2.事後
<報告書>
更新日:----年-月-日
機密区分:内部資料
氏名:ドロテア・ブロンズ
分類番号:SE-01(内部呼称)
性別:女性
推定年齢:16~19歳
身体的特徴:胸部から骨盤にかけて鉄製パイプ状の金属構造を有する。
また、肩に埋まったタイヤ片も確認。
いずれも事故由来と思われるが、自力での活動に支障は見られない。
能力概要:
・接触時の瞬間的な反発力により、体力測定では10m級の跳躍、通常の倍以上の加速を可能にしていた。
・人体では説明不可能な反発運動を確認。
鉄やゴムに近い性質をもち、強い衝撃を受けたときに衝撃を吸収し、その分だけ強い運動に変えているとのこと。
行動傾向:医療機関からの脱走、夜間の徘徊及び侵入、他幾つもの問題行動を確認。
ただし、現在は協力的な姿勢を見せている。
上記の点を踏まえ、本件対象に対しては現時点で積極的介入の必要性は認められない。
ただし、継続的監視対象として記録は維持するものとする。
追記:例によって研究機関が対象に関心を示しています。
今後の動向に注意が必要かもしれません。
******
手元に視線を落とす。
薄い画面の上で自分の位置情報のマークを見つけ、目を凝らした。
警察の人との待ち合わせ。
確かここら辺だったと思うんだけど・・・・・・。
「ここ?」
こじんまりとしたカフェの前で足を止める。
第一印象としては、両脇の建造物に場所を取られてひどく窮屈そうな場所だと感じた。
そこに私は一歩進み出る。
すると、店の入り口には『休業中』の立て札が下がっているのが見えた。
中からも、人の気配はしない。
営業してないよね、これ。
訝しく思って画面を二度見する。
だが、どう見ても地図アプリはこの場所を示していた。
どうしよう。
勝手にお店に入るのはちょっと・・・・・・。
こうして手をこまねいていた結果、指定された時刻はもう目と鼻の先にまで迫っている。
熟考の末に、私が意を決して顔を上げたそのときだった。
「あの・・・・・・ドロテアさんでお間違いないでしょうか?」
「え?
あ、はい」
凛として柔らかい声で話しかけられた。
突然のことに思わず声の出所を目で探す。
そんなことをするまでもなく、すぐにその相手は見つかった。
女性がひとり、街路樹の木陰にしれっと控えている。
どうやら、待ち合わせに先に着いたのは私ではなかったらしい。
私が現れるのを待っていたらしいその女性はこちらへと洗練された動作で近づいてくる。
その際にロングコートが揺れる。
合間から細身のジーンズ越しに彼女の足のラインまではっきり見えた。
私はてっきり警官服の格好の人が来るものと思い込んでいた。
そのためずっと近くにいたのに、勝手にこの女性を選択肢から除外していたらしい。
「どうぞ・・・お入りください。
立ち話もなんですから」
そう口にしながら、女性は率先してカフェのお店の前に立つ。
扉が開かれると共に、来客を知らせる鈴が私達を出迎えた。
席に向かう女性の迷いのない足取りから、このお店に来るのは初めてでないと直感した。
カフェの店長と思しき男性に挨拶していたことからも、私の憶測は確信に変わりつつある。
私たちはその店長に迎えられ、奥にある突き当たりの席まで案内された。
店内は無駄のないコンパクトなつくりだったが、思ったより奥行きがある。
そのため、外から見たほど狭くは感じなかった。
開いている席に置いていいと言うので、荷物を腕にかけたとき、店員と女性のやり取りが聞こえる。
会話を聞く限り、私との話し合いの場を設けるに当たって、この場所を借りているらしい。
女性がそのことで店長にお礼を口にしている。
成程。
私以外の客や、店員がいないのはそのためなのだろう。
一区切りつくと、店長が注文をメモするための用紙を取り出す。
そこでようやく、女性が私の方に顔を向けた。
「・・・・・・紅茶が良いですかね?
