6ディアナを知っている(ユリウス)
俺の名はユリウス・ルシフェル。侯爵家の次男で父はレイモンド・ルシフェル。宮廷医をしていた。
父はブガリア国に留学していた時にディアナの母であるアリア王女と同じ学園で友人でもあった。
アリア王女は気さくで薬草の知識も豊富で勤勉な女性だったらしい。父はきっと恋心を抱いたに違いない。だが、相手は異国の王女。そんな想いが叶う訳もなく医師の資格を取るとアルドラーゼ国に帰ってきた。そして医師の資格を認められ宮廷医として働き始め結婚した。王宮の宮廷医の出世争いは苛烈で父はそう言う争いは苦手だった。
そしてとうとう宮廷医長の職を辞した。その後は今は国境近くでおきている奇妙な病の原因を突き止めるためにドボーヌ子爵領に出向いている。
父は病の原因はリーブル川の水ではないかと考えていたがまだはっきりしたことはわかっていない。だが、この調査はコートナー法務局長の指示でもあるらしい。
ドボーヌ子爵領はオールデル公爵領の一部で、二つの領地はリーブル川沿いにあった。ドボーヌ領はオールデル公爵領より川上にあり、ここ最近鉱山から新たな鉱石が見つかったらしくたいそう景気が良かった。
おまけにドボーヌ子爵はオールデル公爵が亡くなって兄の替わりに公爵家の後継者にまでなった。
本当はディアナが正当な後継者のはずなのに殿下が余計な事をしたせいで彼女は‥
ドボーヌ子爵、いや、オールデル公爵は今ではかなりの力を持ち始めていると思うのは俺の考え過ぎだろうか。
父が宮廷医をしていた頃は結婚してこちらに嫁いで来たアリア様とも顔を合わせる機会がありオールデル公爵家の屋敷に家族で招かれた事もあった。
なのでディアナとは幼い頃何度か会った事があったしアルベルト殿下の側近になった俺は何度か彼女に会っている。だが、彼女は殿下の婚約者になっていて気安く声をかけれる人ではなくなってしまった。
兄のカイルは商売に長けた人で、薬草の取引の商会を立ち上げあちこちの国を飛び回っている。
俺はアルベルト殿下の側近となり王宮で薬師をしていたアリア様と出会った。
俺はつい懐かしくてアリア様に声をかけた。
その半年後、アリア様は王妃毒殺の罪で捕えられた。そして牢で自殺した事になった。
だが、俺は牢に入れられたアリア様と会う機会があった。殿下が面会に行ったからだ。
殿下はアリア様を見てひどく彼女を詰った。周りから母を殺した女と言われて信じたのだろう。
俺はアリア様がそんな事をするはずがないと思っていた。殿下が出て行った隙を狙って彼女に声をかけた。
「アリア様、俺はレイモンド・ルシフェルの息子です。あなたが無実だと信じています。だから何とか助け出すつもりです。心配しないで下さい」と口早に言った。
「そんな危険な事は考えないで敵は王宮にたくさんいます。王妃はガイアスの不正に気づいていたのでしょう。国王の病をいい事に権力を使って好き放題をしている彼に。だから王妃は毒を盛られた。私はなんとか解毒をしようとした。でも、邪魔が入って結局王妃を助けれなかった。今何か言っても証拠がありません。私は大丈夫。疑いはすぐに晴れるはずです。私はここを出たらブガリアの兄を頼るつもりです。リーブル川の事も放ってはおけないし、きっとガイアスの悪事も暴けるはず。だから心配しないで」
彼女はそう言った。なのに自殺。あり得なかった。
きっと、ガイアスの命令で自殺に見せかけて殺されたのだと思った。その後オールデル公爵も罪を着せられてディアナは婚約を白紙に戻され公爵家を追われた。
そして長く患っていたニコライ国王も後を追うように亡くなった。そしてガイアスはアルベルト殿下をうまく丸め込んでしばらくは自分が国王代理になると話を決めた。
アルベルト殿下は前から付き合っていたディアナのいとこのシャロンとか言う女がなってディアナは平民にされた。
もう、アルベルト殿下はどこまでポンコツなんだ?いい加減ガイアスのやり方に気づいてくれないか!?
何度もディアナにお母さんの事を話そうとした。でもそんな事を言えば彼女を苦しませるだけでは無いかと怖くて今まで言えなかった。
そしてアルベルト殿下の具合が悪くなった。
ここまで手を伸ばして来たガイアスをもう放ってはおけない。
ブガリア国の王族はかなりの魔力を持っているし薬草に関してはかなりの知識があり病を治せる魔法がある事も。
俺はロイトンに頼んでディアナに連絡を取ってもらった。噂で聞いていた治癒魔法の事はある意味掛けだった。でも、やはり彼女にはそれだけの力があった。
そしてディアナは期待に応えてくれた。
アルベルト殿下が助かったのはディアナのおかげだ。
それにしてもディアナは名前をアナと言う名に変えて髪色や瞳の色まで変えていた。
もちろん知っていた。何度か救護院に出向いて彼女を陰から見たから。
どうやらディアナが使っているのは認識阻害魔法とか言う魔法らしい。貴族令嬢が平民にされて生きて行くにはきっと貴族と分かるような姿ではいられなかったのだろう。
俺の心は激しく痛んだ。両親を失い殿下には見放され屋敷を追い出されディアナはどれほど苦しかっただろう。
何とか彼女の両親の無実を晴らして元の貴族令嬢に戻してやりたい。殿下に間違っていたことを認めさせて彼女に謝らせたい。
何より俺はディアナがずっと好きだった。
だから今はアナと名前を変えて平民としているディアナをそっとしておく。でも、時が来たら必ず彼女を助けようと思っていたがこんな形で会う事になるとは思ってもいなかった。
だから殿下の部屋で彼女を見た時思わず身体が強張った。顔もきっと怖い顔になったに違いない。彼女は嫌な思いをしたに違いない。
もとより好かれようと思っているわけではないが、嫌われたかも知れないと思うと少し落ち込んだ。
まあ、そんなことよりまずは殿下に話をすることが先だと容体の安定した殿下に毒の事を話した。
今までアルベルト殿下はなんでも人任せだった。自分が国王になると言う自覚が全くと言っていいほど無い。だから王弟のガイアスがのさばる。ガイアスの周りの貴族も金回りが良くなり下の貴族はその金で言う事を聞く。そんな構図が出来上がっている。でも、ガイアスを排除して正しい政治を行おうと言う貴族もいる。
俺はアルベルト殿下にはっきり言った。殿下に目を冷ますように。
だが、この男は叔父であるガイアスを信じている。
だが、もう周りの貴族は黙っていられないとばかりに動き始めている。
王妃の実家でもあるハワード・キャベル公爵はガイアスの周辺にいる貴族を。
コートナー法務局長はリーブル川周辺で置いている病の事やドボーヌ子爵領。そして王妃の毒殺の一件と殿下に盛られた毒の出どころも調べるように命令を出している。
そして弟のガイアス国王代理の周辺についても密かに調べを進めるように指示を出した。
そして俺はロイトン先生にもしばらくの間、殿下の専属の薬師としてディアナを指名するように頼んだ。
ここまで長かった。もっと早くなんとかしたかったがとにかくディアナの無事な姿を見て嬉しくもあったがあの短い髪や髪色。瞳の色を見てまた胸が苦しくもなった。
彼女は認識阻害魔法で姿を変えていて平民として振る舞っている。俺はそんな彼女を平気で見ていられるのだろうか。




