第5話 DOGGY
「____________」
「がぁ、はぁはぁ...ッッ!!」
午前8時30分。
また目が覚める。
同じ天井に、同じ朝。
「___________っ」
タッタッタッタッ
「ごぉぇおぁああッッ」
私は洗面台に走り込んで、また吐いた。
________夢。
夢じゃない。
いや、これは逆に夢なのかもしれない。
何度も繰り返される悪夢のようだから。
「はぁ...すぅ...はっ...ぁ...」
鏡の前に、私がいる。
黒いクマが出来ていて、ボサボサの寝起きの髪。
それでいていつも着ている白色のパジャマ。
明るい朝のはずなのに、青黒い夕暮れ時のように感じている。
それがとても気持ち悪い。
「気持ち悪い?一体どうして?」
「...ッ!!」
鏡の中に...私の後ろに坂木ゆりが立っている。
衰弱する私を嘲笑うかのように。
思わず私はその鏡に映る女の子に、切れる息の合間に問いかけた。
「どうして....こんなこと...するの.......っ」
すると坂木ゆりは笑って言った。
「言ったよね。都伝部を救うためって」
「でもそれはあなたにしかできない。なぜなら丁度入学したてだし、都伝部の新入生だからね」
「それとまだ私、黒幕の正体を知らないの。確かに殺したのは桜木桃花だけど、どうも釈然としない」
「だって薬物やらナイフやら、まるで海外のギャングみたいじゃない。そんな女子高生って、ちょっとおかしいと思わない?」
「だからって私が.....なんで......」
「ひどいよ......私、死んじゃったのに.....それを何度も生き返らせて、殺して.....」
「......まるで.......おもちゃみたいに」
私は泣いた。
泣いてもどうせこのスパイラル・ゲームは終わらないというのに。
それでも涙は引っ込んでくれない。
「あらあら。でも結局のところ、あなたはスパイラル・ゲームを抜けることはできないんだよ?」
「どうなるか、あなたは知ってる?」
「.....うっ....ぐ.....っ」
「なんかね、桜木桃花があなた達を生き返らせちゃうの」
「う.....はっ......い"や......ッ」
「どんな技術を使ってるか知らないけどね?自分で殺したはずなのにすぐ蘇生させるの」
「そしてまた前日のように殺す。どうしてそんな事ができるかって」
「そこで確信したんだ、私。やっぱり桜木桃花は外部の人間の指示で動いているって」
「その外部の人間が何者なのか、何のためにそんなことをするのか。私には分からない」
「だから教えて?運命の呪縛の子」
「私に力があっても全知全能ではない」
「あ...あ"ぁ...」
しかし体が動かない。
頭の中がぼやっとしてて、ヨダレが洗面台に垂れた。
「あーあ、ショートしちゃったか」
「じゃあ理由をあげるよ。あなたが戦い続ける理由を」
パチンッ
_______________________
「_____________」
彼女が指を弾いた瞬間、私はあの教室にいた。
全くわけがわからない。
先程までの気分の悪さも、吐き気も、頭痛も全て消え去って
また"首塚らしきもの"へ行く前のあの部室へ。
「それじゃあ出発しまーす!水分補給しっかり忘れないでねー!」
「あぁ...あ...ッ!!」
「待って.....みんな待って.....ッッ!!」
「ん....?」
「はぁ....はぁ......っ」
「鶴木ちゃん....大丈夫.....?」
「汗.....すごいよ....?」
室内全員の視線が刺さる。
だって今、私は異常な程の汗を机に垂らして"何か"を叫んでいるのだから。
でも止めなきゃ。
停めなきゃみんな殺される。
「行ったら殺される...」
「.....え.....?」
「この女、桜木桃香がいる限り私らは殺され続けるッ!!」
そう、私は桜木桃香を指さして叫んだ。
言ったところで誰かが殺してくれる訳では無いのに。
みんなの狂人を見るような目が痛い。
...否。最早気が動転しすぎててそれすらも鈍い感覚に落とされてる。
この発言の後、しばらく沈黙が流れた。
「...鶴木先輩。どうやら体調が優れないみたいですね」
「▅▅▅▅私が連れてってあげますよ。保健室▅▅▅▅」
先に口を開いたのは澄んだ目をした桜木桃香だった。
このままだと私はまた殺される。
絶対について行くものか。
もう坂木ゆりに指先で脳天をぶちまけられるのは御免なのだ。
震える指と呼吸する度に漏れる吐息を押し殺し運命に抗う。
ガシッ
「さぁ、行きましょ?」
「▅▅▅鶴木先輩▅▅▅」
「......ッッ」
パシッ_________________
「なんか.....普通の状態じゃないなぁ。病院だね」
「今日は帰ろうか、鶴木」
「同級生の私が送るよ」
「___________」
颯ちゃんが私の手を引いて、私達は教室から出ていった。
_______________________
カツ カツ カツ カツ_____________
