取ったように、俺もまた三人が強者だと直感していた。

 それもそのはず、名前を見てみると俺は彼らの名に見覚えがあった。

《正道騎士団》は〈ヘリダム〉がセルズリーダーだが、ヤツ以外に三人の将が存在する。この肌に突き刺さってくるような感覚からしても間違いないだろう。

 この三人が《正道騎士団》の【二つ名持ち】たちなのだろう。

 見るからに野蛮そうな大剣の大男は“救援者”の〈エイコオ〉、《正道騎士団》の武将だ。あるCSNゲームにあった『モンスター侵入イベント』の時に大剣一本で街中のモンスターを蹴散らした逸話はあまりにも有名だった。獰猛で、豪快で、大胆な戦い方をする男――それが〈エイコオ〉だ。

 白髪の老魔術士は“救済者”の〈サージュ〉、《正道騎士団》の智将だ。彼の舞台は複数のセルズが協議する場であるセルズ合同会議だが、戦になると戦場へ出陣し、戦士たちの優秀な癒し手となる。また、本人も腕の立つ魔術師だ。《螺旋の騎士》――セルズリーダー、あの唯我独尊な独眼傭兵”螺旋”の〈ヘリックス〉を策と地の利を生かし退けさせたことがあるという――それが〈サージュ〉だ。

 緑色の中華服を着込んだ腰まである黒髪の男は”救民者”の〈シュウソ〉、《正道騎士団》の名将だ。元々は流浪の辻斬りだった男だ。強さを求め、強者を求め、磨き上げた拳と蹴はそんじゃそこらの剣よりも斬れ味が良いと言われていた。だが〈ヘリダム〉に負けその配下に加わったらしい。それからは辻斬り業を止め、教えを乞う者たちの師範となり手ほどきに精を出していたとか――それが〈シュウソ〉だ。

 三人とも”猛獣”の〈アギト〉のように悪名でついた【二つ名持ち】ではなく、強者として認められた真の【二つ名持ち】だった。

 何にしても厄介な三人が立ち塞がってくれたものだ。

〈エイコオ〉はかったるそうに頭を掻いた。


「こんだけのことを一人でしでかせるんだ。あんたも【二つ名持ち】だろぉ? 武人として殺す前に知りてぇな。俺は“救援者”の〈エイコオ〉ってんだ。あんたは?」


 腐っても武人か、と思い、俺が名乗ろうとした瞬間だった。

 俺が少し緊張を抜いたのを感じとると〈エイコオ〉は口を笑みに歪め、猛然と階段を駆け下りてくる。

 俺が驚いている間に距離を詰めた〈エイコオ〉は背中から右手で大剣を抜きがてら、野球のボールをバットで打ち返すように豪快に振り抜いてきた。


「ぬぅぅうるぉおおぉらあぁああぁあッ!!」


 俺はなんとか左手の剣を右手で支えて受け止め、足で踏ん張ろうとする――が、強烈な衝撃に足が浮き上がる――!

〈エイコオ〉の大剣が俺の片手剣を走って火花を撒き散らし、


「ぐぉおぉ――ッ!?」


 俺はその勢いを殺しきれず、中空へ吹き飛ばされていた。


「間抜けがぁッ!! どうせすぐに死んじまう奴の名前なんか興味ねぇんだよ!!」


 直撃したわけではないがHPが二割ほど減ったかもしれない。ぞっとする怪力だ。まともに受ければ半分は持っていかれていただろう。

〈エイコオ〉のレベルは俺と同等か下位のはずだ。同じレベル帯であればダメージ無しとはいかなくても、受けきれるのが道理。だが、俺が宙を舞ったのには理由がある。

 それは【体格】の差によるものだ。他のCSNゲームには選択した【種族】によってステータス補正が変わる仕様がある。それと同じように『ワールドマスター』では【体格】にステータス補正がかかるのだ。これは非常に単純な法則性になっていて、【体格】が大きい者は肉体の基礎となるスキルに上昇補正がある利点の代わりに、素早い動きをするためのスキルに下降補正がかかるといった欠点がある。

〈エイコオ〉の二メートルはあろうかという巨体ならば一・一倍……いや一・二倍の【腕力】補正がかかっているかも知れない。だからこその怪力――!!

