第6話 じゃあ、どうするのか
「じゃあ、どうするのか」
「....」
それからぐっすりと眠れた翌朝。
颯が私の部屋に居座って、私が出したお菓子をバクバク食べている。
私の方へ足を投げ出し、地べたに座ってチョコの次は煎餅、大福、ポテトチップスを次々に乱れ食う。
そんな様子を私は正座で見守っているのだ。
「桜木桃香を殺すしか...」
「ばーかよく考えろつけ麺ちゃん。あいつを殺したって黒幕がいると言ったろ」
「その結果どうなるか....結局桜木桃香の代わりが出てきて私達を殺して終わり。また私は7月4日をさまよい続けお前は苦痛を受けながら死に続ける」
「......」
「そこで、じゃあどうするのかって問題」
「確か私達が7月4日に戻される理由って坂木ゆりが原因なんだよな」
「うん...私が黒幕解明に向かわない限り殺されるって...」
「なるほどねぇ...」
「.....」
「あっ」
「どうかした?」
「やっぱ殺そう。桜木桃香」
「....いやいや。今殺さないって言ったじゃん!」
「黒幕は桜木桃香という犬を派遣する。そいつが何らかの形で行動不能になった場合、また別の犬を派遣する」
「じゃあその別の犬が派遣されるまでの道のりを辿ればいずれ黒幕へとたどり着ける」
「長い道のりになる。ついでお前は、何度も死の苦痛を受けることになるかもしれない」
「もしこれをやるなら、相応の覚悟が必要だけど」
「どうする?」
「.....」
ここで死を受け入れるのは簡単では無い。
かといって颯が言ったように桜木桃香を殺す道を辿るのも簡単な道ではない。
いずれにしてもこの場に居続けては私の時間は文字通り進まない。
「......やる」
「私にはもう、その道しか残されてないから」
「ふっ....んっふふふふ.........」
「へっへーん。仲間ができて嬉しいぜつけ麺ちゃん」
また、彼女の気の抜けた笑った表情だ。
「......」
「...」
「私酷使していいよ」
しかしその3秒後、颯は真剣な顔をしてそう言った。
「酷使.....」
「ダメだよ....なんでそんなふうに言うの...?」
「私に颯を道具のように使えって言うの!?死ぬまで使えって!?」
「せっかくできた友達をそんなふうに....そんなの嫌だよ....」
「.....」
「さっき言ったように私は死の際苦痛を伴わない。そして私を酷使して黒幕を見つけるしか手段がもう存在しない」
「鶴木が死のループから抜け出すにはこれしか残されていない」
「他にどうしろと?もっといい案があるのか?」
「.......」
「言うところ、鶴木は自分で考えて行動する時が来た。確かに他の女子高生よりも早いが、残酷だがそういうことらしい」
「お前の死の苦痛を私は知らない。だから私という不死身の人形で正解へと辿り着け」
「それが鶴木に残された、たった一つの茨の道だ」
「......」
「.......かったよ」
「.....」
「わかったよ....ただ死ぬよりいいもん....これで2人とも前に進めるなら、私はそうするよ」
「....ただし」
「ん......」
「私をこの地獄に落とした坂木ゆりを殺す」
「この死のループから絶対に抜け出してみせる」
「....」
「当然だろぉ、へへへ」
_______________________
「「__________」」
そして、私達はその日校舎裏の薄暗い、まるで不良が喧嘩するような場所に桜木桃香を呼び出した。
よく言えば、告白にはうってつけなそんな場所。
木々が風に揺られ、騒々しい木の葉の音が校舎裏に鳴り響いたその時、時は訪れた。
目の前の曲がり角を曲がって、セーラー服姿の桜木桃香が私らの目の前へと立つ。
真っ黒な長い髪が風に靡いて絵になっている。
「.....」
「あら、颯先輩に鶴木先輩」
「お二人とも私に用が?」
「......っ」
「いやー、急に呼び出して悪いなあ桃香。今日はお前に特別なプレゼントをあげるって鶴木と話してたんだよ」
「受け取ってくれるか?」
隣に立っている颯は右手に持ったスタンガンを背後に隠し、桃香をこっちに誘導する。
すると桃香は黒艶の髪を再び靡かせ顎を上げたままこっちを見る。
「.......」
「いいですよ。私がそっちに行けばいいんですか?」
ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ__________
桜木桃香がこちらへと歩いてくる。
5m、4m、3m、2m......
「そうそう、そんぐらいでじゃあ....」
「ハッピーデスデイ桜木桃香______________ッッッ!!!!!」
バヂヂヂヂヂッ__________!!!
