20もう、だめに決まっている
ロイトン先生は途中でどこかに連れて行かれて私は一人地下牢に連れて行かれた。
地下牢はじめじめしてかび臭い匂いがしていた。剥き出しの石の壁の高い所に細長い窓があった。
薄暗いが周りは何とか見渡せるほどの明るさだった。
「しばらくここに入っていろ!」
連れて来た護衛騎士が私に罪人に言うような口調で言った。
実際、そんな場面を見たことがあるわけではないが何だかそんな風に感じた。
冷淡で突き放すような言い方だった。
私は何も悪い事はしていないのにおかしい。
牢の扉が開き私は押し入れられるようにその中に入った。入らされたと言った方が正解だ。
「私は悪い事はしていません。そんな態度を取られるいわれはないはずです」
「ふん、平民のくせに文句を言うのか?」
「平民だろうと何もしていないのに牢に入れるんですか?」
「グダグダうるさい。黙ってここで待っていろ!ったく」
護衛騎士は牢の扉を閉めて留め金をすると振り返ることもなく去って行った。
私は大きく息を吐きだした。
かび臭い匂いが鼻に入って来て思わず鼻を口で覆うと視線を牢の中に巡らせた。
窓からは薄い光が差し込んでいてその光が粗末なベッドの上に落ちていた。
ベッドはかなり使い込まれたものだとすぐに分かった。ベッドの上には擦り切れたシーツがないよりましだみたいな感じで敷かれていた。
そのそばに小さな木のテーブルがあって長年使い込まれたのだろう。木は黒ずみあちこちに傷があった。それでも4本の脚はしっかりしていてまだ十分使えそうだった。
私はすごく身体が重くなってベッドのシーツを叩いてベッドの上に座った。
魔力を一気に使ったせいか頭痛もするし何よりこの状況に気分が落ち込んでいた。
ロイトン先生がきっと私の事を何とかしてくれる。はず。だから。でも‥
そこまで考えてもう考える事をやめた。
いくら考えたところで貴族の言う事に逆らえるはずもない。平民となった私が無実だと言ったところで貴族が私がやったと言えば多分私が犯人だと言う事になるのだろう。
疲れ切ってベッドに横になった。
仰向けに寝転がり天井を眺めた。ごつごつした石に苔が張り付いている。
無性に情けなくなって心細くなった。
「アナ?」
不意に声がして私は驚いて起き上がる。牢の外を見るとヴェス様がいた。
「大丈夫?」
「ヴェス様どうして?」
「殿下の毒を検査して欲しいって警務調査官が来てあなたの事を聞いたら、ここに連れて行かれたって聞いて。ほんとにひどいわ。恐かったでしょう?」
ヴェス様は初めて会った時みたいに鉄格子の隙間から手を差し入れて私の手をぎゅっと握ってくれた。
「どうして私が‥」
不安だらけの私はすぐに涙腺が崩壊した。
「大丈夫。あなたは無実だって絶対証明する。こんな所すぐに出れるようにするから」
「でも、私、魔法が使えるの知ってますよね?この国の人たちは魔法を嫌ってます。私が魔法を使って殿下を殺そうとしたって思うかも知れません」
「大丈夫。私だけじゃない。ユリウス様も政務局長も副騎士隊長もキャベル公爵もみんなあなたじゃないって思っているわ。それに今レオンがシャロンが持って行った飲み物を調べているから」
「そんなの。毒を調べるのがどれほど難しいか。もし、毒が見つかったとしてもそれをシャロンが入れたって証拠にはなりません」
「その毒の出どころが特別だったとしたら?」
一瞬、それなら私の無実は証明されるかもと思った。でも。
「もしそうだったとしても。私、姿を変えているんです。認識阻害魔法ってご存知ですか?髪色や目の色を変えることが出来る魔法です」
「ええ、知っているわ。それには事情があったんでしょう?だからあなたがそんな魔法を使わなくてはならなかった事情を説明すればいい。その時は私もそばにいる」
「そんな事されても。そんなの誰が信じるんです?きっと、もう無理です。誰も私の言う事なんか信じません」
母もきっとこんなふうに追い詰められたのではないかと思った。
どんなに違うと言ってもブガリア国の人間だから。魔法が使えるからと。
私は悔しさで唇をぐっと噛みしめた。
そんな私を悲しそうな目でヴェス様が見た。握られた手に力がこもった。
「諦めないで、必ず助けるから私を信じて欲しい。ディアナお願い」
ヴェス様がそう言った瞬間、私はお母様に呼ばれた気がした。
「誰か来るといけないからもう行くわ。でも、信じて必ず助けるから。ディアナ」
握られていた手が離されて冷たい空気が手の周りを覆う。ヴェス様は立ちあがると急いで去って行った。何度か振り返りながら。
私は一人取り残された牢の中でよたよた歩いてベッドの端に腰を下ろした。
ヴェス様に握られていた温もりがまだ残っていた。
彼女が言った言葉が耳の奥に残っていた。




