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第3話 首塚らしきもの:2





「とゆー訳で...」


「今から首塚らしきものへ行きます!一応脱水症状対策のため水分はこまめに取っていきましょー!」





「「「「「おー!」」」」」




白須賀町の郊外。


大きな道路を挟むように深緑色の山々が私達を囲む。


湿った土とコンクリートの匂いと、クワガタが住んでいそうな木の匂い。


何処か不安な気持ちを抱え、私は道路を歩き始めた。





ジジジジジジジ_____________





「それでねそれでね、昨日の試合ベリンガムがもう一歩でノルウェーにハットトリックかまそうとしてたんだよー!」





「だーかーら、私はサッカー見ないって言ってんだろ!!」





「(華奈ちゃん部長と仲良いんだなぁ...幼なじみとかなのかな)」





「華奈先輩と部長は幼なじみです。故にあのような意味不明な話題を振っても、部長には華奈先輩との関わり方が分かってるんです」





「(...エスパー...?)」


「そ、そうなんだ」





「あぁ見えても仲悪いとかじゃないんだから、すごいんだなぁ。あ、桃花ぁチョコくれチョコ」





「持ってきてますよ。口開けてください」





「おー」




桃花ちゃんは颯ちゃんの口に1口サイズのチョコレートを放り込む。


颯ちゃんは満更でもない顔をしている。





「(...この人達も大概では?)」





「鶴木先輩も。口を開けてください」





「あ、ありがとう」





桃花ちゃんは颯ちゃんの時と同じようにチョコを私の口に放り込んだ。





「桃花ちゃん私もー!」





「華奈先輩、いつも全部食べられてしまうので、このひとつで最後にしてください」





カツ カツ カツ カツ_____________





桃花は華奈の元へ進んで歩いていく。


後ろに取り残されたのは私と颯ちゃんだけとなった。





「おーそうだつけ麺ちゃん。君坂木先輩のこと知ってんだっけ」





「あ...うん。なんか、それ部長に言ったら変な感じになっちゃって」


「もしかしたら違う人かもって言ってたけど...」





「うん...いるよ、坂木先輩。同じクラスに」





途端、青黒メッシュの颯ちゃんの目が据わる。





「たまーに私に囁いてくるんだよねぇ」


「"都伝部を記録して"って」


「それが吉報なのか災厄なのか。今の私に知る術はないな」





「...」





颯ちゃんの左腕の裾の隙間から、"___には近づくな"とマッキーで書かれたような黒文字が見えた。





「(..."には近づくな"...?)」


「(なんだろ、これ...)」





私の不安は加速したまま、私らは目標の首塚へとたどり着いた。




_______________________





カツ カツ カツ カツ_____________





「はい、到着!なかなか歩いたけどいい運動になったね」





「...」





...首塚。


それは意外にも丘の上に...いや、道路脇の石でできた長い階段を登った先にあった。


湿って苔(こけ)が生えた墓石の周りを赤い柵が囲っている。


その墓石には、"▅の▅共の首▅こ▅▅る"...?と縦に掘られている。


良く読めない。昔の草書のようだ。





ドクンッ





「...っ」





途端、その墓石が紫色に光って左方向にねじ曲がった。





「...え?」





視界が...おかしくなったのか。


目を擦っても擦った方向に墓石は曲がっていく。


その間にも、部長はこれから何をするのか話していて、私の耳は彼女の高い声しか感知していなかった。





「うぶっ...ぶっ...ごぶぇ...ッ!!」





「...」





横に並んでた颯ちゃんが吐いた。





「颯ちゃん!?」




彼女はすごい剣幕で、真っ黒い目を点にして、地面の土に倒れ込んだ。


口を開けて痙攣している。泡を吹いて、カエルのように。


気味が悪いほどセミの木霊する森の中。


部長は颯ちゃんに駆け寄った。


彼女自身、土に倒れる颯をどうすれば良いのか分かっていない。






「なんで...なに、これ...」