 俺がなんとか中空で体勢を立て直そうと奴らに視線をやった次の瞬間。

 俺の体は宙で魔法の爆撃を浮け、下へと吹き飛ばされ、エントランスに勢い良く落下した。

 背中を打ちつけた衝撃に思わず苦悶の声が漏れる。倒れたまま顔をあげると〈サージュ〉が持っていた杖を突きだしていた。その杖は赤い光を帯びて輝いている。どうやら〈サージュ〉が吹っ飛んだ俺を見て追撃をくれたらしい。

 しかも、〈サージュ〉の周囲に三つの雷を伴った光球が生み出される。【雷球ライトニング・ボール】だ。解き放てば直線状に飛んでいく弾道型魔法ではなく、その軌道を自在に操れる破壊魔法だった。つまり〈サージュ〉は三つの【雷球】を同時に操っているらしい。

 通常、魔導士は一つの魔法を操作するだけで頭が一杯になる。自分から離れたものを意識的に操作するというのは案外難しいのだ。二つの魔法を同時に操ることができれば上位の魔導士とされるが、〈サージュ〉は三つの魔法を同時に操ることができるようだった。やはり【二つ名持ち】との戦闘はやりにくい。……なんて厄介な。

 頭が、視界がくらくらと揺らめいていた。おそらく今の俺のHPは……もう二割前後しか残っていないのだろう。

 魔術士といった類は俺の弱点分野になる。なぜなら普通は誰もが大なり小なり成長させている【魔導耐性】スキルが俺は『0』だからだ。なので俺と同レベルの魔導士が放つ魔法ともなると、俺へのダメージは近接攻撃よりも高い数値をたたきだしてしまうのだ。

 しかし、奴らが《正道騎士団》だということを忘れていた。不意打ちなんて汚い手を使うことに何のためらいもない奴らだ。腐っても武人だな、なんて思った自分が嫌になる。

 俺は自分の身体に鞭を打ち、起き上がる。すぐにアイテムボックスから最後の回復アイテムを選択し、右手に出現させる――が、そぐそこまで拳法家の〈シュウソ〉が俺へと駆けてきていた。


「アイヤァアッ!!」


 掛け声とともに〈シュウソ〉が跳びかかってき、俺の顔面めがけて飛び蹴りを繰り出す。

 俺はその蹴りをブリッジの要領で背中を反らして回避する。俺の真上を〈シュウソ〉が飛びすぎていき、背後へと着地した。俺は背を向けている〈シュウソ〉へと振り返りざまに左手の剣をヤツの首めがけて薙ぐ。が、〈シュウソ〉は身を低くして俺の一閃を回避すると、体勢を横にしたまま、足幅を広げるように俺へと一歩大きく左足を踏み出す。そしてその勢いのまま左の鋭い肘鉄を俺の腹目掛けて繰り出してきた。

 すぐに俺は左手の剣を縦にして盾代わりにし、その刀身で肘鉄を受ける。しかし肘鉄の勢いは左手一本で受けきれるものではなかった。俺は慌てて縦にした剣の内側へ十字になる形で右腕を滑り込ま、ガードを強固にする。

 同時に、俺は自ら後ろへと跳躍して〈シュウソ〉の肘鉄を相殺した。

 ふわり、と着地した俺の背後から轟ッと風が唸る音が聞こえた。俺は自分にかかる大きな影を見、背後で誰が何をしているのか理解する。〈エイコオ〉がその超重量級の大剣を両手で振り上げているのだ。

 俺は一も二もなく、左へと横転する。


 ズガァアアァアアアンッ!!


 俺が元いた場所へ、〈エイコオ〉の大剣が振り下ろされ床を割る音が聞こえた。

 俺は素早く立ち上がると、振り向きざまに〈エイコオ〉の胴へと左手の剣を一閃させる。

 確かな手応え、俺の一撃は〈エイコオ〉の鎧を裂き、赤い血を飛ばしていた。

 が、〈エイコオ〉はにぃと笑む。


「ハッハァッ! やるなあッ、俺にこれだけの痛みを与えるとは相当攻撃力に特化していると見たぜ、チビィ!! だがなぁ、俺の防御力の前には蚊が刺した程度でしかねぇんだよッ!!」


 瞬間、〈エイコオ〉のその太い両腕の筋肉がミシッと流動する。そして振り下ろし床に突き刺さった大剣を俺へと薙ぎ払ってきた。

 俺が身を屈めると、〈エイコオ〉の斬撃が俺の頭頂部スレスレを掠めていく。

 大剣が通り過ぎ、俺の頬を荒れ狂った風が撫でていった。

 大剣を振りぬいた格好の〈エイコオ〉の隙を見逃すほど馬鹿じゃない。俺は立ち上がり様に左手の剣で〈エイコオ〉の足を断たんとばかりに斬りつけようとする。が、そこへ――

 俺の左側から〈シュウソ〉がスライディングしながら、俺の足を絡めとろうと蹴りを放ってきた。

 俺は剣を振るうのを中断すると、空中で膝を抱えるように両足を地面から離して〈シュウソ〉の蹴りを避ける。が、その時、ぽろっと俺の右手から回復アイテムの瓶が零れ落ちる。

 ――まずった……!

