第7話 イル・ブイオ
その日、桜木桃香を殺した私は坂木ゆりの干渉を受けずに次の日を迎えた。
気持ちがどこか落ち着いていたのは、自分の死に方さえ選べば苦しまずに済む方法を颯のお陰で知ることができたからである。
拳銃による自殺。
自分の頭に向かって引き金を引くことで苦しまずに一瞬で7月4日に遡ることができる。
"真実に迫る行為"を継続していれば坂木ゆりは私を殺すことはしない。
そしてコルト・1911。
私が手に入れた、唯一黒幕に対抗できる手段である。
私の次の目標は死んだ桜木桃香から黒幕を辿ること。
恐らくだが、私と颯は次の桜木桃香のようなDOGGYが黒幕から即座に派遣されると踏んでいる。
ならばそいつがどこから派遣されるのか、どのようにしてこの白須賀高校に入学するのかを調べあげる必要がある。
その為に私は、まず桜木桃香の家を物色することにした。
殺した遺体の制服に入っていた学生証から住所を辿りここまで来た。
......のだが。
「(.......廃屋だ)」
そこは木造建築の、言わば日本昔話に出てくるような時代錯誤の古臭い古民家だったのだ。
私は1911の安全装置を外して土足で玄関に入っていった。
ギシッ ギシッ ギシッ ギシッ__________
「(.....カビ臭い。桜木桃香は本当にこんな所で生活していたの?)」
「_____________」
居間に入ると、空気が変わったのを肌で感じた。
線香の臭いである。
真っ暗で広い室内。
汚れた畳の中央に置かれていたのは1つの位牌である。
その手前に火のついた線香が。
「(誰かいた.....前日桜木桃香が火をつけたのだとしても、今まで火が絶えていないのは明らかにおかしい)」
チャコッ
私は右手に1911を構える。
相も変わらず線香は消える気配がない。
位牌にはこう書かれている。
▅▅▅▅▅俗名 桜木 累 亭年8歳▅▅▅▅▅
「(....位牌が裏面。それにしてもこの名前.....8歳...)」
「(桜木桃香の兄弟姉妹か....?)」
チーーーーーーンッ_____________
「__________ッッ」
前方の障子の奥から音が聞こえた。
おりんの音だ。
「それ、ほんと可哀想よね。どうやら累君は5年前に40代の男に強姦されて死んでしまったらしいわ」
「それ以来桜木は彼を生き返らせる為に必死に組織の下で働いた。しかし得られたのは傭兵以下の報酬だった」
「それって本当にカタストロフ(救いようのない結末)だと思わない?」
ひとつのロウソクを持って障子の奥から現れたのは同じく白須賀高校のセーラー服を着て現れた少女。
ヴァイオレットの艶のある美しい髪を揺らしながら私の前へと姿を現す。
ひとつ違うのは、そのセーラー服が紺色に染め上げられ、胸元に黒いペンダントが埋め込まれた、変わり果てた姿であったことである。
「.....誰?」
「あら、制服で分からない?桜木桃香の代わりに新しく転校してきたクラスメイトだっていうのに」
「うーん....ちょっと改造しすぎたかしら」
そう言って少女は服を翻して見せる。
背格好も歳も私と同じ。
どうやら本当に桜木桃香の代わりのようだ。
そのお人形さんのような美しい顔立ちは桜木桃香との唯一の共通点だと、私は気がついた。
しかし今はそんなことに気を取られている暇はない。
「てことは、黒幕の手先ってことやけんね」
「この銃で私は桜木桃香を殺したと。やけん殺されたくなかったら黒幕の情報を教えるたい」
「今すぐに」
「へぇ....その銃で.....」
カツ カツ カツ カツ_____________
「___________」
女はロウソクを持ったまま優雅に歩いてくる。
私は躊躇せず3発女の胸部と頭部に撃ち込んだ。
パヒュン_______ドブっ______ズブッ
「....ッ!!?」
一瞬自分の目を疑った。
飛んで行った弾丸が女の胸部2発に着弾したのにも関わらず、貫通するどころか身体に取り込まれるように奇妙な音を立てて吸収されたのである。
瞬間、私は取り乱した。
訳も分からない方向に弾丸を乱射し始めたのである。
そんな私に構いもせず女は目の前まで迫り、優しく私の右腕を掴んで微笑んだ。
そして耳元でこう呟く。
「あなた.....あなたから深い業の匂いがする」
一瞬彼女の柔らかい匂いに気が緩んだ自分を殺したい。
だって桜木桃香や坂木ゆりのような棘のある空気を纏った人種とは正反対だったから。
久しぶりの感覚に、私は力なく汚れた畳に押し倒される。
「ねぇ.....教えて?あなたのような、可愛らしいただの女の子が、無限の死のループってカルマを背負ってる気分を」
「いつか普通に就職して、いつか自分の意中の男性と結婚して、いつか幸せになりながら歳をとるって想像してる純真無垢な花のような処女が次第に悪魔に魅了されてぐちゃぐちゃに汚れていく姿って私」
「はぁ.....は...ぁ...っ」
「▅▅▅▅とってもエロティックだと思うの▅▅▅」
私は、気が狂っていた。
彼女の、その色白の美しい少女の恍惚とした乱れた表情を見てしまったが為に自分が守るべき貞操を忘れ、また私も呼応するように息を切らしたから。
________発情した。
丁度この日まで殺され続けていた私は自慰をする暇も無かったため、異性ではないこの悪魔に興奮してしまった。
今ならこの女の言ったことが分かる。
私は今からこの悪魔に本気で犯され汚される。
しかも、私の身体はそれを望んでいると。
正直なところ、無限に広がる砂漠の中でオアシスを見つけた気分だった。
既に心臓は交配のために高速で活動し血を巡らせ、貧しいはずの私の乳房は張り、太腿からは愛液が滴って畳に染み込んだ。
これは警戒心のため濡れた訳ではないと理解する。
「はぁ.....はっ...▅.....ふふ....っ」
「私、"七草 イルブイオ"」
「もう過程とかどうでもいいから。できるはずの無い子供を作るためにナンセンスな激しいえっちしよ.....?」
七草の甘い吐息混じりの唾液が畳に垂れ落ちる前に、私はその柔らかそうな舌に自身の"まだ使ったことの無い"舌を向かわせた。
悪魔のような美しさを持つ同い年の女の子に身を任せた私を、誰が処女と呼ぶのだろうか。




