11シャロンと会う
私は廊下に出るとロイトン先生の後をついて歩いた。
「先生、やっぱり私には無理です。殿下の薬師として王宮に滞在するなんて無理です」
「アナ、すまない。無理を言ってる事はわかっている。でも、万が一また殿下に何かあったら。しばらくでいい。今ガイアスの周りを調べさせている。すぐにあの男の尻尾を掴む。だから頼む」
「そんな事言われたら断れません」
アルベルト殿下はこの国の唯一の次期国王。彼に何かあれば大変な事になる事は確かだ。
「ロイトン先生」
廊下の向こうから先生を呼ぶ声がした。
シャロンだった。
彼女は淡いピンク色のレースがたくさんついたドレスを着ていた。茶色い髪をカールさせて少し急ぎ足で近づいて来た。
「これはオールデル公爵令嬢。どうされました」
ロイトン先生は顔色一つ変えずに答えた。
「殿下の具合はどうです?私、夜も眠れないほど心配で‥」
少し目線を下げて悲し気な表情をする。
私はロイトン先生の後ろでその姿に吐き気を覚える。
眠れない?隈一つないですけど。それに肌もつやつやで健康そのものに見えます。
「それは申し訳ありません。殿下の婚約者ならばご心配も当然」
「殿下に合わせて頂けます?」
「いえ、殿下は感染の疑いがある病でして、万が一あなたに感染でもしたらそれこそ大変な事になります。今暫く御辛抱ください」
「私、殿下にと思って甘いタルトを作ってまいりましたの。殿下は甘いものがお好きでしょう?食欲がなくてもこういったものならばと。これを渡すだけでいいのです」
シャロンは手に小さな籠を持っていた。公爵家の調理人に朝から無理を言ったのだろう。
「お気遣いはわかりますが、今は決まった薬湯を飲んでいただいておりますので、もう少し回復されましたら面会も出来ると思いますので」
「まあ、そんなにお悪いのですか?だったらなおさら私が顔を見せれば殿下も喜ばれるかと」
「殿下も大切な婚約者に病を移したくはないはずです」
「もう!話の分からない人ね。これだけ言っても無理ですの?」
シャロンが歯ぎしりをしたせいで唇が右に歪む。
「申し訳ありません。もう少し回復を待たなければ今は無理です」
ロイトン先生はさっきより少し低い声で再度断りを言う。
シャロンが少し怯えたような顔をした。
「まあ、ロイトン先生ったらそんなに怒らなくても‥わかりましたわ。はぁ~、仕方がありませんね。では、殿下にシャロンが心配しているとお伝え下さいます?」
「はい、もちろんお伝えします」
「わかりましたわ。あら、そちらの方は?」
シャロンが私をちらりと見た。
「宮廷薬師です」
「薬師のアナです」
シャロンは興味はないとでも言いたげにすっと視線を反らした。
「そう、では、くれぐれも殿下の事頼みました」
シャロンはそこで扇をパチンと一度手のひらで叩いて見せた。
「はい、必ず」
ロイトン先生が頭を下げたので私もそれに倣って頭を下げた。
「では、失礼しますわ。そうだ。面会が出来るようになったら一番に私に知らせて頂けます?」
「はい、もちろん」
ロイトン先生が一度深くお辞儀をする。
「お願い」
シャロンはそれだけ言うとまるで興味が失せたとでも言うような顔をして、くるりと踵を返すと侍女を連れて応接室のある方に歩いて行った。
後ろについているのは公爵家にいた侍女のノイアだった。彼女の叔父が屋敷に入って来るとすぐにシャロンに媚を売った侍女だった。