私はそう口に出した。


まるで思考がぐにゃりと捻じ曲げられて、この世の全てがおかしくなってしまったようだった。


矢継ぎ早に鳴くセミの声が、今ではイヤホンで大音量で直接流し込まれている様な_________





「っづいやぁあああああッッ!!!!!」





___________私は叫んだ。


そのセミの声を描き消そうと。





「鶴木ちゃん...ッ!!」


「どうしたのしっかりして...ッ!!!」


「_______鶴木ちゃんッ!!」





部長が私の背中をさすって落ち着かせようとする。


しかしその行為自体が、なにかとてつもなく恐ろしいことに思えてしまって、私は叫び続けた。





ズガッ______________





「ぎゃ...っ!!」





途端、何者かが部長のこめかみを勢いよく蹴りあげる。


その背後にいたのは...身長が部長より高くて、細い足のモデルみたいな女の子。


桜木桃花という女の子だった。


彼女は地面に転がる私達を見下している。


それは何か、目的を達成したかのようなため息をついていた。





「...桃花ちゃん、なにを...ッ」





「▅▅▅これは首塚の呪いだと言いなさい▅▅▅」





「...」


「...はぁ...?」


「桃花ちゃん...何を...」





「もう一度言います。"これは首塚の呪いだ"と言いなさい」





「...っ!!」


「今そんなこと言ってる場合!?早く救急車呼ばないとみんなが...ッッ!!」





「じゃあ、華奈先輩殺すけど、いい?」





「...え...?」





桃花は白目を向いて気を失っている華奈の髪を掴んで、リュックから出したナイフを首に当てた。





「これで本当の首塚たんじょー。って面白いね」


「_________ね?」




光のない桃花の瞳が部長の背筋を冷たく撫でる。




「ぃ....っ」


「言うからッ!!言うからそんなことやめてッッ!!」





「いい子だね。じゃあ言おっか」


「さん、はい」





「こ、これは首塚の呪い...だ...」





彼女のか細い声は私の叫び声にかき消されていく。


その様子に、ナイフを持った彼女はずっと私を眺めていた。


その間何を考えていたのか、私は恐怖の絶望の縁で理解した。


なにより、叫び声を止められないというのも体が言うことを聞かないのである。





「うーん」





ザッ ザッ ザッ ザッ_____________





桃花は倒れる私の元へ歩いてくる。


叫ぶ私の首をしゃがんで掴み、顔を近づける。





「...バッドトリップ入ってる。LSDの作用が悪い方向に行ったか」


「薬物投与が初めての人間なら、仕方ないね」


「うるさいから殺すね。私が山神に取り憑かれたっていう設定で」





グググググググ______________



ブヂュッ ズブブ_________





「あ...ごぎゅっ....ぎょば...ッッ」





彼女のナイフが私の首に侵入してくる。


そこに痛みはなく、ただ漠然とした途方もない恐怖というものが支配していた。


おそらく頸動脈が切られた。


大量の血と共に私の意識が遠のいていくが分かる。





プシューーーー





「...が...ごか...ッ...ぁ...」





彼女に手放された私の首は土の上に再び横たわった。


遠のく意識の中で、桃花ちゃんが倒れている華奈ちゃんの方に近づいて腹部を何回にも渡って刺す光景をゆっくりと眺めていた。


段々と視界が暗黒に蝕まれていく。


その暗闇の中で眠る前に、部長葦野野呂が泣きながら無限の虚無の表情でこう言ったのを覚えている。





「▅▅▅▅これは首塚の呪いだ▅▅▅▅」





と。




_______________________





_______数時間後 首塚にて________





ザッ ザッ ザッ ザッ____________





「熊川刑事、お疲れ様です」


「殺人事件です。遺体の損傷がかなり激しいのでマスクの着用を」





「いやええて。それより火ある?急に来たから家に忘れてもうた」





熊川冴子(くまがわさえこ) 28歳。


静岡警察本部から派遣された刑事。


奈良県奈良市出身。