それとも、コーヒー?」
「えーっと、じゃあ紅茶で」
カフェに来て何も注文しないのも気が引ける。
そう考え、取り敢えず無難な方を選択したつもりだ。
注文を取り終えた店長は奥に引っ込んでいく。
それを見送ってから、私は自分の上着を椅子の背にかける。
そのとき、何故か相手が目を丸くしたのが分かった。
「聞いてはいましたが・・・・・・」
女性のつぶやきが耳に入る。
そう言えば、彼女がこの身体を見るのはこれが初めてだ。
千切れた半身をパイプで無理やり繋いだような歪な身体はひときわ目を引くのだろう。
身体の構造上、肩とへそまわりを布が避けた服装をしているので、あの上着がないとはた目からも違和感は一目瞭然だった。
こういった露出の多い服は、これまで手を出してこなかったのでまだ変な感じが残る。
慣れてきたら違ってくるのだろうけれど。
特に、肩紐のない下着は勝手がまだ分かっていない。
激しく身体を動かすとしょっちゅう胸元から下がってきてしまうのは最近のちょっとした悩みどころだ。
そんなことを私が考えている間に、女性も向かいに腰を下ろしている。
もうその表情に驚きの色は見られない。
こうして、落ち着いて顔を突き合わせていると、相手について色々なことが見えてくる気がした。
それにしても、この女性・・・・・・。
率直に言って、綺麗な人だと思った。
目の下は寝不足の後のようにくすんでいて、伏し目がちな様子から成熟した女性の雰囲気を受けた。
まつ毛の影に瞳が隠れてしまっている。
襟足の短さからうなじが覗いているのも、却って色っぽい。
でも、少し怖いかな。
それはそれとして、警察の関係者。
おまけに外国人ということで私には近寄り難さが勝った。
「えっと・・・すみません。
自己紹介・・・ですよね?
花影 允です」
席に着いてまず、女性は遠慮がちに名前を告げた。
馴染みのない名前の響きだ。
東洋圏の国の人だろうか?
ファヨ・・・?ヌン?ユン?
いや、ヨヌン・・・・・・かも。
この分だと、何度か呼び間違えるかもしれない、と思った。
女性、改めヨヌンは自己紹介を済ませると、鞄の中を何やら漁り始めた。
やがて一枚の紙面を見つけると、それを私に差し出す。
「あの・・・こちら受けてもらった体力測定の結果・・・。
忘れる前にお返ししておきますね」
差し出された紙面を丁寧に受け取る。
言われて、そんなの受けたな、と思い出した。
シャトルラン、
幅跳び、
長座体前屈、
軽く目を通したが、ほぼ全ての項目においてアスリートと同じかそれより高いレベルを指している。
元々運動神経は良い方だと自負しているけれど、これはなんていうか。
身体の作りが変わっているのだからこの結果は当然と言えば当然なのだが、なんだかズルしたような気になる。
「ここ数日の体調に異変はありませんでしたか?
例えば、頭痛とかは?」
「頭痛?」
と言われても、身体の変化が起こる前に頭痛で倒れたことがあったくらいしか思いつかない。
そのことを試しに告げてみると、ヨヌンは予想していたかのような反応を示す。
「やっぱり・・・ですか」
この反応。
頭痛と身体の変化は無関係ではない?
説明不足だと、相手も思ったのだろう。
私の疑問符を察して、ヨヌンは言葉を継ぐ。
「頭痛はある種の変化が起こる前兆だと考えられています。
実際に、症状を訴えた人の周囲で説明のつかない現象が確認されていて・・・ですね・・・。
ドロテアさんの身体の変化もそれによるものでしょう。
便宜上、『異能力』と呼ばれるものです。
頭痛による後天的な特異能力の発現はここ数年のもので・・・あの・・・詳しくは分かっていなくて・・・」
言葉に迷いの多いことからも、ヨヌンがどう説明すべきか逡巡していることが伝わってくる。
言っている意味は分かる。
しかし、理性がそれを受け付けない。
「・・・・・・イノウリョク。
いや、それは・・・・・・」
否定の材料を探すが、何も出てこなかった。
それを口にするには、私はこの前から奇妙な出来事を体験し過ぎていた。
「すぐには信じられないとは思います」
私の困惑は容易に想像できるのだろう。
そう前置きをしたうえで、彼女は深刻につくっていた顔を崩した。
「けれど、こうは考えられませんか?
