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6話 いつもと違う

ベルモント領に週二日は通うことが当たり前になり、クラリスさんや妹のリリアさんとお茶をしたり、魔物討伐の依頼へ同行したり領民の頼みを一緒に聞いてまわったりして、なんとか彼女と過ごす時間を作っていた。


そんな日々を過ごしていたのに、アルヴェイン侯爵家の用事でもう一週間は王都にいる。家の用事で忙しくしている時は考える隙もないくらいだったが、ふとした時にクラリスさんのことを思い出していた。

(次の依頼は薬草の採取だって言ってたな。また怪我していないかな)

(この前持っていったお菓子、美味しいって言ってくれてたから、クリームが好きなのかな。また持っていきたいな)

(町外れの橋が壊れたって領民が困っているから直しに行くって言ってたの、もう通れるようにしたのかな)

少しでも時間があれば彼女のことで頭がいっぱいになってしまう。


「会いたいなぁ……」


全然そんなつもりなかったのに、気付けば声に出していた。


「クラリスさんだったかな?ノエルがそんなにベルモント領へ伺っていて相手は迷惑していないかい?」

誰とは言っていないのに机に向かっていた長兄のアレクシス兄様が、今まさに考えていた人の名前を言い当てる。

「そんなことは……ない、と思います」

少しばかり強引について行ってる自覚もあるので語尾は小さくなってしまった。

「それならばいいんだ。ベルモント男爵にもよろしく伝えておくれ」

「……はい」

実はまだベルモント男爵には会ったことがない。挨拶したいと申し出たことは何度かあるが、どうやら会えない事情があるらしい。男爵の話になるとクラリスさんは悲しい、辛そうな表情をするから最近は話題に出していなかった。


「さて、ノエル」

「はい」

アレクシス兄様が改まって声をかけてくるので僕も背筋が伸びる。


「今回は家のことで呼び出した上、手伝ってもらってすまなかったね。屋敷に缶詰になっていただろう?今日はもういいから久しぶりに王都で羽を伸ばしてきたらどうだい?」

「いいんですか?ありがとうございます!」

正直書類仕事ばかりで疲れていたのも事実。アレクシス兄様の提案に飛びつくようにお礼を言った。

「いいよ。頑張ってくれたからね。明日からしっかりまた働いてもらうから行っておいで」


(喜んでもらえそうなお菓子を探してみよう!)

もう次にベルモント領へ行くことを考えていた。



早速王都の中心街までやってきて流行りのお菓子を探す。

(かわいい飾りの焼き菓子だ。こういうの好きかな)

(クリームがたっぷり入ってるんだ。こういうの食べる姿もかわいいだろうな)

クラリスさんならどんな反応をしてくれるだろう。そんなことを考えてながら色々な店を見てまわるのが楽しくなってきた。

受け取ってもらえないのに、つい宝飾店にも目が向いてしまう。

(いつか、受け取ってもらえる日がきたらいいのにな……)


ついそんなことまで思ってしまった。


クラリスさんが、クラリスさんなら、クラリスさんは…………。考えることは彼女のことばかり。久しぶりに頭の中はクラリスさんのことだけで埋め尽くされていた。

「あれ、クラリスさんだ」

とうとう幻覚も見えているのかもしれない。何軒か先にある店からシックなドレスに身を包んだクラリスさんが出てくるのが見える。

いつものシンプルな装いと違って、ふわりと広がる薄紫のドレスにゆるく編み込んで下ろしてある髪。ヒールのついた靴を履いて少し歩きにくそうにしている。


「………クラリスさん!?」

王都に彼女がいるとは思ってもいなくて脳の処理がおかしくなっていたらしい。現実に気が付いてつい大きな声で呼び止めてしまう。

自分の名が呼ばれたことに気がついたのかきょろきょろとあたりを見まわし、そしてぱちりと視線が交差した。

「……ノエル様?」

まさか今日ここで会えるなんて思ってもなかった。


「お久しぶりです。まさか王都でお会いできるとは思っていませんでした。お元気でしたか?」

「ええ。ノエル様もお変わりありませんか?」

久しぶりのクラリスさんの声だ。

「王都でお会いするのは舞踏会の日以来ですね。今日のドレス姿、とてもお似合いです。もちろんいつもの装いも素敵ですけど」

「そんな……ありがとう、ございます」

素直に思ったことを伝えればクラリスさんの瞳が泳ぐ。耳がほんのり赤くなっているのは、もしかして照れているんだろうか。


往来の真ん中で話しているのは迷惑かと少し道の端へと移動する。ヒールで少し歩きにくそうだったから腕を組めるように肘を曲げる。

「どうぞ。エスコートさせてください」

「えっ!?いえ、そんなこと……」

クラリスさんは顔を赤くして、言葉を詰まらせている。

「お手をどうぞ」

どうぞ、と言いつつクラリスさんの右手をそっと取って左腕へ誘導する。

「ノエル様、申し訳ないです」

「歩きにくそうでしたから」

遠慮してそういうクラリスさんだが手を振り解くようなことはしない。だからにっこり笑って言う。


「僕はエスコートの機会をいただけて嬉しいです」

本日もありがとうございました。

明日の更新も20:00です。

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