17殿下急変(ロイトン医師)
私は殿下の急変を聞いて殿下の元に駆けつけた。
目の前に広がったのは。
ベッドでのたうち回る殿下。顔を歪め唇が紫に変色にして息が出来ないのか喉元をかきむしっている。
「殿下!」
一瞬でこれは毒だと気づいた。
「急いでアナを呼べ!早く!」
護衛騎士が転がるように部屋から飛び出して行く。
「おい、昼食の後殿下は何か召し上がったか?」
私は護衛騎士に尋ねる。
「そう言えばオールデル公爵令嬢が飲み物をお持ちになられて、殿下は多分それを飲まれたのではないかと」
「誰も入れるなと言ったはずだ!何故いれた」
護衛騎士が気まずそうに言う。
「入ってはおられません。飲み物を預かっただけで」
「もういい。薬師にトコンと炭を持ってこさせろ!早く!」
トコンは吐き出させるための薬草。炭は毒を吸着させるためだ。
直ぐにアマンダが走ってきた。
「ロイトン先生、トコンと炭です」
「直ぐに薄めて飲ませる。急げ。アナはどうした?」
「アナは来ません」
「帰ったのか?だったら呼びに行かせろ!」
「先生はどうしてそこまで彼女を頼るのです?彼女は信用出来ません。さっきも王妃の診療記録を勝手に見ていました。だから私がここに来る事を止めました」
「お前に何の権限が?おい、直ぐにアナを連れて来い!殿下が死んでもいいのか!」
大声で護衛騎士に叫ぶ。
騎士は返事もそこそこに走って出て行った。
入れ替わりにユリウス様が入って来た。
「何があったんです!どうして殿下が!!」
「こんな状態になるのは毒以外考えられません。とにかくすぐに処置をしなくては」
「どうすればいい?」
その間に殿下に無理やりトコンと砕いた炭を薄めた液体を飲ませようとするが苦しさで暴れる殿下が液体を飲もうとしない。
「ユリウス様殿下を抑えて下さい!」
「わかった。殿下しっかりして下さい!」
ユリウス様が腕を抑え込むがそれさえも降り払われる。仕方なく彼は殿下の上に馬乗りになって殿下の腕を両手で押さえつけた。
「早く!それを殿下に飲ませろ!」
「はい」
口元に液体をいれようとするが殿下が激しく顔を振って飲まさられない。
「早くしろ!殿下が死んでもいいのか!」
「ロイトン、殿下の顔を押さえろ!」
「はい」
私は殿下の顔を両手でつかんで口を広げる。
「アマンダ、飲ませろ」
「でも」
「いいから早く!」
アマンダは覚悟したかのように小振りな水差しに入れた液体を殿下の口に流し込む。
「げほっ、がはっ」
殿下が喉をつまらせながら催吐剤を飲む。だが、もっとだ。
「もっと飲ませろ!毒を吐かせるんだ」
アマンダはやっと状況を理解したのか、今度は迷いなく殿下の口に液体を流し込む。
「ごほっ、ぐはっ、ごっ」
何度もむせながら液体を流し込む。
ユリウス様は殿下の腹の上から降りるが腕は押さえ込んだ。そのまま様子を見る。
暫くすると殿下が身体を折り曲げた。次の瞬間、殿下が嘔吐し始めた。
私は直ぐにその吐しゃ物を近くにあった掛布で受ける。
毒の特定をするためだ。
そこにアナが駆け込んできた。
「何があったんです!」
「アナ、毒だ。直ぐに治療を!」
「はい」
アナが殿下の前にたつ。殿下はまだ苦しそうに身体を折り曲げ息はたどたどしい。顔色は真っ青で血の気が全くない。
「先生、アナは危険です。殿下に近づけるべきでは…」
アマンダが叫んでいた。
「アマンダ下がってろ!アナ、いいから早く!」
ユリウス様がアマンダが邪魔しないようアマンダを止める。
アナが素早く殿下に駆け寄る。すぐに治癒魔法を促し彼女の手のひらから淡い光が浮かび殿下の身体を包み込んでいく。
苦しんでいた殿下の強張りが解けていく。歪んだ顔がゆっくりと穏やかに変わって行き乱れていた呼吸がゆっくり整って行く。
青白かった唇に緩やかに赤身が戻り先程までの苦しみがうそのように消えた。
「良かった」
私はほっと肩の力を抜く。
「ロイトン。催吐剤をもう一度飲ませろ」
ユリウス様がすぐに指示を出す。私はもう一度催吐剤を殿下に飲ませる。アマンダは驚いてそこに立ちすくんでいる。
落ち着きを取り戻した殿下のお腹がうごめくと殿下がガバリと起き上がってベッドの脇に顔を突き出した。
私はすかさず着ていた白衣を脱いで吐しゃ物を受ける。
「がはっ、ごぼっ」
橙色の液体。胃液のすえた匂い。そして何より悪意が見えた。
「これだけ吐きだせば恐らく大丈夫でしょう。とにかく良かった」
私はほっと息をついた。
「どうしてこんな事に?」
ユリウス様が信じれないとばかりに呟く。
だが、アマンダはそうではなかった。
アナはかなり魔力を使ったのかまだ息が乱れていて大きく息をしていた。
そんなアナの前にアマンダが立ちはだかる。
「アナさん!さっきのはなに?魔法?!あなた、魔力を持ってるの?平民なのに?ねぇ、あなた何物なの?ロイトン先生はアナの正体を知ってるの?ねえ、答えなさいよ!」
アマンダが驚愕の表情を浮かべてヒステリックに叫んだ。




