彼の過去
リアムとサラが結婚してから幾許かの月日が流れた。今、サラのお腹の中ではリアムとの新たな命が宿っている。
リアムは結婚後も相変わらず女性に言い寄られているが、「絶対に笑わない男」はバッサリと冷たい態度で断るまでが定番の流れだった。
今日も騎士団本部で鍛錬後に貴族の令嬢から告白をされていた。
「...あの...私、ずっとリアム様が好きで...」
リアムが「気持ちには応えられません」と冷たい目で答えると、目に涙を溜めた令嬢が走り去る。
リアムの後ろからレイヴンが現れて言った。
「あちゃ〜またひとり可哀想に...」
リアムが少しイラついた顔で言う。
「お前...盗み見かよ...ハァ、俺が既婚者だと知りながら告白してくるなんてどういう神経なんだ...」
「そりゃあ、ガチでお前に惚れちゃってるんだよ。顔もよくて?体格もよくて?騎士団副団長で将来有望!既婚者だろうと恋しちゃうだろ」
「いやダメだろ」
リアムの冷たいツッコミをよそに、レイヴンはリアムと肩を組んだ。
「まさかリアムが父親になるなんてな〜、奥さんは大丈夫か?」
「ああ。悪阻がひどくてしんどそうだったが、最近はは少しマシになったみたいだ」
「そうか...ここ最近リアムも大変そうだったもんな。早退して奥さんの看病したり...まあ順調そうで何よりだな。早く帰って安心させてやれよー」
「ああ、ありがとな」
そうしてレイヴンと別れ騎士団本部を後にしたリアムは、市場で食材を買い、家に帰る。
「ただいま」
「おかえりなさい」
部屋の奥からサラが現れた。リアムはサラを抱き寄せると彼女のおでこにキスをする。
「今日もお疲れ様でした」
サラがリアムのマントを畳もうと手をかけるが、「座っててくれ」と彼に連れられ椅子の上に座る。ここのところ、毎日この調子だ。悪阻が少し軽くなって動けるようになったというのに、リアムは騎士団の仕事から帰ると手際よく家事をこなしていく。
「今日はフェリーチェ孤児院に行ってきたんだろ?大丈夫だったか?」
リアムが夕食の支度をしながら尋ねた。サラが笑顔で答える。
「はい、マザーや子どもたちに久しぶりに会えました!みんなすごく元気そうで...マシューとリリーが赤ちゃんにってこれをくれたんです」
サラは嬉しそうに黄色い靴下を差し出した。
「そうか」リアムが優しく靴下を見つめ、サラのお腹に手を当てる。
「ふふ...それからルイス兄様も近いうちに顔を見せに来いと言っていました」
「そうだな。俺もルイスに会うたびにサラのことを聞かれる。すごく心配しているからな」
二人は笑い合ってサラのお腹を撫でた。
「まさか俺がこんな幸せになれるとは...ありがとう、サラ」
「突然どうしたんですか、リアム様が私を幸せにしてくれてるんですよ...」
リアムは幼い頃、孤児院を転々としたつらい記憶が蘇る。魔力の力加減ができず、周りの人たちを傷つけてしまった記憶ーー。
「リアム様」
サラが心配そうにリアムの顔を覗き込んだ。
「...すまない、大丈夫だ」
リアムは気を取り直して夕飯の支度をしはじめた。サラはいつもと様子が違った彼のことを見つめる。
「リアム様は以前より笑ってくれることが増えたけど、きっとまだ過去の傷は癒えていないんだわ...」
サラは心の中でリアムから聞いた過去の話を思い出していた。何事もなかったかのように振る舞うリアムのことを心配しつつ、その日も二人で穏やかな夕食の時間を過ごした。