 瓶は重力に引かれて下へと落下していく。俺はそれを目で追い、右手で掴みなおそうと伸ばす。

 が、あろうことか俺の真下へと入り込んでいた〈シュウソ〉が瓶をつま先で蹴りあげた。

 跳ね上がった瓶は俺の顔面へと向かってきて、鼻っ面にぶつかる。


「ッ!」


 ダメージにもならないようなダメージだが、俺の行動をワンテンポ遅らせるのには成功していた。

 そして〈シュウソ〉は寝そべったままゴロゴロと横転して俺の真下から消えていく。

 そこへ――


「ぬるぅおおぉおぉらあああぁあぁッ!!」


 再度、超重量級の大剣を振り上げた〈エイコオ〉が、〈シュウソ〉の蹴りを避けるため、まだ宙を漂っていた俺へと咆哮と共に振り下ろしてきていた。

 その大剣は俺の身を縦に真っ二つにするように振り下ろされていた。宙にいる状態では避けられるはずもない。

 こなくそがぁあッ……!!

 だが、俺は思いっきり身体を捻ると――振り下ろされてくる刀身に手を添えるように――刀身へ横から右掌を打ち付ける。そして、右腕に力をありったけ込めて、腕立てをするように右腕を伸ばす。

 空中で身体に勢いがつき、俺は右横へと斜めに転がり落ちた。

 なんとか〈エイコオ〉の斬撃から逃れられたものの、まだ安心はできない。俺は転がった反動のまま起き上り、〈エイコオ〉へと眼をやる。〈エイコオ〉の大剣は床を割り、土煙を巻き上げていた。その土煙に乗るように、俺の顔にぶつかり地面へ落ちたはずの回復アイテムの瓶が俺の方へと吹き飛ばされてくる。

 ラッキー……!!

 しかし、回復アイテムと一緒に、〈エイコオ〉の床へと突き刺さった大剣を飛び越え、〈シュウソ〉が俺へと跳びかかってきていた。

 横目で〈サージュ〉の様子を確認すると、〈エイコオ〉と〈シュウソ〉から離れた俺を逃すまいと操られた【雷球】を俺へと接近させていた。

 前から〈シュウソ〉、右横から〈サージュ〉が操る三つの【雷球】。どうやら俺に休ませる時間も与えず三人で畳みかけるつもりらしい。

 んにゃろーがッ、しつこいってんだよッ……!!

 俺は怒り任せに左手の剣を〈シュウソ〉へとぶん投げる。

 ブーメランのように横にぐるぐると回転した俺の剣は回復アイテムの瓶をさらに上へと弾き飛ばし、〈シュウソ〉へと滑空していく。

 俺は剣を投げた後、回復アイテムの瓶を手にするため、〈シュウソ〉に背を向け野球のフライを追うように壁際へと走る。

 俺の足跡を追うように、〈サージュ〉の【雷球】が床に着弾し、着弾した箇所を中心にして円状に紫電を迸らせる。おそらく当たればスタン効果があるのだろう。俺の足を止めさせ、前衛二人に仕留めさせるという作戦か。だが遠くから放たれる魔法は俺にとってそれほど怖くない。俺の眼ならば注意さえしてれば避けるのはたやすいからだ。

 だが問題なのは二人の前衛を相手にしながら、そちらに注意を割けるかということ。何にしても回復が先だ――!

〈シュウソ〉は俺の投げた剣を難なく、中空で上下から挟み込むように白羽どりしていた。そして、その剣先を右手指に挟むとナイフ投げと同じくして俺の斜め上空から投げ放ってくる。

 俺は背後から串刺しにせんと飛んできた剣を前に跳んで回避すると共に、跳躍したまま壁のとっかかりへ右足を着地させる。そして、その壁を蹴ってさらに高く跳んだ。その先には――くるくる回転しながらこちらへと向かって飛来する回復アイテムの瓶。

 もらい――!!

