31解毒剤(ロイトン)
私は殿下の急変を聞いてすぐにアルベルト殿下の元に駆けつけた。
殿下はもがき苦しんでいてすぐにでも処置をしなければ危険な状態だった。
「誰か催吐剤を持って「今キケル医師が取りに行っています!」」
だが、彼は戻って来ない。
時間にすればそんなに長い時間ではなかった。
「そんなことよりアナを呼んでくれ。彼女をすぐにここに連れてきてくれ!」
護衛騎士が部屋を出て行く。
部屋にはコートナー法務局長やガクセン財務局長、マリウス警務調査官もいた。
「ロイトン!殿下を早く!」
入れ替わりにヴェス様とレオンが入って来た。
「殿下に使われた毒はやはりシャロンが持って来た飲み物に入っていました。あの毒はリーブル川周辺で見つかった毒物と同じものだと分かりました。同じ毒ならこの解毒剤が効くはずです!」
ヴェス様が小さな小瓶を差し出す。
「これは?もしかしてあの?」
「はい、ロイトン医師のお父様が苦心して開発された解毒剤です」
「だが、父は今は国境付近にいるはずだ。それなのにどうして?」
「もしもの時にと取り寄せていたものです。さあ、早くこれを殿下に」
私はその小瓶を受け取ろうとした。
だが、ガクセン財務局長が間に割り込んだ。
「待て、そんな得体のしれないものを殿下に飲ませる気か?ロイトンお前は医者だろう。今は毒を吐かせるべきだ!ヴェス。催吐剤はどうした?」
「ここにある。今、飲ませる」
レオンがいぶかしい顔でそう言った。
「お前か。平民のくせに偉そうな口を利くな。いいから催吐剤を殿下に。ロイトン早くしろ!」
ガクセン財務局長がレオンを怒鳴りつける。
そこにコートナー法務局長が割って入った。
「ガクセン財務局長。今は殿下の命を一番に考えるべきです。解毒剤があるならそれも飲ますべきでしょう。それとも殿下を助けたくない理由でも?」
「何を?」
一瞬、ガクセン財務局長が口ごもる。
「ロイトン、いいから解毒剤を使え!」
すかさずコートナー法務局長が言う。
「はい、ですが一度毒を吐かせた方がいいはずです。レオン、催吐剤を先に殿下に」
「わかりました」
苦しがっている殿下を抱き起し騎士にも手伝わせて殿下に催吐剤を飲ませる。
数人の騎士に抑え込まれた殿下に何度か催吐剤を飲ませる。
しばらくすると殿下は身体を折りまげ飲んだ液体を吐き出した。
胃液も混じっているのにその色は毒々しい橙色をしていた。
ヴェス様がその色を見て確信したように言った。
「この毒はドボーヌ子爵領の鉱山から採掘されている鶏冠鉱を粉末にしたものです。ほんの一握りで命を失うほどの猛毒です」
「殿下にその毒を使ったのか‥」
私は背筋が凍った。
「殿下、気を確かに。毒を吐き出し解毒剤を飲めば助かります」
「ろい‥ん‥」
殿下は苦しげな顔をして私の手を取った。
私はすぐにヴェスから預かった解毒剤を飲ませる。
殿下の喉にゆっくりその液体を流し込む。
殿下の顔は真っ青で額には脂汗が浮き出ている。それでも先ほどのもがくほどの苦しみが少し薄れたのか仰向けになったまま動かない。
騎士が殿下をゆっくり抱き上げベッドに寝かせる。
皆が殿下の容体を息を殺して見守る。
そこにユリウスが駆け込んで来た。
「何があったんです?」
「ユリウス様、殿下に毒が、でも今、解毒剤を飲ませたところです」
私はユリウス様に説明してアナを呼ぶべきだと言った。
「今は見守るしかありません。それよりアナは?彼女に治癒魔法をかけてもらえばさらに殿下の回復が早まるはずです」
殿下が少し落ち着くとアナの事を思い出した。
アナを呼びに行った護衛騎士が入って来た。
「彼女は牢に連れて行かれたようです」
「どうして?誰もそんな支持は出していないはずだ」
マリウス警務調査官が驚いた声を上げた。その横でガクセン財務局長がぎくりと肩を揺らした。
マリウスの顔がガクセン財務局長の顔を捕らえる。
「ガクセン財務局長。あなたの指示ですか?」
「私は知らん!トレント騎士団長が勝手にやったんだ!」
「トレント騎士団長はガイアス国王代理の指示で?」
「なにを馬鹿な事を!いい加減な事を言うと承知せんぞ!」
「レーニング。ガクセン財務局長を拘束しろ。事情は後で聞く。それからキケル医師はどうした?」
コートナー法務局長がレーニングに命令する。
「はい。キケル医師はすでに捕らえてあります。ご安心ください。アナさんはすぐに牢から出すように手配します」
「俺が行く」
そう言ったのはレオンだった。
「レオン。アナはきっと怯えているわ。早く連れてきて」
「ああ、任せろ!」
「俺も行く!」
ユリウス様の顔に焦りが見えた。
あの、冷静沈着な人が。




