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『ワールドマスター』/サイバーソーシャルネットゲーム  作者: 著者不明
ERROR4 『偽りのディカイオシュネプログラム』
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第一話 『“魔王”ってどんな人なの?』

【二一五三年/機月七日/木の日/一六四三時/はじまりの世界/デオール山道】


 ログインすると、俺は薄暗いテントの中で横になっていた。

 身を起こして伸びをしていると、光と共に〈ミライ〉――明日野未来のこの世界の姿――がテントの中に出現した。

 ミライは白を基調とした魔女っ子ルックだ。先がぐるっと巻いた杖に、ひらひらとしたスカートと合わさって、いかにも子供アニメに出てきそうな姿をしている。現実の世界と同じように背中にかかる亜麻色の長い髪、その頭には白いヘアバンドをつけていて、左の耳元には赤い花が咲いている。それがミライだった。

『ワールドマスター』は戦闘時以外、いつでも、どこでもログアウトできる仕様だ。なのでちょっと空いた三〇分の時間でも一狩りくらいできたりもする。だが、ログイン、ログアウトした場所によってキャラクターの【体調】が変動するので、可能な限りテントや宿屋で行った方が良いのだ。

 ちなみに、テント内やベッドの上でログイン、アウトするとログアウトしている間少しづつ体力と【体調】が回復していく。要するに、ログアウトはこの世界でのキャラクターにとって睡眠をとるのと同じってことらしい。

【体調】は【絶好調】【良好】【通常】【不良】の四段階に別れていて、【絶好調】にするには宿屋や自宅といった場所に行き、ちゃんとベッドでログアウトしなければならない。

 情報によれば【体調】は敵に与えるダメージや最大HP、最大SP、最大MP、取得経験値にさえも大きな影響を与えているらしい。戦闘や激しい運動を行うと疲労が溜まり【体調】は悪くなっていくので、適度に休憩や睡眠――ログアウトをする必要があるわけだ。【体調】回復方法は幾つかあるが結局のところ一番手っ取り早いのはログアウトすることだそうな。

 なので廃人が如く長時間ぶっ続けでレベル上げをしても結局は非効率になってしまうらしい。頭の良いプレイヤーが計算、比較したところによると【絶好調】【良好】維持時と成長速度が実はそこまで変わらないのだとか……。

 ステータス画面を呼び出すと、今の俺の【体調】は【良好】になっていた。まあ、長旅が続いてるから三時間ほどで【通常】に落ちるんだろうけど……。

 俺がステータス画面を見ていると、


「って、せまっ! 先にログインしたのならさっさと出なさいよ! 中に四人も入っていられるテントじゃないんだからっ!」


 ログインするなり一之瀬こと〈ミヤ〉にテントから俺とミライは蹴り出されてしまう。

 テントから追い出されると、木に二頭のお馬さんが繋がれているのが眼に入る。その横、馬の傍にある荷台の上で金髪の美人さんがいつものように古書を読んでいた。

 金髪の美人――フェレア=レイアスさんだ。

 歳の頃は二十歳前後。赤いドレスの上に四肢を包む銀の甲冑。バスト88のDカップ。その騎士姿もさることながら、彼女のしなやかで独特の剣術は眼を奪われるほど美しい。俺たちは彼女にこの一ヶ月間、幾度となく助けられ、そのDカップに癒されてきた。

 彼女は俺たちと違って『ワールドマスター』の世界に住まう情報生命体(グローナ)だ。『ワールドマスター』に存在しているNPC(ノンプレイヤーキャラクター)はみんな、人格と個性を持ち、自分で考え、自分で決め、自分で行動している。

 そう、彼女らはこの『ワールドマスター』という世界で、一度の生を生きているのだ。


「そろそろ来る頃だと思っていました。しっかりと学業を修めてきましたか?」


 ぱたり、とフェレアさんはDカップの前で古書を閉じた。


「はい、もちろんですよ、フェレアさん。俺は学校じゃ日本一の秀才で通ってますからね」


「城東学園で最下位の成績とってる奴がよくそんな大それた嘘をつけるもんね」


 テントの天幕をめくってミヤ、ナーガ、トラたちが出てきた。

 くっ、一瞬でバラしやがって! ちょっとくらいカッコつけさせてよ、ミヤちん!

 ミヤは動きやすさと、素早さを追求した軽装だった。現実の姿と同じツインテールに、胸の形がよく分かる金の胸当て、同じく金の両手甲、黒のホットパンツ。武器は膝まで包んだ金色に光る鉄靴で、くるぶし辺りから白い羽根が出ている。なかなか洒落たへそ出し装備と武器で、カラーは金と黒で統一されていた。

