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絶対に笑わない騎士は元王女にデレデレです  作者: 海野豹香


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17/19

オレンジの縁


いつもの朝、騎士団本部へと向かうリアムを見送ったあと、サラは市場に買い物に来ていた。今日はリアムの帰りが遅くなると聞いているので、先にご飯を作って食べておこうと食材を買いに来たのだ。最近、彼がほとんどの家事をやってしまうので、料理を作るのが久しぶりに感じた。


「今日は久しぶりに私がご馳走を用意しなきゃ」


気合いを入れて歩いていたところ、よく見ると前を歩く商人らしき人の荷車からオレンジがひとつ、またひとつと転がってくる。荷台に穴が開いていたのだ。


サラはオレンジを拾い集めながら、大きな声で呼び止めた。


「あの!オレンジが...!」


歩みを止めた男が振り返り、焦った様子で散らばったオレンジを拾いはじめた。


サラが「これも...」と拾ったオレンジを差し出すと、男は顔を上げた。一瞬だが、長い前髪の下に隠れた大きな傷跡が見えた。片目がおそらく見えていないのか、落ちたオレンジを拾うのも一苦労の様子だった。


男はすぐさま前髪を直し、「...ありがとうございます」と小声で言った。


サラが笑顔で「大丈夫ですよ」と答えたとき、二人にむかって勢いよく小さな男の子が向かってきた。


「兄ちゃん!またやっちゃったのかよ〜!...手伝ってくださって、ありがとうございました」


行儀良くお辞儀をした男の子が、お礼にとオレンジをひとつサラに差し出した。


お礼を言って去っていく二人を見送り、サラはもらったオレンジの香りを嗅いでいた。 



----------



数日後、サラはリアムと共に市場に来ていた。今日はリアムが非番の日で、重たくて普段買えないものを買いに来たのだ。通行人がサラにぶつからないよう、リアムが彼女の肩を抱き寄せた。


「...?どうした」


あまりにもサラが見つめてくるので、リアムは不思議そうに尋ねた。


「...かっこいいなと思って」


サラがそう言うと、リアムは顔を真っ赤にした。


そのとき、市場に悲鳴が上がる。


「キャーッ!泥棒よ!」


その声にすかさず反応したリアムは、サラを道の端の安全な場所へ連れていくと、「ここを動かないでくれ」と言って悲鳴がした方へ走っていった。



一人残されたサラは、心配そうにリアムが向かった方向を見ていた。そのとき、少年が屋根を飛び越えて走るのを見つけた。見覚えがある。彼はーー、


屋根から飛び降りた少年は、ちょうどサラの目の前に着地した。


「あ!!」


目を合わせた二人は驚く。彼は先日、オレンジをくれた男の子だった。


「あなた......」


その手には小瓶が握られていた。


「お願い、見逃して!兄ちゃんの薬なん...」


そう言い終わぬうちに少年は首根っこを掴まれて、サラから引き剥がされた。リアムが走って戻ってきたのだ。


「リアム様!」


リアムが息を切らしながら少年に告げる。


「おい...俺の妻に何をしてる」


リアムのあまりの迫力に、少年はとうとう泣き出してしまった。



しばらくして落ち着いた少年が話し出した。


「...俺、兄ちゃんと王都の市場に野菜や果物を売りに来てて...いつも兄ちゃんは体が弱いから留守番なんだけど、今回はたくさん収穫したからって...一緒に来たんだ。でも、いつもの発作が起きちゃって...帰るに帰れなくなって、しばらく宿屋に泊まってるんだけど、金もなくなってきて...兄ちゃん昨晩からずっと寝込んでるんだ...」


話を聞いたリアムが、口を開く。


「...お前、名前は?」


「...ペイジ」


「ペイジか。兄さんのこと、大変だったな。...でも、盗みはダメだ。薬屋に一緒に謝りに行こう」


リアムはペイジの姿を過去の自分と重ねていた。ボロボロの衣服のペイジは、リアムが孤児院を転々としていたあのときと同じ年頃だろうか。


リアムはサラに家に帰って休むように言ったが、サラがペイジを心配して一緒に行くときかないので、三人で市場にある薬屋を訪れる。


「......ごめんなさい」


ペイジが盗んだ薬を返すと、薬屋の主人はやれやれといった顔をして言った。


「騎士団のリアム様に免じて!今回だけだよ!」


リアムが横から主人に言う。


「...この薬、ひとつもらおう」


そう言って代金を渡すと、返した小瓶をペイジに手渡した。


「ありがとう!リアム様!」


ペイジは暗かった顔が一気に明るくなり、宿屋まで走っていった。


「リアム様...」


サラがリアムの手を握り、満面の笑みで彼を見た。

リアムも少し安堵したような、すっきりした顔でサラを抱き寄せる。


「...よかった、な」


「はい、ペイジとお兄さんが元気にお家に帰れるといいですね。あ、実は先日食べたオレンジは、ペイジからもらったものだったんですよ」


「ああ、前に話してた...そうだったのか」


「リアム様はやっぱりお優しいです。この子も、リアム様のように優しい子に育ってほしい...」


サラが笑顔でそう言うと、リアムは少し照れたように微笑んだ。








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