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厄災令嬢は王太子殿下の元婚約者でした  作者: はるくうきなこ


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21警務調査官取り調べ1


 しばらくして騎士がやって来た。

 「出ろ!警務調査官が話しを聞く。ついて来い」

 「まるで罪人扱いですね」

 私はすっかり弱気になっていたがその一言が頭に来た。

 「大口をたたくな。お前は容疑者の一人だ」

 「容疑者ですか」

 「殿下に近づけたものはすべて容疑者として扱われる。お前だけではない」

 「お前。でしたら、その言葉使い何とかしていただけませんか?まるで罪人だと言われているみたいで気分が悪いです」

 「小賢しい。平民風情が!」

 騎士はそう吐き捨てると黙った。

 平民。それだけでこの差は何なのだろう。

 ずっと不条理の中であがいていた。それでもと踏ん張って来た。

 なのに。

 こんな所で潰されたくはないと思った。

 ひ弱になっていた気持ちが沸々とした怒りに変わった。

 私は何も恥じるようなことはしていない。ただ、真実を伝えればいい。そう思うと覚悟みたいなものが出来た。

 ヴェス様も言っていた。必ず助けるって。じゃあ、私は私にできる事をする。

 私は背筋をきちんと伸ばして騎士の後ろを黙ってついて行った。


 王宮内でも向かっているのは政務棟の方だった。

 私は3年王宮に出入りした。どこに何があるか詳しい場所まではわからないがある程度の場所くらいはわかる。


 部屋に入る。

 真正面に窓が見えた。腰くらいまでの位置、薄い生地の白いカーテンが端で止めてあり景色が見えた。空には薄い雲が広がっている。3階らしく遠くに高い木が見えた。

 部屋には中央には細長いテーブル。椅子が向かい合わせにあって部屋の隅に小さなテーブルと椅子があって細長いテーブルの一方に男性が立っていた。

 多分40代くらいだろう。グレーの上着。胸には警務官である印であろうアルドラーゼ国の紋章の一部である星形を模したピンが止まっている。

 テーブルの上にはいくつかの書類が置かれている。

 「私は警務調査官のマリウスと言います。これから次期国王陛下暗殺未遂事件の事情聴取を行います。まずは聞かれた事には正直にお答え下さい。質問があればそれが終わったらお聞きします」

 「わかりました」

 「ご着席ください」

 私は向かい側の席に座らされた。

 直ぐに他の警務補佐官らしき人がテーブルの端に水差しとコップを置いた。


 直ぐにマリウス様が話を始めた。

 「まず名前と身分、それから職業と住まいを教えてください」

 「本名はディアナ・オールデルでしたが、事情があって平民となり今はアナと名乗っております。救護院の薬師をしており救護院に住んでおります」

 「こちらに来た経緯を」

 「昨日、アルベルト殿下の容態が思わしくなく薬草を届けて欲しいと王宮のロイトン医師から依頼がありました」

 「今までそんな依頼はありましたか?」

 「いえ、今回が初めてです」

 「殿下の容態はどうでした?」

 「殿下は大変苦しんでおられました。ロイトン先生から治癒魔法を使うように言われて治癒魔法を使いました」

 「それで、殿下の具合は?」

 「はい、良くなりました。その時、殿下に毒の気配を感じましたので報告しました」

 「では、昨日も毒が使われたと言う事ですか?」

 「はい、ですが昨日の毒は命に危険が及ぶほどの毒ではなかった気がしました」

 「では、次に殿下に作られた薬のことを伺っても?」

 「はい、私は処方をロイトン先生にお願いしたかったのですが、ロイトン先生は私に任せると言われたので、私が殿下の薬の処方を考えました。殿下の解毒と喉の炎症や呼吸を和らげる薬が必要だと思いドクダミ、銀光花の根とペパーミントで薬を調合しました」