熱したコンクリートの上を青と緑のメッシュの颯と私の2人で歩く。
辺りには誰も...まるで日常生活が戻ってきたかのような妙な感覚だった。
とても晴天の日差しが.......熱い。
「...鶴木。お前なんで桜木桃香がドギーだと分かったんだ?」
「....え....?」
「あーごめん。ドギーってDOGGYね。首輪を繋がれた犬畜生って意味。私が勝手に呼んでるだけ」
「この前さ。坂木ゆりが教室いるって言ったっけ。私もいると思う」
「なんでかって一回会ってるから。それ以外は知らないが」
「.......」
「颯ちゃんは_________」
「颯でいい。同じクラスだろ」
「...じゃあ...颯」
「あなたは最後に死んだ時の記憶を覚えてる?」
「...」
「いや....覚えてない。てかやっぱり私達は死んでたのか?」
「......はっ......覚えてるのは....私だけ...?」
直射日光が.....焼ける。
足元がふらつく。
「....」
「決まってみんなで都市伝説の現地調査に行った際に妙なことが起こって.....よく覚えていないけど、急に目の前がブラックアウトして、朝ベッドにて意識が戻る」
「ブラックアウトに苦痛は無く、そこから先の未来は記憶に残らない」
「それが私。巻き戻し」
「......」
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私、颯は朝ベッドで起きると曖昧な記憶を辿ってそれをノート帳に書き記す。
首塚らしきものに着いた時、気分が悪くなりブラックアウトしたこと。
白ワニを探しにマンホールの下に入り、中に入ると暗闇の奥から巨大な何かが大きな音を立ててこっちに来てブラックアウトしたこと。
夜、校舎裏の山に入り何か甲高い獣のような叫び声が聞こえた後ブラックアウトしたこと。
これは全て7月4日に起こった出来事である。
神はいつも、肝心なことを私に教えてはくれない。
私は死んでいるのか?果たして何か、超次元的な時空の歪みに巻き込まれたのだろうか。
そんなちり紙のように捨てられる記憶を、机に座ってノートに書いている。
その後は、みんなが部室に来る前に前日(?)の記憶をたどって裏山に入ったり、首塚周辺を漁ってみたり。
そんなことやってる間に私は、踏み潰された、小さな監視カメラのようなものを拾った。
これは...ゲームなのだろうか。
どこかこのレンズの奥で、私ら都伝部という作られた箱庭の中を覗いてほくそ笑んでいる人間がいるのだろうか。
そう考えるに、私のブラックアウトの原因はやはり他殺で間違いが無くなる。
これが睡眠薬で何度も同じ状況が何者かによって作られていると考察するなら、何度も同じ日のテレビのニュースが流れないからだ。
同じラジオの内容、来る日も来る日も夏の台風15号の新聞記事。
今なら毎朝校門に止まっている雀が何秒後に飛ぶのかすら予知できる。
"私はレンズの向こう側の黒幕Xに弄ばれ、殺され、なにか超次元的な力で同じ日をループしている"
私はそう結論づけた。
しかし.....いや....おかしな点が一つだけ残る。
誰が私を直接殺しているのか。
黒幕Xはレンズ越しに見ているだけで私を殺してはいないのだ。
そもそも都伝部の全員がその場で決めた現地の調査先を、Xが超能力で予知し先回りして私らを殺す手筈を一瞬で整えるなど不可能である。
もしそれが不可能であるとするならば、私らが調査を確定した瞬間に調査先をXに伝えるDOGGY(犬畜生)がいるはずだ。
しかもそれは、一番距離の近い都伝部内にいると考えるのが妥当だ。
「......」
「何か確かめる方法を考えなきゃ」
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「その時お前、鶴木が入部してきた」
「なるほどそれで....私はまた殺されたわけだな。桜木桃香に」
「私を....信じてくれるの.....?」
「当たり前だろぉ。そんな顔してるもん」
颯は私にもったりとした声で微笑んでくる。
「まーそれはそれとして、対策はしっかり考えなきゃね。じゃなきゃ一生ここ(7月4日)から出られないから」
「とまぁ今日は具合が悪そうだし、さっさと寝なーよ。ほら、もう鶴木ん家だし」
太陽に焦がされた私はとうとう自分の家にたどり着いた。
「またなー。もし記憶残ってるなら、また私に教えてくれよ」
「あ.......」
その日、私は彼女と別れ、家のドアを開き、自室に入って、寝た。
その日坂木ゆりは私を殺さなかった。
少しでも黒幕へ歩みを進められたのが認められたのだろうか。
それでも起きたら7月4日に戻っていたけど、颯は私の記憶を覚えていた。
なんというか、少しだけ救われたような気がした。
これからも歩みを止めることは許されないだろうけど、私のことを理解してくれる友人が一人でも居てくれたのなら私は______________
__________まだ頑張れるのかもしれない。