身体の変化が異能力によるものなら、能力とある以上、本人の意思で鍛えられるのでは、と・・・」
私は目を見開いた。
体力測定の内容で、私が気にしていたことをずばり言い当てられたからだ。
身体の変化があってから、力加減を間違ったことは一度や二度ではない。
この力が人に向いてしまったらと思うと気が気ではなかった。
だからこそ、力の制御は私の中で、ひとつの課題としてあった。
彼女、ヨヌンに自分の思考を読まれた気がする。
だが、一方で、前向きな考え方に心が楽になるのが分かる。
身体の変化のことは私が思っていたより、自分の中で重荷になっていたようだ。
もしかしたら、彼女が異能力うんぬんの話を切り出したのも、それを見越してのことだったのかもしれない。
だとしたら、私はよほど分かりやすかったのだろう。
「だと、良いですね」
なんて、ごにょごにょとその場を誤魔化すようにしてお茶を濁しつつ、体力測定の結果をそっと机に戻した。
口にした後になって、今の言い方では自分が異能力とやらの存在を認めたみたいではないか、と我に帰った。
全体的な話から私個人の話題へと切り替わったことで、異能力の存在そのものへの拒否感が薄れてきている。
これはいつの間にか相手の話術に乗せられていたということだろうか。
思わず、わなわなと戦慄する。
私のこのオーバーな反応を、ヨヌンは不思議そうな目で見つめた。
分かってやっているのか、どうか。
どのくらいそうしていただろう。
次から次へと投げつけられる情報を頭の中で反芻しているときに、ある思考が私の頭をもたげた。
異能力のことはこの際、置いておくとして、だ。
だとしたら、アイツもそうだったのだろうか。
「そういえば、私と一緒にいたところを捕まった男ってどうなりましたか?」
私の両親を殺した男。
あのときから片時も忘れたことはなかった。
ヨヌンはまさか聞かれるとは思っていなかったのか、一瞬言葉に詰まっていた。
「その件ですが・・・」
興味のないふりをしつつ、内心では期待が膨らむ。
ところが、その後の展開は私が期待していたのとはだいぶ違った。
「えっと・・・まず、警察を代表してお礼を言わせてください。
ご協力・・・本当に・・・ありがとうございました」
ヨヌンに深々と頭を下げられ、驚きと同時に困惑に私は襲われた。
てっきり、あの夜、怪我人の私が勝手に病院を飛び出したこと。
その他のあれやこれやを咎められるもの、とまで思っていたので尚更に。
「ドロテアさんがいなければ、あの男を捕まえることは難しかっただろうと・・・。
だから、というわけではないですが・・・」
「いえ、そんな!?
私は別に・・・・・・」
そんなに上等なものではない。
私がアイツを追い詰めていたのはもっと自分勝手な動機で。
ここに認識のズレが起きていた。
なので、素直に手柄を褒められたことを受け取れなかった。
後には、私の中に落胆だけが残る。
男の現在を尋ねたのに対して、返ってきたのはお礼の言葉。
はぐらかされた、と感じた。
これは何も彼女に限った話ではない。
事件のその後に関して私が聞くと、関係者は軒並み口を閉ざした。
きっと私個人に箝口令が敷かれているのだと思う。
なんにせよ、犯人が捕まったことで、事故の件は当事者の私の手からとっくに離れているということなのだろう。
テーブルを挟んで、場に気まずい沈黙が流れる。
永遠に続くかと思われた時間だったが、タイミング良く注文した飲食が運ばれてきたことで少し緩和されたのが救いだった。
注文した物が届いたことで、会話は一時中断。
私は、まだ香り立っている紅茶を持ち手を摘むようにして手元に迎えた。
教科書通りのやり方。
間違っていない、筈。
一方、ヨヌンはコーヒーを頼んでいたらしい。
カップを回す度に、縁のスレスレで黒い液体が波打っていた。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
飲み物が来てから、いつしか、面談のような格式ばった面持ちはなくなり、雑談に近い空気感が出来上がっている。
