26困惑する(アルベルト)
俺はその日の午後シャロンに差し入れられたホットオレンジを飲んで一気に具合が悪くなり悶え苦しんだ。
大声で護衛騎士を呼びロイトンを呼ぶように言った。その間も吐き気に襲われ息は苦しくてもうダメかと思った。
毒か?
どれくらいたったのかわからなかった。
俺はロイトンが駆け込んで来た事にさえ気づけなかった。
いきなりベッドの上で誰かに押さえつけられ腹の上に乗られ何かを無理やり飲まされるとすぐに胃が押し上げられ飲んだものが逆流して吐いた。
昨日も毒を盛られたばかりなのに?嘘だろう。本気で俺を殺そうとしている奴がいる。俺は正直恐くなった。
まさかこんなあからさまに仕掛けてくる奴がいるとは驚きだった。
実際のところここ数日体調が悪かった。昨日はシャロンが昼に来てお茶を淹れてくれた。
いつもは王太子教育で文句ばかり言っているのに珍しくやけに機嫌が良かった。シャロンが淹れたお茶を飲んで一時間ほど立った頃から具合が悪くなった。それまでも呼吸が少しし辛かったが、息を吸っても肺に空気が入っていないみたいで苦しくてたまらなくなった。
ロイトン医師も薬を飲ませたがほとんど効かなくて、平民の薬師のアナと言う女を連れてきた。
アナは魔法が使え俺に治癒魔法をかけた。おかげで息が楽になりずいぶん気分も良くなった。
翌朝は数日ぶりに楽に起きれて薬湯はスッキリして飲みやすかった。
薬師としての腕も良いのだろうと思い朝顔を出した時にもう少し甘めの薬を作れと言った。
昼食はロイトンやアナも同席して退屈だった俺は楽しい時間を過ごせた。この分なら明日には執務に戻れそうだとユリウスにも言うほど身体の調子は良くなっていた。
だが、午後にシャロンが持ってきたホットオレンジを飲んでしばらくして今度は昨日どころではない苦しさに襲われた。
おれはもがき苦しみ今度こそ死ぬと思った。
だが、今度もロイトンとアナのおかげで命拾いをした。本当にアナが居てくれて良かったと思った。
だが、俺が毒を盛られた事が公になり、ロイトンやアナ、ユリウス達は事情を聞くために拘束されたと聞いた。
まあ、犯人を特定するには仕方のない事だ。
事態を聞きつけてコートナー法務局長が入って来た。
俺は言った。
「シャロンだ!シャロンが持って来た飲み物を飲んで死にそうになった」と。
「わかりました。ですがここは慎重にしなければいけません。すでに我らの手の者がガイアス国王代理に周辺を調べております。殿下の毒殺未遂もきっとあの男が裏で糸を引いているに違いありません。シャロン嬢が知らずに利用されたのかもしれませんししばらくは内密にした方がよろしいかと存じます」
「ああ、わかった。くれぐれも慎重に頼む」
「はい、ロイトン医師が聞き取り調査の為籍を外しますので殿下の体調はキケル医師が担当になります。ただし、レーニング副隊長をつけておきますのでご安心ください」
そうだった。キケル医師もガイアスの息がかかっているんだったな。
ここは悪の巣くう魔城なのか?俺はそんな事を思った。
そしてコートナー法務局長と入れ替わりにキケル医師がやって来た。後ろにはレーニング副騎士隊長がいた。
俺は飲み込んだホットオレンジはほとんど吐き出したと思うがすでに幾らか毒が体内に吸収されたのだろう。
頭痛がして少し朦朧ともしていた。今だに吐き気がして呼吸も少し苦しい。
「殿下、ご無事で何よりでした。まだしばらくは意識が朦朧とするかも知れません。それに完全に毒が排出されるには数日かかるでしょう。その間は安静にしていて下さい。殿下はこの国に取って唯一無二の存在なのです。くれぐれもご無理をされませんように」
キケルは心配そうな顔をして俺の脈を取った。
反対側にはレーニングが控えている。
「取りあえず今は落ち着いておられるようですな」
「ああ、さっきは本当に危なかった」
無骨はレーニングが怯えたような顔をしている。
「殿下、もう、肝が冷えました。よくご無事で、今からは私が殿下の護衛としておそばにおりますのでご安心下さい」
「ああ、レーニング心配をかけた」
「いえ、殿下を危険な目に合わせて申し訳ありません」
「お前のせいではない。気にするな」
レーニングは頭を下げた。
キケルが話を始めた。
「殿下、取り敢えず解毒作用のある薬を飲んで頂きます。それから胃の調子を整え呼吸を楽にする薬湯も準備させます。苦くても我慢して下さい」
キケルも俺が苦い薬が嫌いだと知っている。でも、今はそんなわがままは言っていられない。
「ああ、わかっている。後でユリウスに話があると伝えてくれ」
「殿下、彼はまだ取調べの最中ですので代わりにクロードを呼びます」
俺はクロードがガクセン財務局長の息子と知っている。
すでに叔父の息がかかった連中が危険と肌で感じた。
「いや、彼も忙しいだろう。執務はしばらくは無理そうだし色々用を頼むにはレーニングの部下をつける」
「殿下がそう言われるなら。では、後で薬をお持ちしますので」
「わかった」
キケルが出ていくと俺はレーニングに直ぐに指示を出した。
「シャロンが持って来た飲み物に毒が入っていたに違いない。だが、シャロンがそんな事をするとは考えにくいだろうな。調査はコートナーに依頼してある。それから叔父上達の動向も注意してくれ」
「元よりそのつもりでコートナーも動いております。犯人の特定も今調べていますので」
「ああ、わかった情報は直ぐに上げてくれ」
この時俺は平民のアナが心配だった。彼女は俺を助けてくれた。薬が苦いといえばそっと甘い薬草を入れて薬を作ってくれた。
救護院では薬師として頼りにされいるとも聞いた。昼食を一緒に取ると彼女は控えめで優しい女だと気づいた。
胸の辺りがむずしてこそばゆい感覚が広がった。こんな気持ちは初めてだった。
「それから俺を助けてくれた平民のアナと言う女。くれぐれも気を付けて面倒を見てくれ」
「はい、心得ております」
だが、俺は知らなかった。アナがディアナ・オールデルだった事も認識阻害魔法を使って姿を隠していた事も。