青白い閃光が颯の右手から桃香の首元めがけ繰り出される。
距離感も抜群で、丁度桃香の頸動脈目掛けた強力な電流が流れた。
「____________ッッ」
ザシュッ ピュッ ザシュッ
「__________」
その時、この世の全てがスローモーションになった気がした。
辺りは木の葉の音なんか響いておらず、直接脳に干渉してくる重低音が響き渡る。
そして颯の脇腹、両目から吹き出る紅い水滴が私の顔の前を通過していった。
.....ナイフだ。
桜木桃香は首元に当てられそうだったスタンガンを屈んでかわし、刃渡り20cm程の返し付きのナイフで颯を1秒間の内に行動不能にした。
「づぁ....ば.......」
「なに......ごれ......っ」
ドサッ
颯はおぞましい唸り声を上げながら地面の砂利に倒れ込み、その場でもがいている。
その様子を見ながら、桜木桃香はナイフから鮮血を滴らせながら鬼の形相で哄笑する。
「つっ......はははははは....ぁ」
「きははははははははッッッッ!!!!!」
「......っ」
ポタ......ポタ.......っ
「...あのね?先輩方」
「あなた達ってほんっっっっっとにマヌケなのねぇ。小学生じゃあるまいし、もっとマシな方法でやりに来るかと思ったけど」
「そう期待したのがバカみたいじゃない。まさかこんな子供騙しで来るなんて」
「だからあなた達は永遠に権力者達のおもちゃにされるの。今ので分かったわ。私はあなた達を可哀想とは思えない」
「だって戦い方すら知らないただの少女なのだもの」
「......」
「でもそんな無知で可愛らしい処女を殺すのも私の仕事だし嫌いじゃないわ。いいえむしろ好ましいもの」
「ほら、あなたもこっちに来て遊びましょう?」
「瓶に閉じ込められた小さな蟻さん_____」
桜木桃香が私に手を伸ばす。
「_____________」
カチッ
バギョン_____________ッッッ
「__________」
「......」
桜木桃香が支配するドス黒い空気の中、一発の破裂音がその雰囲気を粉々に打ち砕く。
桜木桃香が私の顔へ伸ばした手の指は全て弾け飛び、その先の彼女の綺麗な顔の左上側は全て吹き飛んでいる。
詳しくは彼女の右目からその周辺全てが肉片へと変わった。
その時魔術が溶けたかのように、桜木桃香の左目が可愛らしいただの女子高生のように丸く輝いていたのを覚えている。
「え....拳銃.........」
「なんで....?どこからそんなもの........」
彼女は途切れ途切れにそう告げる。
未だ立ったままで。
「私.....可哀想な蟻さんなんかじゃないばい」
「は......?」
「確かに前までそうやったと。ひとりじゃ何もできないただ死を待つだけの馬鹿な女子高生」
「どうして自分だけこんな目に会うんって。普通の女の子ならこんなこと経験せんってずっと思っとった」
「でも同じ時を過ごす友達が私の背中を押してくれたけん。私はそいつの為にも前に進まなきゃいけん」
「やけん私はあんたを殺す。戦い方を知ってる相手でも、死にながらその技術を吸収してやるばい」
「つまり何が言いたいか、分かると?」
「.........」
「訛りすぎて........何も....聞き取れなかっ...た....わ」
「________つまりあんたらの負けってことたい」
パンッ パンッ バヂュッ
「.......」
「ゔ....げほっ、え"ぉ....へへへ....」
「やるじゃん....つけ麺ちゃ...ん.....まさかほんとに....銃持って来るなんて......」
地面にモゾモゾと這う颯。
「歴史博物館からガバメント持ってきたんだ。たまたま近辺の銃砲店に弾薬があって助かった」
「散弾銃は大きすぎて騙し討ちできないしね」
「へ.....へへ....やっぱ死ぬ記憶のある奴は....違う....な.....」
「.......」
苦しむ颯の近くに座り、彼女にとって楽な体勢で抱きしめる。
首と後頭部を腕で抱え、お互いの体温を感じるように顔を近づける。
颯はまだ暖かかった。
「ありがとう、颯。あなたのお陰で私、前に進めた」
「あなたのこと絶対に助けるから。必ず原因を見つけて排除してくるから」
「それまでどうか私のこと、見守っててください」
「........」
返事を聞く間もなく、颯は動かなくなっていた。
次第に風と共に冷たくなっていき、私は彼女を都伝部のお茶畑に埋めた。
今後颯がそこに眠ってることを知る者は、葦野先輩がまごころを込めて育てた可憐に咲くお茶の花達だけだろう。