 俺は見事に瓶を右手でキャッチすると、親指でコルク栓を抜き放ち、中空でそのまま飲み干す。

 そこに老魔術師の〈サージュ〉が放ったであろう【雷球】が狙ったように俺へと弧を描いて滑空してきていた。

 空中に浮いてる相手を――こんな正確に狙ってきやがるのかよ!

 間近まで迫ってきていたそれに、俺は右腕を大きく振り上げ、下へ――〈エイコオ〉へと叩き落とす。右腕にビリッと痺れる感覚が走る。

〈エイコオ〉は自分へと飛んできた【雷球】に驚いた様子もなく、にやりと笑うと、その大きな剣を盾にした。

 ズドォオオオォンッ、と音がして〈エイコオ〉を煙が包み込む。

 俺はすたり、と床へ着地するとすぐにアイテムボックスから予備の剣を選択する。

 すると俺の意志に『ワールドマスター』が反応し、俺の左手付近の空間が揺らめき、予備の剣が瞬間移動したかのように出現していた。そして俺はちらりと〈エイコオ〉の方を確認する。

〈エイコオ〉を包む煙が出入り口から入る風に流れて晴れていく。が、変わらず〈エイコオ〉は何の傷も追わず立っていた。代わりに、大剣の刀身、一部が少し黒く焦げ付き紫電を放っているくらいである。

 俺は自分の左にいる〈エイコオ〉を視界に納めたまま、右へと意識を向ける。そこにはこちらの様子を伺って構える〈シュウソ〉の姿。

 二人から間合いが開いているのを確認して、やっと俺は一息吐いた。


「ふぅ」


 …………かなりキツい。タイマンなら勝てる相手だろう。だが、【二つ名持ち】三人を同時に相手して勝つにはそれなりの覚悟と時間が必要そうだ。素早さと柔軟な拳法を生かした〈シュウソ〉、その相手をしているうちに一撃必殺の〈エイコオ〉が斬撃を仕掛けてくる。あるいは、〈エイコオ〉が先に攻撃を繰り出して肉壁になり〈シュウソ〉が仕留めにかかる、という感じか。……面倒な……。かといって二人から離れれば〈サージュ〉が魔法を撃ってくる。逆に言えば〈サージュ〉は俺と〈エイコオ〉、〈シュウソ〉が間合い内で戦っている間は魔法を撃てない。ならば最善は、足を使って鈍足の〈エイコオ〉からは距離をとり続け〈シュウソ〉をおびき寄せ一対一に持ち込ませ、〈シュウソ〉から離れず〈サージュ〉には魔法を撃たせない、というところだろう。……だが、〈シュウソ〉がそれに乗ってくるとは限らない。乗ってきたところで危うくなったら俺から離れて〈エイコオ〉とタッチ交代、〈サージュ〉の回復魔法を待つだろう。……やはり面倒だな。相手の攻撃を避けるか、防ぐか、左手に持つ剣で斬撃を繰り出すか、右拳を打ち付けるか、一つの選択を誤ればこちらのHPが空になるまで一気にコンボを決められそうだ。

 さぁて、どうしたものか――


「…………ハハッ、凄ぇ! 凄ぇぞこいつァ! 俺たち三人を相手にしてほぼ無傷で立ち回ってやがらぁ! ハハハ、ハッハハハハッハ!!」


 嬉しそうに〈エイコオ〉がそう言った。そして、その巨体でズシンズシンと足音をさせながら、どこから攻めようか品定めでもするように俺の周りを回り始める。


「……恐ろしく強い相手だ。一歩間違えれば命を刈り取られる。知らん名だが……間違いなく別タイトルではかなり有名な【二つ名持ち】プレイヤーだな。戦闘の精細さが素人のそれではない」


 同じく俺と一定の距離を保ったまま、〈エイコオ〉と対角線上になるように回る〈シュウソ〉。

 その二人が視界に入るように俺は少しづつ体勢を入れ替えながら、右へ、左へ、そして階段上で三つの【雷球】を漂わせたままの〈サージュ〉へと視線をせわしくなく移動させる。

 空間を緊張が孕んでいく。

 と、その時だった。

 耳鳴りがした。

 ィィィイイィイーーーーン、という異音。そしてその音は徐々に大きくなっていく。

 つまり、何かが近づいてきているのだろうと俺は理解する。

〈エイコオ〉が「あん?」と音の行方を追うように視線を巡らせた瞬間。


 ドゴォオオォォオォオオォオオンッ!!


 ――ロケットが如く高速で飛来してきた彼女の両足の鉄底――ドロップキックが〈エイコオ〉の間抜け面に突き刺さっていた。


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