自覚と嫉妬
リアムは騎士団の寮でベッドに横たわった。
彼女が愛しい。俺も彼女のことが好きだ。
でも彼女は隣国の王子とーー、
髪をかき上げて目を瞑る。
昼間に孤児院で会った彼女を思い出した。
「...俺は彼女の前だと笑えるんだな」
どんなに俺の特別でも、彼女はヴィステジア王女だ。一介の騎士団員と結ばれることなんてあり得ない。
彼女のことは、諦めろーー。
リアムは心の中でそう言い聞かせた。
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「今日は隣国の王子をお招きして城でパーティーが開かれる。我が国の威信にかけて、参加者をお守りしろ」
騎士団長が言うと、騎士団本部に集まった団員たちが威勢よく返事をした。
今日はサラ王女が輿入れする予定の隣国の王子がやってくるのだ。ヴィステジア王国騎士団が護衛の任に就くことになった。
レイヴンが自身の武器である弓を準備しながら言う。
「はぁ〜、今日は夜中まで大変だな。俺の担当は城の北側の城壁か...リアムはパーティーが開かれるホール内の警備だろ?いいな〜」
「仕方がないだろ...それにレイヴンは弓を扱うし、遠距離に特化してるんだから、外の警備は任せたぞ」
「副団長様にそう言われたらしゃーない、お前も気をつけろよ」
そう言ってリアムとレイヴンはグータッチをして別れた。
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城のホールではワルツが流れ、華やかな装いの紳士淑女が優雅に踊っていた。正装した騎士団員たちは壁際の随所で立っている。
ワルツが終わり、会場が静まると隣国の第二王子とサラ王女が並んで会場に入ってきた。
「......ッ」
リアムは美しいサラを見て、心を奪われた。
「サラ様...お美しいわ」
「我が国の誇りね」
あちこちで王女のことを褒める声が聞こえた。
前に座るルイスに、隣国の王子が挨拶をする。
「カイル・バランドールです。よろしく」
握手を交わすと、カイルはサラの手をとって踊りはじめた。リアムは二人の様子を眺める。
ターンのたびにサラと目が合うような気がして、リアムは顔を背けたくなった。
ちょうどそのとき、貴族の令嬢たちがリアムに近づいてきた。
「リアム様...こんばんは。一曲お相手してくださらない?」
美しく着飾った若い娘たちがリアムを囲む。
「申し訳ありませんが、任務中ですので」
リアムが真顔で答えると、彼の塩対応に「ケチ!」と集まった令嬢は去っていった。
リアムはため息をついた。
自分が好きな女性が、目の前で他の男とダンスを踊っている。そんなことでさえ頭が焼き切れそうな思いだった。
ましてや結婚など、耐えられるのだろうかーー。
リアムが懐にある剣の柄に手をかけたとき、ホール内でガラスが割れる音と叫び声が上がった。
「キャアアアアア!マルヴォリオよ!!」
見るとホールの隅の窓ガラスが割れ、数体のマルヴォリオが人を襲っている。
マルヴォリオは狼のような風貌で、2メートルを超える体躯をしている。その鋭い爪は建物も切り裂くほどで、騎士団のように魔力を込めた攻撃をしなければ倒せないのだ。
混乱した人混みを掻き分け、リアムはマルヴォリオに向かって剣を振るう。
集結した騎士団が次々とマルヴォリオを倒す中、撃ち漏らした一体がホールの奥へと突き進んだ。
リアムが振り返ると、マルヴォリオが向かった先には避難を誘導するサラがいた。
「......っ!」リアムが走って彼女の元に向かう。
マルヴォリオが爪を振り上げたとき、リアムが咄嗟にサラを抱きしめて庇った。
背中に深い傷を負い血を流す彼の重みでサラは起き上がれず、何度もリアムの名を呼んだ。
「リアム様!!起きて!!そんな...嘘...」
彼の背中に触ったサラは自身の手が血まみれでパニックになっていた。
他の騎士団員が駆けつけ、マルヴォリオは討たれ消滅していった。
「副団長!しっかりしてください!」
騎士団員たちがリアムをサラの上から引き剥がし、応急処置をはじめる。
「...リアム様!リアム様!」
サラが目に涙を溜めて彼の名前を呼んだが、反応がないままだった。
「サラ、落ち着いて。向こうへ行こう」
隣国の王子、カイルがサラの手を引っ張ろうとするが、その手は振り払われた。
運ばれていくリアムに付き添うサラを見て、カイルは切ない表情で彼女を見つめていた。




