36すべてが明らかに2
コートナー法務局長が最初にアルベルト殿下に毒を盛った犯人を突き止めると言った。
キケル医師の顔が強張った。
「キケル医師すべてを話してください」
キケルはすっかり観念したのか事の始まりから話をして殿下を殺すようにガクセン財務局長に指示されたと言った。
その話の途中には王妃毒殺の真相もあった。王妃に持った毒は鶏冠鉱の毒でその毒はドボーヌ子爵領の鉱山で取れる猛毒だと聞いていたことも言った。
殿下には最初に黒銀草を使って少しずつ殿下の体調を崩して行くつもりで黒銀草を使った。
だが、ロイトン医師が担当医に変わり平民の薬師が現れて殿下抹殺のチャンスが亡くなると焦りシャロンに毒薬を渡した。それをシャロンは知らずに使ったが失敗。そして今度こそはと薬師が作った解毒作用のある薬に混ぜて毒薬を殿下に飲ませたと話した。
「ですが、私だって本当はそんな事はしたくなかった。でも、今までの事をすべてばらすと脅されて仕方なく」
キケルはすべてを話すとうなだれた。
「その毒はどうやって手に入れましたか?」
「ガクセン財務局長から預かりました」
「お前何を言っている!私は知らん。そんな事実はない」
ガクセン財務局長が怒鳴った。
「静かに、今はキケル・リラエリアから話を聞いています」
ガクセン財務局長は歯ぎしりして黙った。
「毒だと知っていましたか?」
「はい」
「わかりました。話は以上です」
それを聞いて反論したのはシャロンだった。
座っていた席を立つとシャロンは涙を流しながら言った。
「待って下さい。私は無実です。叔父様、私を利用したの?酷いわ。私はそんなこと知らなかったんです。あの薬包が毒だったなんて、ただ、殿下に元気になってほしかっただけなんです!」
「シャロン嬢、あなたが前日黒銀草を殿下に飲ませた事はわかってるんです。あなたもただではすみません」
コートナー法務局長がはっきり言う。
「そんな!お父様助けて、私はただ、殿下に振り向いて欲しかったのよ。殿下はいつだって私の事なんか相手にしてくれなかった。だから、殿下の役に立ったと思わせれば私に振り向いてくれると思ったのよ!殿下が悪いのよ。私は彼の婚約者なのに、ちっとも相手にしてくれないんだもの!」
シャロンは立ちあがりリチャード・ドボーヌ子爵に助けてと言い、次に殿下を睨みつけた。
「シャロン嬢、黙りなさい!」
コートナー法務局長が一喝した。シャロンはビクッとするとすぐに席に座った。
「キケル・リラエリアの自白で次期億王暗殺未遂の実行犯はキケル医師とシャロンで確定と言う事で」
「いや、これはロイトンの。いや、キャベル公爵の仕組んだ罠だ。殿下に毒が盛られたのはロイトンが担当医になってからだ。それに平民になったディアナまで王宮に連れ込んで、それになんだ?ここには私を罠にかけようとしている連中がわんさかといるではないか。アルベルト殿下。騙されては行けません。あなたはアナと名乗る薬師が作った薬であんな風になったんです。キケルは言ってみれば被害者。そうでしょう?」
すかさずそう言ったのはガイアス国王代理。
「ああ、俺もディナが怪しいと思う。俺のした事を恨んでいる毒を盛ってもおかしくはない」
アルベルト殿下は本気でそんな事を思っているらしい。
婚約中も腹立たしい男だったが今も、いや、それ以上に憎たらしい。助けるんじゃなかったと思った。
コートナー法務局長は落ち着いた様子で殿下に尋ねる。
「殿下、キケルの話を聞いてどう思います?」
「ああ、嘘ではないかと。それにしてもガクセン財務局長がそんな奴だったとは‥」
「そうとなるとディアナ嬢は何もしていないと言う事ではありませんか?ロイトン医師も」
「ああ、そうだな。だが、ディアナは嘘をついていた」
私は我慢できなくなる。
「コートナー法務局長。発言をお許しいただけますか?」
「ええ、あなたにも言う権利がありますね。どうぞ」
「私はこんな所に来るつもりはありませんでした。王宮には薬草を届けるためだと言われて来たんです。ですが、殿下が苦しんでおられてロイトン医師からも頼まれてそれで仕方なく手を貸しました。もう一度言います。仕方なくです。それに認識阻害魔法は必要悪だったんです。私が平民として生きていくにはあの髪色や瞳の色では目立ってしまいます。そうでなくても両親を失い婚約も白紙に戻され失意の底にいた私にとって王妃殺害の犯人の娘と言う人の目はすごく辛かったんです。確かにそんなごまかしをするべきではなかったと思います。でも、あの時の私はもう限界でした。侍女のコニアもいてくれましたが自分を隠す事は私にとっては必要な事でした。すべてを失った私を守る唯一の方法だったんです。それにアルベルト殿下、私は最初そんなひどい事をされたあなたを助けたくなかった。でも、私は薬師です。だから‥息も絶え絶えのあなたを放っておくことなんか出来ませんでした。でも、殿下は私を疑っている。あなたと言う人はどこまでも人の言う事でしか判断できない人なんでしょう。まあ、そんな事はもうどうでもいい事ですが、昨日はトレント騎士団長の配下の騎士に毒を飲まされました。ユリウス様が見つけた時私は息をしていなかったそうです。母がいてくれたから私は一命をとりとめる事が出来ました。本当に王宮と言うところは恐ろしいところだと思い知りました。私は一刻も早くここから立ち去りたいと思っています。最後に私は殿下に毒を使ったことなどありません。それでも私が信じれないと言われるならどうぞ好きに処分していただいて構いません」
私は背筋をまっすぐ伸ばしアルベルト殿下の目をじっと見てそう言った。
殿下が目を見開き口に手を当てる。大きく息を吸い込んでふっと目を伏せた。
「アルベルト殿下。いかがです?」
コートナー法務局長が尋ねる。
アルベルト殿下は一度片手で髪の毛をくしゃりとした。目を閉じてふぅとゆっくり息を吐きだす。
そしてゆっくり顔を上げた。
「ああ、事情は分かった。俺はディアナは信じていいと思う。それにキケルも本当のことを言っていると思う。だから犯人はキケル・リラエリアとシャロンで間違いない。二人を連れて行け。もちろんシャロンとの婚約は白紙にする」
アルベルト殿下がそう言った。
「そんな!ひどい!私は何も‥」
「していない?そんなはずはないだろう。どんな理由があろうと越えてはいけない事がある。それを超えたのはシャロン。お前だ。連れて行け!」
「いや、離して。私は殿下の婚約者‥」
シャロンはそこまで言いかけて言葉を飲んだ。
キケル・リラエリアとシャロンは騎士に連れて行かれた。
私はすっと身体から力が抜けた気がした。アルベルト殿下と目が合った。
殿下がほんの少し後悔しているかのように見えた。
いえ、許しませんよ。絶対に。




