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第四十八話 『宣戦布告』


 新学期に入って4日後、一通りデータ取りを済ませた新入生たちが並び、上級生に紹介されていた。

 次々と自己紹介をしていく中、1人の少年の番が来る。

 爽やかな短髪をマットな金色に染めた、しかしそれ以外はいかにも野球少年という風体。その鷹のような鋭利さの黒眼には挑戦的な色を宿らせている。



「左右田啓介、1年、ピッチャー。左右両投げです。特待生として入りました。

 とりあえずの目標は、暁幻大を超えるピッチャーとして、エースになることです」



 開口一番、現エースに対して挑戦状をたたきつけて来た。

 だが暁は、明確にライバル視されているににもかかわらず「へー、そうなんだ」などと受け流している。


 その様に、左右田はぎりっと奥歯を噛み締め。



「また、相手をする価値もないと、そう言う気か?」



「え、なにが?」



 やたらと突っかかってくる後輩に、暁は困惑。

 そこに紫苑がつつっと近寄ってきて、暁を屈ませてから耳元に。



「幻大くん、たぶんですが彼は文化祭に来ていた少年では?」



「え、だれ?」



 暁幻大、完全に過去のことを忘れていた。ストラックアウトで勝負を挑まれたこともすっかりと。

 暁に言わせれば、髪が変わっていたから思い出せないのも仕方がなかったと後年に述べたそうだが、説明されて思い出してないので、たぶんそういう問題ではない。



「あ、そうだ、それより一緒に飯にでも行こうぜ」



 暁にとっては、それは梅本のように距離を詰めようとした、仲良くなって先輩として振舞おうと思った行為だったのだが。



「行くわけないだろ!俺はなれ合いに来たんじゃないんだ!」



 左右田、猛烈に拒否。それはそうである。

 暁、どうしていいか分からず困惑。自分なら奢りか、どんなお店か聞くのにと。


 そこに田代がインターセプト。



「左右田、野球選手なら口でなく実力で語るんだ。少なくとも俺はそうするつもりだ」



「……はい、田代先輩」



 左右田、鎮火。

 暁、なぜ田代の言葉は聞くのか分からない。


 それでも何とか先輩らしいところを見せようとして。



「左右田、頑張ろうな」



 ぎっと、睨まれた。田代は額に手を当てていた。

 バッドコミュニケーション。空気の読めてなさ、花丸。






 一室にて、暁は4人の少女と引き合わされていた。

 波間晶、海咲零、藍原澪菜、そして初対面の藤堂葵(とうどう あおい)。

 晶6をメイン、残りをサブとする、今年の暁を担当するマネージャー達である。


 むすっとして澪菜から立ち位置を引き離そうとしている晶、ラプソードをケースに入れ両手を組んで自分を大きく見せている澪菜、どこか必死そうな零、ガチガチに緊張している葵。


 口火を切ったのはまず、零。



「あの、暁くん!私、夏から勉強してきました!今ならウェアラブルの野球専用項目の解釈も、ずいぶんできると思います!それに、栄養学も!

 ベストコンディションで送り出して見せます!それで、あの、隣で支えても、いいですか?」



 零は夏、報告ミスで暁をそのまま見過ごし、敗北させたことに責任を感じていた。

 だからこそ、この約8か月で詰め込むだけ詰め込んで成長したつもりだった。

 それでも怖い、もしどこかで恨まれていたら、必要ないなんて言われたら、と。



「そうなんだ。めちゃくちゃ頑張ってたもんな。

 これからもよろしく、零」



「――はい!」



 ぱあっと、ミステリアスの霧を晴らすように元気に答えてしまって、すぐに気が付いた零はすすすと髪を整えながら。



「あなたの全てを、私が管理してあげますから」



 そんな自分の思うミステリアス台詞に変換した。


 一方、緊張をあらわにしながらも、葵は必死に自己紹介し始める。



「あの、藤堂葵、です。入部したばかりで、中学もマネージャーをしてましたけど、それだけです。

 教育係の後継枠として採っていただきました。

 監督は、先輩に教えてもらえって……あの、よろしくお願いします、先生っ」



 見た目は大人し目で、黒縁の眼鏡に少し赤茶けた感じのセミロングのストレートの髪型、雰囲気は小動物を思わせるが、平均よりも少し小さいだけの身長に澪菜以上・晶未満の豊満ボディ。

晶が普段さらしで胸を潰していることもあり、この場では葵と澪菜が特にスタイルがいいように見える。



「『先生』?先生か~。うん、よろしくな葵。なんでも教えるから、気軽に聞いてきていいからな」



 澪菜・左右田と、暁視点でなぜか敬われてなさそうなところにこんな素直そうな相手。

 暁は即座に、先輩としての振る舞いをしたかったのもあり、懐の内に入れた。


 監督の意図としては、放っておくと誰にでも先輩ぶろうと間違ったことをしでかしそうなので、大人しく聞き分けのよく相性のいい後輩を先だって宛がっておき、暁に正しい先輩としての自覚を養いながら、ついでに葵の教育もしてもらおうという、一石二鳥の考えであった。


 葵が生贄にされた、などと言ってはいけない。葵であれば無意識に暁をおだて誘導し、いい感じにしてくれるだろうという監督の信頼である。

 出会って数日でどうやってそんな信頼が生まれたのかは摩訶不思議であるが、監督はあくまでそう主張したという。


 これが2年生となった暁を支える新体制。

 フォーム調整の晶・投打データ解析の澪菜・健康管理の零、そして教育係の卵たる葵。

 2年生2人と1年生2人によって構成される、頼もしそうな陣容であった。

 そして、晶が一人苦労しそうな陣容でもあった。



「さあ、暁先輩、さっそくラプソードで測定させてください!私はもう我慢できません!

 そこの古びた職人にも手伝ってもらいましょう!」



 堂々と大きな声で、もう紹介劇は終わりでいいだろうと、勝手に判断した澪菜が舵を取る。

 当然、これにぎょっとしたのは同じ1年の葵だ。



「あ、藍原さん!?せ、先輩にそんな言い方は!」



 しかし澪菜はきょとんと。



「しかし、この人がいないと現場に落とし込めませんよ?」



 なにやらかみ合わない。そこで、零がミステリアスを装って助け舟を出す。



「藍原さん、『古びた職人』とは、どういう意図なのかしら?」



「昔気質で有能な人間って、そういう風に言いません?」



 言うかもしれないが、基本的にその言い方をする場合悪意やディスが入っているものではなかろうか。

 驚いたことにこの澪菜、全くの悪意ゼロ。むしろ彼女の中では古びている=アンティーク=高いだと、自身の父の骨とう品収集癖を見て認識していた。

 それが他者にはまず伝わらないと、認識していなかったのである。


 これにはさしもの暁も呆然。あの暁が、である。



「ふふふ、私はこの星海にへんてこ人間たちのデータを存分に解析するために入学したのです。

 まずはその筆頭である暁幻大を丸裸にし、我がラプソードの素晴らしさを証明し、ラプソードに心酔してもらう。これが私の目標です!」



 この場にいる皆の心は一つになった。

「一番へんてこなのはお前だよ」と。



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