3彼女なら(ロイトン医師)
王都イザルにある王宮には既に夜の帳が落ちていた。
月のない夜が闇を一層濃くし張り詰めた空気までも強張らせた。
ベッドの上に横たわるアルベルト殿下の苦しげな息が、部屋の空気をさらに重くした。
ここ数日の間に彼は一気に具合を悪くして彼の命の灯火は闇の世界に引き込まれそうなほど危うく見えた。
宮廷医の私は、前任の宮廷医から殿下の担当医を引き継ぎを受けたばかりだった。私は亡くなったグレイス王妃の実家の次男だ。
私はルシフェル医師の弟子でもあり宮廷医となってすでに5年になる。ルシフェル医師はずっと病に侵されたニコライ王を診て来たがニコライ王は回復に兆しもなくルシフェル医師はそれを議会で追求されて引退に追い込まれた。
そうなれば本来なら私がルシフェル医師の後任になっていてもおかしくはない。だが、ガイアスの親戚でもあるキケルが宮廷医として選ばれた。
その背後にガイアスの思惑があったと思われたが誰もそれを表立ってこちにする勇気のあるものはこの王宮にはいないだろう。
キケル・リラエリアが宮廷医医長になって直ぐに王妃が毒殺されその後を追うように国王ニコライ王も崩御された。
その間王妃や国王に担当医はキケル医長だった。だが、誰も責任を追求するものはいなかった。
そんな中アルベルト殿下の具合も急変した。今回はどうしても殿下の担当医にならなくてはと私はありとあらゆる根回しをしてこの場にいた。
すでに国王が亡くなっている。本来ならアルベルト殿下が次の王に即位されるはずだが、王弟のガイアスが国王の喪が明けるまでは自分が代理を務めると宣言し殿下はまだ王太子のままだった。
ガイアスはニコライ王が病で倒れられてから国王代理として権力を牛耳ってはいたが益々のさばり権力をかさに我が物顔に振る舞っている。
そして肝心のアルベルト殿下は叔父であるガイアスをすっかり信じ頼り切っている。
ガイアスは国王の座を狙っているのは明らかなのに。
私はアルベルト殿下をそっと見た。
アルベルト殿下は幼い頃から呼吸器が弱かった。特に月のない夜は発作が出やすいと記述にある。
いつもの薬湯の支持を出すが、この薬湯もあまり効果がなさそうだ。
彼の息は細く、顔色は悪い。胸は大きく上下して苦しさは少しも和らいでいない。
このままでは危険だ。
私は直ぐに決断をした。急ぎ別の薬草を届けるよう教会に使者を送った。最初から薬草を持って来る者指定していた。
こうなったら彼女を頼るしかないと思っていた。ディアナ・オールデル公爵令嬢。元アルベルト殿下の婚約者。ブガリア国の血筋を引きこの国で唯一治癒魔法が使える者を。
もう、ガイアスの好きにさせてたまるか!だが、アルベルト殿下はガイアスにいいように騙されている。
ガイアスの本当の姿を見せつけなければ殿下は彼を排除できない事もわかっている。
だが、私には強力な見方がいる。
ダミアン・コートナー法務局長。ヴォルク・レーニン副騎士団長。ユリウス・ルシフェルはアルベルト殿下の側近で父はレイモンド・ルシフェル。彼はブガリア国に強力なパイプを持っている。
ガイアスの不正の証拠をつかむには頼もしい連中ばかりだ。そのためにもアルベルト殿下を死なせるわけには行かない。
廊下が騒がしくなった。どうやらディアナが着いたようだ。
「失礼します。救護院より薬草をお持ちしました」
「入ってくれ」
私は彼女を迎え入れた。