それなのに、交わされる言葉数は減り、飲み物ばかりが進んでいた。
こういうとき、どうしたら良いのだろう。
差し当たって、半分ほどになったカップに砂糖を入れることに逃げた。
その拍子に手を滑らせる。
私が声をあげそうになったときには、スプーンは床に落ちていた。
静かな店内に響く金属音も、胸中で甲高い悲鳴が飛び交う私には聞こえない。
耳先が赤く染まる。
視線が痛い。
穴があったら入りたい気持ちに猛烈に襲われる。
そそくさとスプーンを拾い、はにかんだ笑みで誤魔化した。
気のせいでなければ、ヨヌンが密かに口元を綻ばせたような気もする。
「そのままで良いので・・・続きを少しだけ。
・・・良いですかね?」
控えめな動作で、コーヒーのカップが置かれた。
耳を傾けるにつれて、私もそれを真似する。
「先程、渡した身体測定の紙の下に重ねて切り抜きがある・・・筈です。
その・・・異能力のことを話すなら、先にこっちを見せるんでしたね」
言われて、私は机の上に置いてある紙面をペラッとめくる。
異能力の存在に半信半疑だった私だが、その強烈な内容の数々に絶句させられることになる。
そこには、新聞や雑誌を断片的に切り取って繋ぎ合わせたと思われる切り抜きがぎっしりと並んでいた。
『雨ツ火事件』
衆目のある中、外出していた人々が各地で自然発火を起こし、焼死体となって発見された事件。
その殆どが雨の日に起きているが、関連性は不明。
事件から5年が経過して尚、未だに犯人は見つかっておらず、人の犯行なのかも疑われる。
『殺人怪盗』
有名な美術館に怪盗を名乗る人物から予告状が送りつけられ、指定した日時に犯行に及ぶケースが報告された。
その手口は関係者になりすまして侵入するというもので、警察は同一犯として捜査を進めている。
しかし、奇妙なことに怪盗がなりすましていた人物は、その後、行方不明になっているそうで、犯人に連れ去られてしまった、既に殺害されているなどの憶測が盛んに交わされている。
中には、怪盗に顔を借りられた者はドッペルゲンガーのようになり変わられ、現実に戻ってこられないのではないかという話まで出てきているらしい。
『レッドキャップ事件』
主に子供を狙った誘拐。
現場で子供に付き添っていた大人は相次いで死亡。
捜査が始まり、監視カメラに映った犯人を確認した警備員などの、犯人と直接接触していない人物までもが、立て続けに亡くなったことから、犯人の姿を目にした者は非常に少ない。
数少ない目撃者によると、犯人は赤い目立つ服装をした女性らしいことからレッドキャップと名がついた。
生還した者の多くも、重度の正視恐怖症を発症しており、人の目に異常ともいえる恐怖を植え付けられている様子が語られ、現在は犯人の追跡が事実上完全停止している。
(この例に限らず、誘拐事件の被害は例年ごとに伸びてきており、なんらかの組織的犯行を疑われている)
どれも目を疑うような内容ばかりだ。
そして、この次のは私もよく知っている・・・・・・。
『ブロンズ夫妻殺人事件』
交通事故によって車に乗っていた3人のうち、娘は重症、運転していた父親と母親は死亡する。
後日、事故の原因となった人物は別にいて、その男は逮捕されたと報じられた。
しかし、裁判等に関する話は未だに出てきておらず、男の存在そのものを疑う声も上がっている。
「・・・・・・・・・・・・」
「これがもうひとつの本題です」
黙りこくる私に、ヨヌンはどこまでも神妙な面持ちだった。
ここにきて、私が異能力の存在に突っ込むことはない。
身体の変化と同じように、そういうものと受け入れてきていた。
「ご覧の通り、警察の取り扱う事件に異能力が関わっている例が年々増えてきています。
今は異能力のことは表沙汰にはなっていませんが、実情は・・・・・・」
大っぴらに自分の所属する組織を下げるのは気が咎めるらしく、それより先はぼかされた。
しかし、そこまで言及されれば流石の私にも何が言いたいか分かるような気がする。