 ミヤは荷台へと跳びのってフェレアさんに詰め寄った。


「フェレアさん、今日中にジョルトー城下町まで着けそう?」


「うーん、そうですね。もう眼と鼻の先、という感じですよ。この山道をもう少し進むと開けた場所に出るんですが、そこから城下町の街並みを見ることができるはずです」


 ほっ、とミヤは胸を撫で下ろして荷台に座る。

 俺と〈トラ〉――虎雄は木にくくりつけた馬の縄を外して、荷台に結びなおす。

 トラは狩人のような姿だ。背中に折り畳み式の大弓を背負い、腰の両側に矢筒をつけている。首にかけた銀縁のゴーグルと、七分丈の虎柄ズボンがとてもトラらしい。

 一ヶ月も経つと俺たちの装備もかなりまともな物が揃っていた。


「良かったわね、ミヤ。夜までには城下町に着けそうだわ。何もなければ、だけれど」


 ナーガのいかにも悪女の姿にも磨きがかかっていた。

 黒を基調とした扇情的で露出度の高いドレス姿は、相変わらず男を誘っているとしか思えない。両サイドに深いスリットが入った前と後ろだけを隠す短い布、そこから伸びるふとももと細かなレースの黒タイツ。長い黒髪がかかる背中は丸見えだし、胸元からはブラの黒いレースが見え隠れしている。

 彼女が荷台に足を組んで座ると非常に眼のやり場に困る。まあ、じっくり拝ませて頂いておりますがねっ!

 しかし、スカートのスリットからチラチラと見える短剣と手首に巻いたヘビの銀輪があまり眺めるのは危険だと俺に告げていた。

 そして俺はというと左腕は素早さ重視の軽装、右腕は頑丈な手甲に覆われた左右非対称、アンバランスな装備をしている。左手で扱う武器、剣も軽さと手数を重視したものだが、右拳は一撃の重さを追求しているため、シルエットもゴツく太く見える。

 テントを畳んで荷台に積み、俺とトラは馬にまたがった。


「それじゃあ、出発~っ!」


 ミライがそう声をあげたまさにその時だった。出発を阻止するかのように木陰から俺たちの進行方向へ、武器を持った二足歩行の豚の一団が飛び出してきた。

 後ろから、ぷちっ、とミヤの何かがキレる音がした。




 ミヤの鬼のような大活躍により豚の一団を退け、俺たちの荷台は山道を進んでいた。

 この山道を下ればもうジョルトー城下町ということもあって、荷台の女性陣は城下町がどんな所なのかわいわいと話に花を咲かせている。馬を操る俺とトラはネットから収集した『ワールドマスター』の情報を共有化しながら今後の方向性を話し合っていた。

 しばらくしてミライがどきりとさせる質問をナーガに投げた。


「ねえ、ナーガちゃんが探してる“魔王”ってどんな人なの?」


 ぴくっ、と俺は後ろの荷台の話に耳を傾ける。

“魔王”――CSNゲーム史上最強最悪のプレイヤーに与えられた二つ名だ。

“魔王”は《ディカイオシュネ》というサイバーセルズを設立し、十何年間、誰も果たせなかった『七つの未攻略クエスト』のすべてを攻略した。

 偉業を成し遂げた“魔王”だったが、彼は突然に《ディカイオシュネ》のメンバー全員を虐殺し、CSNゲームから姿を消したのだった。

 ナーガは様々な伝説を残す《ディカイオシュネ》に所属していた過去を持っている。

 彼女がこの『ワールドマスター』に参加しているのは“魔王”がなぜ自分たちを裏切り殺したのか、その理由を問うためらしい。

 何でも“魔王”は『ワールドマスター』に参加表明を出しているらしいのだ。二年間、姿をくらまし続けた“魔王”がCSNゲームに戻ってきてたという情報を聞きつけてナーガはこの『ワールドマスター』をプレイしているのだった。

 まあ、その“魔王”って実は俺なんだけど……。そのことを俺は誰にも話さず隠し続けていた。最初から知っているトラを除いて、だが……。

 そもそも俺は参加表明なんか出してないんだよね。きっとどっかの誰かが面白がってデマを流したのだろう。結果的には本当にCSNゲームに戻ってきちゃってるんだけどさ。

 ナーガは昔を思い返すように視線を下にしていた。


「……そうね。一言で表現すれば……無茶苦茶な人よ。もし本当に“魔王”が……あの人が今、この『ワールドマスター』をプレイしているとしたら、大騒ぎ、大事件なんて表現が軽いほどの大混乱を招くでしょうね」


「へぇー。“魔王”の噂は私も耳にしたことあるけど、そんなに凄い人なの?」


 ミヤも興味深げにナーガの話に身を寄せる。


「誰よりも早く異変に気づき、誰よりも早く先を読み、誰よりも仲間の事を考えている。そして……誰よりも強い。……そういう人よ。あの人が私たちを裏切るなんて何かの間違いだと思ったわ。……あの人がこの胸を剣で貫くまで信じられなかったわ」


「ナーガさんが手放しでそんなに褒めるなんて……。……本当に凄い人なんですね」


 辛口毒舌がチャームポイントとさえ言えるナーガがする“魔王”の評価にフェレアさんが驚いた顔をしていた。


「ええ。はっきり言って、私は彼を崇拝していると言っていいわ。……凄い人よ」


 フッ、照れるじゃないか……。よぉし、お兄さんなんだかやる気出てきちゃったぞー!

 そんなナーガをミライはじーっと見つめ、いきなり突拍子も無いことを言いだした。


「…………もしかしてナーガちゃん。“魔王”さんのこと、好きだったの?」


「「ぶふぅぅうぅううっ!!」」


 いきなり出た話題に俺とトラは思わず吹き出して咳き込んでしまった。



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