22警務調査官取り調べ2(シャロン)
私はそろそろ王宮から帰ろうと思っていた。
部屋がノックされた。
ノイアが返事をすると護衛騎士が二人慌てて部屋に入って来た。
私はまだ椅子に腰かけて敬礼をする騎士を見た。
「失礼します。シャロン・オールデル公爵令嬢。しばらくこの部屋で待機していただきたい」
「いきなりなんですか?お嬢様は殿下の婚約者です。そのような態度失礼です」
「失礼は承知しておりますが、アルベルト殿下が毒を盛られてそのことでお話を伺う必要が出来ましたので」
私は椅子から立ちあがった。
「殿下に毒ですって?それで、殿下は無事ですか?」
「はい、一時は危険な状態でしたが、今は落ち着いておられます。それで関係者から話を聞くことになりました。オールデル公爵令嬢はこのままここで待機していただけますか?」
「ええ、でも先に殿下にお会いしたいわ」
「お気持ちは分かりますが、何分一大事ですのでどなたにも勝手な行動は控えて頂いております」
「まあ!私は殿下の婚約者ですのよ。将来はあの方の妻となるんですよ!それでも会えないとはどういうことですの?」
私はアルベルト殿下が心配で少し無理を言った。
「申し訳ありません。今は御辛抱を。後程お話を伺いますのでここで待機をお願いします。では失礼します」
騎士は苦い顔をして出て行った。
「ノイア、お茶を入れて頂戴。濃い目にね」
「わかりました」
「そう言えば殿下は私がお持ちしたホットオレンジは飲まれたのかしら。毒が入っていたとしたら昼食?それともあの薬師が何かしたのかもしれないわ。あの人平民だったもの。ロイトン先生があんな人を殿下に近づけるからこんなことが起きたに違いないわ」
私は毒がいつ殿下の口に入ったのか考えた。
しばらくして警務調査官から話を聞きたいと呼ばれ部屋に案内された。
政務棟にある3階の部屋。
何の飾りもないその部屋で40代くらいの警務調査官のマリウスと名乗る男の前に座った。
警務管理官補佐だろう男がテーブルの上に水差しとコップを置いた。備品らしく品がなかった。
どうして私がこんな所に。そんな事を思っているとマリウスが話しを始めた。
「これから、次期国王陛下暗殺未遂事件の証人事情聴取を行います。聞かれた事には正直にお答えください。質問は質疑が終わったらお聞きします」
暗殺未遂事件と聞いて背中がぞくりとした。
「事情聴取ですって?私はそんな大事だとは思っていなかったわ。私は殿下の婚約者ですよ。それなのにどうしてこんな扱いを受けなければならないんですの?」
「これは関係者全員に行っております。殿下の部屋に近づいた方、関係があった方すべてに話を伺っております。どうかご了承ください」
顔色一つ。眉の端さえ動かさず彼は淡々とそう言った。
「ですが、私を犯人扱いするのは失礼です!」
私は問題を大きくしたいわけではない。でも、こんなの失礼よ!
「犯人扱いなどしておりません。この一件は最重要案件です。私は最善を尽くすためにすべての関係者から事情をお聞きする必要があります。どうかご協力をお願いします」
決して大きな声ではない。だが、威圧に満ちた声だった。おまけに目はこれ以上問題がありますかと言っているみたい。
私は王太子教育を思い出した。”必要以上の言葉は逆に心象を悪くします”教育係の先生が言っていた。今は引き下がった方が賢明だと判断する。
「わかりました」
「まずお名前と身分と住まいを教えて下さい」
「そんな事までお話するんですの?」
「はい、規定にそっております」
「シャロン・オールデル。オールデル公爵家次女。王都イザル、スチュール通り3です」
次女で間違ってないわよね?でも、シャロンは平民になったから。
そう思ったが彼が次の話しに移った。
「それでは昨日からの行動を伺います。朝、屋敷を出る所からお願いします」
「はい、昨日は朝9時半に屋敷を出て王宮に入りました。王宮に入ったのは10時前だったと思います。それから王太子教育を受けて昼食前に殿下の部屋に伺いました」
「そこで何をしましたか?」
「殿下にお茶をお持ちしたんです。調子が悪いと仰っていたので自宅からお茶を持って来ました」
「そのお茶は一緒に飲まれたのですか?」
「いえ」
「その時使ったお茶の葉はありますか?」
「いえ、1回分だけをブレンドして持ってきましたのでありません」
調査官の質問の口調に合わせるのでつい硬い口調になっている。そんな事を思いながらもあの毒草の事がばれれば余計な疑いを掛けられることは間違いない。それは絶対に避けたいと思っていた。
「殿下はその後で具合が悪くなられたと知っていますか?」
ギクリ。
一度ゆっくり息を吸い込んだ。
