第三十九話 『ネットの海より』
秋季関東大会、準々決勝。対戦相手は強打で有名な、埼玉の花咲徳栄高校。
甲子園の常連校でもあるこの高校は、端的に言ってまだ星海学園を少し舐めていた。
いや、夏に秋と続けてあの神奈川で上位に駆け上がったことは評価している。だが、そこから先はまだ偶然勝ったのだと思っていた。
これは、他県へのスカウティング期間が短かったために、ある程度有名ではない学校に対する分析の優先順位を下げてしまったことによる。
花咲徳栄にとっては、星海はこの関東大会で最も格下に見えたのだ。だから、集めたデータ量も少なければ分析も雑、ざっと基本データをさらった後に表面に少し踏み込んだ程度でしかない。
完全に鶏が先か卵が先か状態で、調べないから警戒心が薄く警戒心が薄いから調べないという形になっていた。
この試合は、ネット中継でも配信されていた。
そこで流れるコメントを追っていくとしよう。
『お、1年投手』
『暁ってやつ華奢だなー』
『球速大したことないな』
『打て打て花咲徳栄』
『お、埼玉県民か?』
『ま、こんなん打てるだろ』
『いや、実際はすごく打ちにくいぞ』
『球速見えない奴ww140ないがw』
『選手は練習してろw言い訳乙』
『俺でも打てるわwww』
『花咲徳栄なにやってんの』
『さっさと打てよこんな1年。俺は田代のが見たい』
『あー、分かる。もう150出てるんだろ』
『花咲徳栄、またも打てないとかw』
『当たってはいるだろ』
『ヒットにならなきゃ意味ないじゃん』
『あー、またアウトです』
『徳栄ー!』
『運悪すぎ』
『お前ら神奈川の中継見てなかったんか』
『は?うちは茨城だが?』
『東京だぞ』
『大阪っすね』
『関東に来るな関西人が』
『名古屋って言いにくくなった』
『言っとるがw』
『お、徳栄のエース出てきた』
『でるか151の直球』
『いやいやこいつの武器は変化球ねw』
『なんなんこの星海の1番』
『粘りすぎw打てなさすぎww』
『あー、『毒沼』なあ』
『なんそれ?』
『1年なのにあだ名あんの?』
『見てりゃ分かる』
『草w13球も打ってヒットなしww』
『何のために出てきたのこいつ』
『こいつ、今大会ヒット1本だぞ』
『1番にしていい選手じゃねえw』
『やっぱ徳栄のエースには勝てんなw』
『2番、多動なんか?』
『ちょこまか動きすぎww』
『徳栄エースがブチギレ直球ww』
『はーい打てません』
『やっぱ星海まぐれか』
『まぐれでここまで来れてたまるか』
『お、『良心』だ『良心』』
『星海、ネーミングはおもろいよな』
『野球関係なくて草』
『お、やっとヒットじゃん』
『『良心』は上手いんだよな』
『『静かなる天才』って呼んでやれよw』
『で、でかー!』
『来たか、『大火砲』』
『だからネーミング』
『マジでけえ。徳栄が子供みたいだ』
『ホームラン打ってくれー!』
『え、なに。有名なん、こいつ?』
『端的に言うとホームランの申し子』
『ヤダなに格好いい』
『あああ“、扇風機だあー。うぉぉ』
『なんか濃いやつおるな』
『うーん、ロマンですねえ』
『いや打率もいいからねこいつ』
『しかしそれも抑える徳栄である』
『どや顔してんなあ、回し者か?』
『2回の時間だー!』
『コテンパンにしろ徳栄打線!』
『まーた守備に阻まれた』
『運良すぎだろこの投手』
『星海の守備を褒めてやれよw』
『『良心』、守備も動き良くね?』
『星海の遊撃手は伝統的に優秀なのよ』
『有識者さん、ちーすw』
『クリーンナップも全滅まじかあ』
『今日、徳栄終わってんな』
『まだ2回だぞ』
『しかも一人残って、』
『あ』
『あーあ、三振かあ』
『140くらい打てよ』
『打てない奴がなんか言ってるw』
『は?打てるが?』
『徳栄、なんで今日はダメなん?』
『敵が強いんだろ』
『は?ないないwだから球速見ろってw』
『これだから球速至上主義は』
『は?やんのか?』
『星海は5番から――』
『徳栄エースつよ』
『これは自打線にお怒りですかね』
『なぜ絆として見ないのか』
『星海も打てないなあ』
『星海は今ので2本ヒット出てます』
『点にならなきゃ変わらん』
『お、野球素人か?』
『おお、エースがまた三振だ』
『徳栄って打線が有名だったはずでは?』
『県代表がエース弱いわけないです』
『星海の8番も打てないな。こいつキャッチャーか』
『星海は1年多すぎ。2年何やってんだ』
『はい、3回でーす』
『なあ、ここまで誰も打ててなくない?』
『今年はダメかもしれんな、徳栄』
『打線に自信ありはどうした』
『全員スランプか?w』
『暁がヤバいんだって』
『あー、確かに強運でヤバいな』
『全部守備の手の届くところにいくじゃんw』
『星海って守備カチカチだったんだな』
『投手じゃなくて守備のチームか』
『あ、ヒット1本出た』
『やっとかw』
『でも続かねえw』
『徳栄、ほんとどうした?』
『いやまだ1巡目だろ』
『それでも打てなさすぎではあるだろ』
