24警務調査官取り調べ4(ノイア)
シャロンお嬢様は事情聴取が終わるとすこぶる機嫌が悪かった。
「まったく、失礼だわ!まるで私が犯人みたいに。そうそう万が一ノイア、あなたが呼ばれる事があったら今日私が殿下に持って行ったお茶を作ったのはあなただと言いなさいよ!わかってるでしょうね。あなたはオールデル公爵家に雇われてるんだから、主人が困るような事をしたらクビにするわよ」
「お茶?お嬢様が一人で煎れたあのお茶の事ですか?」
「そうよ。余計な疑いがかかると面倒でしょ」
「もしかしてお嬢様が毒を?」
「ノイア!言っていいことがあるでしょ!私が殿下にそんな事をするはずがないでしょう。疑われるのが嫌なのよ。それくらいの事もわからないの?これだからグズはいやなのよ。ああ、それから昨日のお茶もあなたが用意した事にしておいて。いいわね!」
「はい、わかりました」
私は訳もわからずそう答えた。
その後も部屋から出るなと言われたお嬢様は機嫌が悪かった。
暫くして私が呼ばれた。
どうしてと思ったが呼ばれたので行くしかなかった。
私は調査補佐官について部屋に入った。
警護調査官は感情を排除したような面持ちの人だった。
緊張して椅子に座った。
「緊張していますか?」
「はい、どうして私が?」
「関係者全員に話を伺っています。聞かれた事に正直に答えて下さい」
「わかりました」
そう言われるともう、嘘はつけないと思った。
事情聴取を行う事を伝え名前、身分、住まいなどを聞かれた。
「メイア・ノイトン。子爵家の3女です。5年前学園を卒業してからオールデル公爵家にお世話になっています。住まいはオールデル公爵家です」
「5年前からオールデル公爵家に。シャロン・オールデル公爵令嬢の侍女になる前は?」
「最初は侍女見習いとして奥様の補助をしておりました。5年目になるのでもうすぐディアナお嬢様の侍女にと言われておりました。ですがディアナお嬢様にはコニア様と言うベテランの侍女が付いておりますのであくまで補佐の位置ではあったと思いますがあのような事があり新しく入られたシャロンお嬢様の侍女になりました」
ここまではスムーズに話が出来た。
「それでは、昨日のシャロン様が殿下の為にとお持ちになられたお茶ですが、あなたが作られましたか?」
私はシャロンお嬢様が言っていた事など頭から消えていた。
それにこんなところで嘘をつくのはいけないとも思った。
「いえ、昨日のお茶はお嬢様が殿下の所に持って行くから自分で作ると仰って、私はどんなものが入っていたかも知りません」
「わかりました。ですが昨日殿下にお茶を入れたのはあなたですよね?」
「はい、そうです。でも、お茶の中身は知りません」
「では次に、今日午後に殿下の所に持って行かれた飲み物についてですが」
「はい。私はその飲み物を作るときにはお嬢様のそばにはいませんでした。一人で作りたいからとおっしゃって私は部屋から出されました。その後ワゴンを押して殿下の部屋の前まで行ったのは私です」
「そうですか。その時飲み物について気づいたことはありましたか?」
「色が濃いとそれに匂いも少しつんとした感じがしましたが、そう言う飲み物だと思いました」
「シャロン様はそのことについて何かおっしゃっていましたか?」
一瞬、お嬢様が言っていたことが脳裏に浮かんだ。
目が泳いだ。
そんな姿を見た警務調査官が水を勧めてくれた。
「すみませんね。こんな取り調べのような事を。あなたがどれほど緊張しているかわかります。さあ、水でも飲んで少しリラックスしましょう」
「はい、すみません」
私は勧められたカップを取りのどを潤す。
ディアナお嬢様がいた頃は良かった。無理な事を言う人はいなかった。きちんと仕事をしていれば温かい言葉や優しい視線があった。
でも、あの子爵家の人たちが来てからはすべてが変わった。旦那様は強欲でケチ。奥様は最初の頃は遠慮がちで大人しかったが贅沢に慣れてくるとあれやこれやと文句を言い始めた。ドレスの色が。宝石が。庭の花が、馬車の座り心地が、食事がと次々に文句を言い始めた。使用人はその度に花瓶の花を入れ替え馬車の荷台のクッションを取り替え、ドレスを取り替え、上に下にと大忙しで。
シャロンお嬢様も同じだった。奥様が文句を言うのを真似るように私に文句を言うようになった。
髪型が気に入らない。シャロンお嬢様の宝石を持って来い。香水の瓶を投げつけられたこともあった。要領が悪い。気が利かない。あなたなんかいつでも首に出来るのよ。二言目にはそう言われた。
ついこの間まで私と同じ子爵家だったくせに!
偉そうにそれでいてディアナお嬢様を汚いものみたいに扱って。
そんな事を思い出すとシャロンお嬢様を庇う気になど慣れなくなった。
「あの、こんな事言っていいのか、でも、私が話したと分かれば仕事を失うかも知れません」
「あなたがここで話したことは絶対に公の場には出しません。そうでなければ皆さん不安で何も話せません。安心して本当のことを話してください」
「シャロンお嬢様は昨日のお茶は私が作った事にしろと言われました。今日お茶を作ったのも私だと言うようにと。そう言わなければクビにするとおっしゃいました」
「要するにあなたは脅されたのですね?」
「はい、私はどうなりますか?」
「大丈夫です。ノイア様、本当のことを話して頂きありがとうございました。シャロン様には言われた通りに話したと知らないふりをして下さい。真実が明らかになればシャロン様も無事ではいられません。どうか安心して下さい」
彼はそこでほんの少し口元を崩した。
私は間違っていなかったと思った。
退室してシャロンお嬢様の所に戻った。
お嬢様は苛立ったように私に問いただした。
「ノイア、どうだった?」
「はい、お茶の事を聞かれましたので私が用意したと言いました」
「今日の飲み物は?」
「そちらも私が作ったと言っております」
「そう、ご苦労様。お茶を煎れて、緊張したから喉が渇いたわ」
「かしこまりました」
うそつき。私は心の中で呟いた。