「はい、このところ呼吸器の調子が悪いと聞いています。でも、幼い頃からの持病だとも伺っておりましたので」
「はい、ですが、実際には持病とは別に毒が体内に入ったせいでかなり危険な状態でした」
私は一瞬狼狽えた。身体が強張り膝の上の手の中のハンカチをぎゅっと握りこんだ。
「そんな‥」
「驚かれましたか?それとも動揺されたとか?」
「それが悪いとでもおっしゃりたいんです?」
「いえ、では昨日持っておられたお茶の内容を教えて下さい」
「それは‥侍女が作ったので詳しい事はわかりません」
「あなたがご自分で作ったものではないのですね?」
「はい、侍女に喉に良いハーブでも入れて作ってほしいと頼みました」
「わかりました。後程作られた方に伺いましょう。では、昨日の午後殿下の見舞いに伺いたいとおっしゃったのはなぜですか?」
「いけませんか!」
「いえ、その時タルトをお持ちになっていたと聞いていますが」
「はい、午後のお茶の時にと思って自宅から持って来たのもでした」
「お茶にタルトですか。そのタルトはまだありますか?」
「いえ、昨日捨てました」
マリウスは顔色一つ変えずにいる。
私はすでに動揺していて何度も手の中にあるハンカチを硬くなるほど握りしめていた。
「昨日はその後お帰りになったのですか?」
「はい、すぐに。いえ、キケル医師の所に少し」
「どんなご用件で?」
「殿下が心配で容体を知りたくて行きました」
「ですが、殿下の具合はロイトン医師から伺われたんですよね?」
「はい、ですが元々はキケル医師が殿下の担当でしたから殿下の容体をご存知だろうと思いましたので」
「キケル医師は何といわれましたか?」
私は動揺していたし何だか犯人扱いされているみたいでイライラもしていた。
「殿下は心配ないと、それでも心配ならと喉に良い薬草の粉末をくれました」
「キケル医師が直接あなたにですか?」
尋ねられて自分が何かしたみたいな責められているような気がした。
何ですの?悪いの?叔父様が心配して薬草をくれただけの事ですのに。
「はい、キケル医師は叔父でもありますのできっと私が殿下のお役にたちたい気持ちを汲んでくれたのだと思いますわ」
「それは昨日の事ですね?でも、その時、殿下はもう具合が悪かった」
「はい、ですのでそのまま薬包は自宅に持ち帰りました」
「わかりました。それで本日はどのように?」
「はい、昨日と同じように9時半に屋敷を出て10時前に王宮に入り王太子教育を受けました」
「王太子教育を受けられる前に殿下の所に行こうとしましたか?」
「いえ、昼食後に殿下のお見舞いに伺いました」
「その時の事を詳しくお話しください」
「はい、昼食後、殿下にお持ちする飲み物を準備しました」
「それはお一人で?」
あの時叔父様から貰った薬草をいれた。なぜかその事を知られるとまずい気がして私は嘘を言った。
「あっ、いえ、侍女もおりました」
「部屋で侍女立ち合いの元飲み物を作ったんですね?昨日もらった薬草を入れて?」
「はい、叔父から喉によいの聞いておりましたので。それを持って殿下の所に行きました」
「はい、その事は護衛騎士からも報告が上がっています。ホットオレンジをポットに入れて持って来られた」
「はい、殿下に会いたいと言いましたがまだ面会は出来ないと言われて飲み物だけを預けました」
「はい、飲み物を乗せたワゴンを殿下の部屋に運んだと聞いております」
「はい、そうです」
「飲み物の色ですがかなりどぎつい色で匂いもきつかったと、何かおかしいと思われたことはありませんか?」
「いえ、特には。薬草ですしオレンジを入れたのでそう言うものだと」
「そうですか。聞き取りは取りあえず以上で終了ですが、申しわけありませんが証人の方々は事態がはっきりするまで自宅に戻ることは出来ません。用意された部屋でお過ごしいただきますようお願いします」
疑われている。そう思った。
「まあ、失礼ではありませんの?私は殿下の婚約者ですわ!」
声が大きくなった。椅子から立ちあがっていた。
「お気持ちはわかりますが全員から話を聞いて事態がはっきりするまではどなたもお帰り頂くことは出来ません。どなたもです。ご了承下さい」
警務調査官マリウスはどなたもを二度強調して平然とした顔でそう言った。彼はまだ椅子に座ったままだった。
私は立ちあがると部屋から出た。
表には侍女のノイアが控えていた。
「お嬢様、お疲れさまでした」
「どうして私がこんな目に合わなきゃならないの。まったく、いい迷惑よ!」
歩く歩調が乱れていた。
胸の中がぞをぞわして落ち着かなかった。
あれは、そんな具合の悪くなるものではなかったはずなのに。