『こういうこともあるだろ』
『相手が強けりゃな』
『そりゃそうだwww』
『www暁、バットを忘れる』
『何やってんだこいつ?』
『野球舐めてんのか』
『構えもやる気なし』
『これはひどい』
『微動だにしない』
『突っ立ってるだけww』
『帰れお前は』
『んで、『毒沼』か』
『こいつの打順終わったら呼んで』
『なげーんだよな、こいつの打席は』
『今度は何球粘れるか』
『1人違うゲームやってね?こいつ』
『塁に出た。何球?』
『10球。今回短かったな』
『短いとは??』
『2番、ちょこまかするも死す』
『おおお、『良心』のセーフティバント!』
『こんな小技も使えんのか!』
『2アウトでやるんだ、度胸あるなあ』
『3塁に上手く転がして走り込んだね』
『それがセーフティだからな』
『んで、2人ランナーで『大火砲』と』
『プレッシャーえぐそう』
『何度見てもでけえ』
『行ったー!』
『うおおおおお!!』
『ついに先制弾だああ!!』
『場外に消えなかったか?』
『なにあの打球の軌道……』
『3点!3点!』
『誰?星海弱いって言ってたやつ』
『わいです』
『俺も』
『俺は最初から分かってた』
『嘘つけwww』
『5番もヒット』
『強打は星海じゃん』
『花咲徳栄のお株がww』
『あ、6番で終わった』
『エースの意地発動』
『もう1/3終わったか』
『星海って守備と打線のチームだったんだ』
『いや夏まではそんなことは』
『現状を受け入れられない奴ww』
『暁4イニング目』
『実況「『蜃気楼』の面目躍如です」』
『『蜃気楼』ってなんぞ?』
『知らんのか?』
『ああ!』
『暁の異名。神奈川では夏からついてる』
『変な名前』
『同意』
『打てるはずなのに打てないから、らしい』
『俺がもっといいのつけてやるよ『運だけマン』』
『草』
『ぴったりで草』
『高野連はかっこいいの好きだからw』
『よっしゃ、徳栄2番がヒット』
『やっとあったまったか徳栄』
『遅すぎw』
『うげ』
『なんなんあの曲がり』
『え、あれMLBで見たような』
『えぐ』
『隠し持ってたんかあんな球』
『やばいやばい』
『球速じゃなくて変化球で抑えるタイプか』
『徳栄3番、腰引けてね?』
『1年が投げていい変化球じゃない』
『アウトー』
『『運だけマン』って言ったやつ誰?』
『すんませんした』
『神奈川でも投げてたんだが』
『そんなん知らんしwもっと投げろよ』
『俺らに言われてもww』
『4番、ヒット!おお、やれるじゃん徳栄』
『徳栄が格上な』
『でも今負けてるんだよなあ徳栄』
『まだまだこれからだし』
『はあー!?なんなんあの落ち!?』
『地面にバウンドしなかったか?』
『あんなん視界から消えてるだろ』
『球速も今までで一番遅いな』
『124ねえ』
『てかあんな球俺見たことないが』
『有識者ー、あれ何?』
『知らん、秋から投げだした』
『役に立たん有識者www』
『解説が首捻ってるのに分かるわけあるか』
『それはそう』
『5番、ストレートに反応できず』
『なに突っ立っとんねんw』
『徳栄の面汚し』
『クリーンナップが何してる』
『うわ、またえぐい落ち球』
『ほんと誰、『運だけマン』言ったやつ』
『マジすんません』
『さっきと別球種?』
『球速違うからそうじゃね』
『たぶん』
『俺らプロでも解説でもないんで』
『解説が違う言ってるから違う』
『つまり、暁=えぐい3種の変化球持つヤバい奴?』
『たぶんそう』
『これで1年かあ』
『球速上がったらどうなるん?こいつ』
『でもなんでこれ投げてなくても打てなかったの?』
『知らん』
『分かるわけあるかww』
『そこは守備やろ』
『お、裏になった』
『徳栄エース微妙に疲れてね?』
『一昨日も投げてるからなこいつ』
『今何球よ?』
『知るわけ』
『87やで』
『カウントしとるやつおるwww』
『言ってみただけなのに』
『え、今4回裏だぞ』
『そこはほら、『毒沼』が』
『毒ってそういう意味だったんかよ』
『知らない奴乙』
『お、やるか?神奈川ごときが東京民とよお』
『所在地争いしないでもろて』
『言ってる間にアウトになる7番8番』
『そしてほんとに暁は打撃やる気ねえな』
『「僕の仕事は投げるだけです」ってか』
『いや実際はどうなんだろうな』
『振りもしないからそうなんじゃねえの』
『打席では地蔵ww』
『5回来たー』
『田代き……あれえ?』
『え、続投の何が変なん?』
『暁、今まで4イニングより先投げたことなかったんよ』
『つまり?』
『初の5イニング目』
『虚弱体質かよw』
『その虚弱から1点も取れない徳栄w』
『あ?』
『やんのか?』
『そっかあ、田代まだかあ』
『田代好きだね』
『150km出す1年が嫌いなやつおる?』
『おらん』
『やっぱ投手は150からよ』
『登板中の変化球投手の立場ww』
ネットは騒がしく、中継を見届けていく。
そんな中、暁は完投体力をつけるためにいつもより一つ長く投げるのだった。