 「それは一般的な薬ですか?」

 「はい、そうだと思います」

 「今日、殿下は朝からその薬を飲まれたんですか?」

 「はい、その場にロイトン医師もユリウス様もいらっしゃいました」

 「薬を飲まれた殿下のご様子は?」

 「特に問題はありませんでした。その後昼食前にまた殿下のところに伺いました。その時は薬の調合を少し変えました」

 「それはどうしてですか?」

 「殿下が飲みにくいとおっしゃったので」

 「教えてください」

 「はい、ドクダミ、銀光花、金華草、甘露草です」

 「これも一般的な薬草ですか?」

 「はい、そうです。口当たりが良くなります。殿下がもう少し甘みが欲しいと言われたので」

 「甘みですか」 

 「はい、甘露草が甘みがあるので」

 「これを飲まれた殿下のご様子はいかがでしたか?」

 「変わりはなかったです」

 「その時一緒におられたのは?」

 「ロイトン医師とユリウス様です」 

 「そして殿下の部屋から退室したんですか?」

 「はい、私は薬師室に戻りました」

 「そこで王妃の記録を勝手に見ていたんですか?」

 「はい、確かに黙ってみました」

 「どうしてですか?」

 「王妃様が毒殺した事に少し興味がありました」

 「あなたは王妃陛下毒殺事件の犯人アリア・オールデルの娘ですか?」

 「はい」

 「あなたはお母様のせいで殿下との婚約を白紙にされましたか?」

 胸の奥が痛んだ。つい感情に流された。

 「母は無実です。ですが犯人にされたと私は思っています。そしてそれを苦に母は自殺しました。だから王妃の記録を見ました」

 「それはあなたの推測ですね。申し訳ありません。質問に余計なことを言ってしまいました。事実だけをお話し下さい。殿下との婚約が白紙になりましたか?」

 私はマリウス様を見た。彼は少し気まずそうな顔をした。

 「はい」

 私は気持ちを切り替えて返事を返した。

 「その事で殿下に特別な感情がありますか?」

 私はハッと顔を上げた。

 感情が湧き上がる。もちろん恨みはある。でも、だからと言って殿下を外そうなどと思った事はない。

 「正直にお答えください」

 「もちろん、恨んだこともあります。やりきれない気持ちにもなりました。でも、殿下を傷つけようなどと思った事はありません」

 「少し休憩しますか?」

 「いいえ、大丈夫です」

 「わかりました。平民になられてから救護院で働かれていましたか?」

 「はい」

 「そこでの暮らしはいかがでしたか?」

 「最初は辛かったです。でも、侍女のコニアがいてくれたので。それに看護係の仕事は忙しかったですし、身の回りのことも覚えなければならない事が多くて気づけば半年が過ぎていました」

 「慣れない暮らしで手一杯だったと言う事でしょうか?」

 「はい、そうです」 

 「最後に、今、殿下のことはどう思っていらっしゃいますか?」

 「もう、関係のない人だと思っています。でも、元気でいて欲しいと思っています」

 「それ以上の感情はないと?」

 「はい」

 「失礼ですが今のお姿は本来の姿ではありませんね?」

 私は少し躊躇した。もちろん私は悪い事はしていない。でも、姿を変えて王宮に入った事はかなり心象が悪いと思った。

 なので自分から先に話をした。

 「はい。認識阻害魔法を使って髪色や瞳の色を変えています」

 「どうしてそんな事を?」

 「平民になった時今までの髪色では目立つと思いました。そうでなくても人のうわさは聞きたくありませんでしたし平民として生きて行くために私には必要な事でした」

 「王宮に来た時はいかがです?何か思惑があってそんな姿になったと言う事はありませんか?」

 私はマリウス様を見た。

 本気で聞いているのかと思った。ひょっとしたら私の顔は彼を睨んでいるかもしれない。

 「申し訳ありません、事実確認のためですので正直にお答えください」

 彼は眼鏡の淵を指先で押し上げた。

 「認識阻害魔法を使っていました。殿下に会う事にためらいがありました。私と気づかれたくありませんでした。もし、私と知ったら酷い事を言われるのではないか。未練でもあるのではと思われるのも嫌でしたから」

 「それ以外の目的はなかったと言う事でよろしいでしょうか?」

 「他の人にもディアナと気づかれたくありませんでした。それ以外には目的はありませんでした」

 「わかりました。それでは誤解を防ぐために今すぐ認識阻害魔法を解いて下さい。あなたは元ディアナ・オールデル公爵令嬢です。ここでは本来の姿でいるべきです。こういう事態が起きている時に姿を隠す事はあなたのためにもなりません。よろしいでしょうか?」

 「でも、今さらそんな事をしたら余計誤解を与えるのではありませんか?」

 「事情が事情ですので皆には理解してもらいます」

 「そのことで私が不利になったりしませんか?もちろん私は何もしていません!」

 「それはこの段階ではお答えできません。誰が何をしたのかこれから明らかにしていくのですから、それでもこのまま魔法で姿を誤魔化すより心象はいいと思います。もちろん無理にとは言いません。聞き取りは以上で終了です」

 彼の口調は固い。でも、目にはほんの少し優しさを感じた。

 きっと私のために行ってくれている。そんな気がした。

 「わかりました。そこまでおっしゃるなら言う通りにします」

 私はその場で認識阻害魔法を解いた。

 髪色が元の青銀色になり瞳は橙色に戻った。眼鏡も外した。

 マリウスは満足したような顔をした。気がした。


 「あの、私はまた牢に戻されるのですか?」

 「牢には戻しません。ですが、まだ他の方の聞き取りもしなくてはなりません。それまでは救護院に戻るのは待って頂きます」

 「わかりました。ですが最初に牢に入るとは思いませんでした」

 私はとりあえず牢から出れることで安堵したが一言いいたかった。

 「殿下の一大事と言う事で護衛騎士が過剰な判断をしたことはお詫びします。殿下からどの証人にもきちんとした対応を取るようにと指示を頂いておりますので、どうかお部屋でゆっくり過ごしてください。お風呂も付いておりますし、食事も運ばせます」

 マリウス様は頭を下げた。

 「殿下からですか」

 「はい、事を荒げず適切な処理をするようにとのお考えです」

 「殿下は無事なんですね」

 「はい、完全に回復はされてはいませんが意識もしっかりされています」

 「わかりました。ありがとうございます」

 私はそれだけ言うと部屋を出た。


 部屋から出ると警務補佐官に客間がある方角に案内された。

 「ここでお休みください。但し廊下には出られませんように。証言者の方には表には見張りが付いております。これもあなたの安全を考えての事ですのでご了承ください」

 警務補佐官がそれだけ言って去って行った。

 私はふかふかの絨毯に格調高い家具、シルクの寝具、寝心地の良いベッド、お風呂のある部屋に案内されていた。

 貴族の令嬢が過ごすような部屋だった。

 平民には過分な扱いかも知れない。でも、牢に入れられるのは間違いだと思った。




 



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