「超常現象に近い異能力に対して我々では対処が限られます。
そこで・・・えっと・・・取引する形で・・・ですね。
こちらがコンタクトの取れる異能力者に協力を取り付けるのはどうか・・・という話が出てきているんです」
ここまで言えば説明は不要だろうと、下からの弱々しい目線で訴えかけられる。
「あなたが現在、その候補に挙がっているということです。
ただ、中にはあなたの問題行動を指摘する声もあって・・・監督者が最低1人・・・つくことになると思います。
その・・・話を受ける気はありませんか?」
「・・・・・・・・・・・・」
ここで、私は少し考え込んだ。
正直、話を聞いただけでは即答しかねる。
「あ・・・一気に喋り過ぎましたかね。
すみません。
返事はすぐでなくても」
そうすぐに付け足す様子は、私より余程あたふたしていた。
異能力とかの情報を与えられて混乱していたのだけど。
こうして、余裕のない相手と対峙していると、一周回って頭が冷えた。
取り敢えず、具体的な内容を聞くべきだろう。
それが分からないと判断できない。
私は彼女に早速そのことをつっこむことにした。
「その場合、私につくその・・・監督者?、というのは、あなたになるんでしょうか?」
探り探りに言葉にする。
露骨に警戒する私だったが、ヨヌンの対応は一貫して丁寧だった。
「そう・・・なりますかね。
とは言っても、私の場合は仕事ができないのもあって、直前まで方々から反対されてもいたんですけど・・・」
「・・・・・・はぁ」
そう聞くと、バツの悪い苦笑が途端に頼りなく見えてきた。
大丈夫かな、この人。
この人と行動を共にする機会が増えると考えたときに、一抹の不安を覚えた。
いきなり先行きが危ぶまれるが、ここで気にしても仕方ない。
私は気持ちを切り替える。
前座はここまで。
軽い質問で返答が帰ってきたので、次は一気に核心に触れる。
「因みに、その提案を断るとどうなりますか?」
私が一番気になっていることだった。
異能力者との取引と言っていたことから、これが司法取引に近い何かの可能性も捨てきれない。
もし、これが誘導尋問のようなもので、私の問題行動を引き合いに出してくるようなら、と身構える。
「そう・・・ですね。
・・・監視は付くと思いますが、普通の生活に戻れると思いますよ。
あとは・・・時々、研究目的で生体試料を提出してもらったりするかもしれません」
「・・・・・・・・・・」
協力を断ったところで、監視がなくなる訳ではないということか。
だが、全部が全部悪いことばかりでもない。
警察の業務に協力するということは少なからず手当も出されるだろう。
両親が亡くなって、これからは私が自分で生計を立てなければいけない。
そんな矢先での、この提案。
私のこの身体のことを知っていても受け入れられる働き口。
非常に魅力的と言わざるを得ない。
他にも、幾つか確認することはあるが、話を引き受けることで得るものの方が大きそうだと、私はここまでで感じた。
「・・・・・・・・・・・・」
思えば、私に提案を蹴ってまで優先することなど何もない。
あの男が警察の手に渡った時点で、どうしようもないことだ。
人生を賭けてまで成すべき目標も、もうない。
それなら、いっそ提案に乗ってしまうのもありかもしれない。
そう思えば、心にあったつっかえも取れた。
「・・・・・・話を受けるかは、まだ分かりませんけど。
今のところは前向きに検討させてください」
絞り出すように、それだけ答えた。
ヨヌンも、私の肯定の意を受け取ったらしい。
「そうですか・・・。
では、これからは監督者として・・・ですかね。
よろしくお願いします、ドロテア」
「!!
・・・・・・はい」
そのひとことがあって、私は自分が彼女と同じ立場に迎えられたことを悟る。
変な気分で、手に持つカップの水面に映る自分の顔を見た。
間の抜けた顔だ。
序章とか、第2の人生とか。
そんな感じはしない。
ここからは私の物語の蛇足が始まる。
そんな予感がした。




