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我が季節  作者: ゆきみね
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我が季節ーおまけ

「いやはやいやはや。雪さんが寛容な方で、ほんっ…とうに助かりましたよ。こんなうちの当主と結婚していただけるんですから!」


応接間で三人でお菓子を囲んでる中、田神は1人で良かった良かったと、喜びながら茶を啜っていた。

間違って雪さんを落とし穴に落とした一年前は死ぬ程枢にとっちめられたが、今この現実を迎えてみれば、結局は良い思い出である。結果おーらいと言うやつだ。


反省の色が見られない田神を、枢はじろりと睨んだ。


「私の結婚に対する雪さんの寛容振りより、あんなふざけた事して許してくれた雪さんの寛容振りに感謝しなさい」


田神は「はいはい」と空返事をして、今度は水饅頭に手を出し、美味しそうにほお張っていた。聞く耳持たず、と言うのはこの事だ。


「はぁ…。本当に、昔は森1つ治め、常に血に飢えた名高い妖だったとは思えませんね」


「そうなんですか?」


今まで給仕をしながら、にこにこと静かに話を聞いていた雪が、びっくりしたように声をあげた。いつものほほんと優しい田神さまの正体が妖だとは知っていたが、そんなに恐い妖だったのか。いや、枢さまの従者なのだからそれなりの強さだとは思っていたのだが、今の温和な雰囲気からは到底想像出来なかった。

驚いている雪を見て、田神は嬉しそうに笑う。


「そうなんですよ雪さん!私も本当は凄いのですよ!」


「見る影もありませんけどね」


すぐに枢がぴしゃりと言い切る。


「枢さま、そんな風に…」


雪が田神を可哀相に思ってフォローを入れる。その雪の気遣いに、田神はよよよ、と涙を流す、


「雪さんは本当にお優しいですね…!」


振りをしながら、今度はバクバクとウグイスもちをほお張った。


「…どっちかにしなさい田神…」


枢は呆れ返って又ため息をつく。

この甘党妖が本気をだせば一瞬で山1つ消せると言われている妖だとは、一体誰がわかるだろうか。








**





「っ…」


真っ黒な長髪を血でごわごわにしたその”男”は、鈍い紅色の瞳に憤怒の感情を露わにしてこちらを睨んでいた。口からは血が流れ、同じく黒の着物も血でごわごわで、ボロボロになっていた。


「本当、てこずりましたよ…。貴方と話をするために、何で一々戦わなくちゃいけないんですか。痛いのは嫌いなんですけど」


そういって崩れた着物を直す男の着物は、実際には土が少しついている位だ。銀の短髪をかきあげるその男は汗一つかいていない。


「人間風情がッ…!」


口の中に溜まった血を吐き出し、その”男”は吼える。

だが彼が怯む事は無い。


「人間風情でも、私は代々続く宵家の次期当主ですから。妖と渡り合えるだけの術を持っていなくてはいけないでしょう?って別に戦う為に鍛えてたわけじゃないんだけど」


はぁあ、と溜息を吐きながら、宵家次期当主、枢は困った顔をした。そして隣では彼の代わりにその”男”と戦った小さい従者達が、キキキ…と鳴いている。枢に身を摺り寄せてくる彼らの頭を褒めるように撫でると、また嬉しそうにキキキ、と鳴いた。


「狼が兎に噛まれることなんて無いと思ってた?せっかく上手く使えば広く活用できる力を持っているのに。頭を使わないだなんて、勿体無いの一言だよ」


哀れみを含んだその言葉に、その”男”、黒い狼、真神(まかみ)はギリッと歯軋りをした。しかし負けたことは事実で、言い返すことは出来ない。

小さな兎の妖ども。そんなの何匹居ようと、森1つの主である自分が負けるだなんて思ってなかった。話がしたいだなんて人間の話、聞く気もなかった。

だが、力に任せるだけの自分は、その見下していたものたちにあっさりと負けてしまった。


「人間なんて、君にしたら下等生物だろう?だったら、私の下につけばいい。ありとあらゆる妖と戦わせてあげる。まあ出会った妖全部が全部、とはいかないけど。それだと守護八家の意味がなくなってしまうから」


その言葉に、真神は顔をあげる。

あぁ、こいつ、守護八家の人間だったのか。そうえいば、この辺りの守護家は宵家だと、どこかの妖が言っていたな。自分は討伐される側だろうから、別に詳しく知る必要も無いと思っていたのだけれど。


「私に力を貸してくれるなら、君の今までの行いには目を瞑ろう。どう、悪い話ではないんじゃないかな?討伐されることもなく、もっともっと強い妖と戦える機会も得られる。ね?いいこと尽くめ」


彼はにっこり笑って腰を屈め、視線を真神とあわせた。

真神は強く彼を睨み返す。


「俺である必要などどこにある…。俺より強いその兎共が居れば十分だろう…」


「言ったでしょう?せっかく上手く使えば広く活用できる力を持っているのに、と。この子達を超える可能性を君は持っていると私は踏んだ。だから君に決めたんだよ、私の主要従者に」


何を勝手に、と言おうとしたが、口が開いただけで、音が出ない。どこかかしらで、一度惨敗したこの人間にはもう敵わないという諦めが生まれていた。


「…好きにすればいいさ…。どの道あんたには勝てないのは目に見えている…」


あわせていた視線を逸らし、真神は悔しそうに吐き捨てた。討伐されるか下につくか。それしかない。枢は「よかった」と心底安心したように笑った。そして「うーん」と何事か考え始める。


「名前、真神だとそのままだからねぇ…。どうしよっか?ちょっと軽く田神とかどうだろう…」


「どーでもいい…」


「じゃあ田神でいっか」


そんな風に軽いノリでつけたその名前通り、あの恐れられていた真神があんな軽いお気軽甘党になるとは、その時枢どころか本人にも知る由はない。





おまけ、いががでしたでしょうか。

本当にちまっとしたおまけですみません;


田神の正体は古い狼の妖でした。

本編ではあんまり出てこなかったので。




それではここまでお付き合い頂き、ありがとうございました!


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