黒髪ショートヘアに黒色のベトナムジャケットを着用している。





「いやちょっと、現場でタバコはまずいですって...ッ!!」





パチンッ





「お前新米の癖にうっさいのぉ...さっさと出せて。無いならちょっと買ってこいや」





「...」


「...分かりました」





部下の田中は不満そうにパトカーでコンビニまでライターを買いに行った。


その間冴子はヤニ切れによる苛立ちを抑えながら、真っ赤な夕陽に照らされる首塚まで階段で登って行った。





ジジジジジジジ______ジジジジジジジ_____





「(うっさいのくっ飛ばしたろか)」





セミの鳴き声を振り切り、冴子は一人で調査を開始した。





「さて...それにしても」


「ひっどい状況やの。地元の女子高生5人死亡て」


「3人は泡吹いて倒れとる。そのうち2人は腹部と喉刺されて出血多量。残り1人の子も泡吹いとるけどこれ血も混じっとんな」





それにしても現場の血の量が尋常ではなかった。


首塚の墓石から1m先の木まで血が飛び散っている。





「ま...他殺やな。しかもこのいちばん綺麗に泡吹いて倒れとる女の子が殺した」


「この子も死んどるが、何より遺体が綺麗やし喉の奥見たら分かる。飲み込んだはずのチョコ残っとんねん」





冴子はそのチョコの一部を丁寧に取り出し、小さいカップの溶液に浸す。


するとカップの液体はオレンジ色に変わった。





「やっぱな...これLSDや。しかもクソ濃縮されとる。成人男性が摂取すれば最悪死亡する量や」


「ここに犯行に使われた凶器はない。どうせどっかに捨てたんやろうが...まぁそれは後で見つかるやろ」


「それにしても...こんなもんなんで女子高生が持ってんねん。反社と繋がりあったとしても、こんなもん見た事ないぞ...」





ザッ ザッ ザッ ザッ_____________





「冴子さん、買ってきましたよライター。もうめっちゃ遠かったんですからね。ここ田舎だから」


「それと本部から連絡入ってます。調査は...ここまででいいとの事です」





「は?何言うとんのや」


「犯人もブツも見つかってんねんで。もう事件解決も良いとこやろ」





「あくまで僕は報告だけです。詳しくは自分で連絡して聞いてください」





「ちっ...」





冴子はライターを奪い取り、パトカーへと戻って行った。




_______________________





「はい...はい...では、そのように。はい。お疲れ様です」




ガチャッ______________





「冴子さん...これなんなんすかね」


「冴子さんが調査から外されるなんて聞いたことないですよ」




助手席に座る部下をよそ目に冴子はタバコに火をつけた。


2人の時は部下が下の名前で呼んでくることに彼女はもう怒ることは無い。





「巣野川(すのかわ)。お前まだ新人やからわからんと思うけどこういうのあんま関わらん方がいいわ」


「過去にな。私らが生まれるちょっと前の時期にな?小さい子供らが売春させられてる事件があったねんて」


「加害者の犯人は自殺したってテレビも報道しとったけどあれ明らかに他殺だって言われてんねんな」





「あぁ...その事件知ってます」


「全国の権力者や著名人も関与してたって噂でしょ。だから殺されたって噂のあの事件」





「そう。まぁ噂やから分からんけど」





「はい...」





「「...」」





二人の間でしばらく沈黙が流れる。


なにより重たい空気が車内には漂っていた。





「あの、冴子さん。今日は飲んでスッキリしませんか。パーッと」





「なんや巣野川。ビビっとんのか」





「いや今の話冴子さんも絶対同じこと思ってましたって!!」





「ふっ...当たり前やろ。こんな都市伝説みたいな話本当にあったらなんて考えたら」


「正直マジで怖い。これ以上深入りするのは辞めとくわ。まだ死にとうないし」





「...はい」





その後2人は街まで居酒屋に飲みに行った。


どことない不穏な空気を取り払うために。







____第3話 首塚らしきもの [完]

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