離れていても
ある日の昼下がり。
ヴィステジア王国の国王であるルイスは、騎士団の団長と副団長を城に呼び出した。
和平条約の更新のため隣国、バランドールへ向かうことになり、騎士団の精鋭たちが護衛として随行することになった。
「では、明日からよろしく頼む」
「かしこまりました、陛下」
団長とリアムは深々と頭を下げ、部屋を出ようとした。
「副団長、ちょっと」
ルイスがリアムを呼び止めた。
二人きりの部屋でルイスの顔が緩む。
「義弟よ、サラとはどうだ?上手くやってるか?」
「...元気だ。二人の暮らしにも慣れてきたようで、昼間は孤児院で働きはじめた」
「そうなのか...よかった。くれぐれもあいつのこと、頼んだぞ」
「もちろん、俺が全力で守る」
「でも...こんな新婚ラブラブ真っ只中のときに悪いな、明日から二人を二週間も引き裂くなんて」
明日からルイスとリアム率いる騎士団のメンバーは、バランドールに二週間滞在する予定だ。王立騎士団副団長のリアムが護衛の指揮をとる。
「...仕事だからな」
リアムが渋々答えると、ルイスがイタズラっぽく笑う。
「あんなに仕事人間だったリアムがこんな風になるなんてな...サラにも悪いな。でもお前と幸せでいるのなら兄としてはうれしい限りだ。じゃあ、明日からよろしくな」
「ああ」
リアムがマントを翻し広間から出て行く。
ルイスは彼の後ろ姿を見送りながら、サラのことを思い出していた。幼い頃から兄である自分が守らねばと思っていた妹が、今は頼れる友のような存在のもとで幸せに暮らしている。
「もう大丈夫だな...」
ルイスは大きくため息をついて、それからひとり微笑んだ。
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「明日から二週間、家を空ける」
騎士団本部から帰宅したルイスはサラに伝えた。
「二週間......わかりました。ご無事でお戻りくださいね」
サラがルイスをギュッと抱きしめる。今まで騎士団の仕事で二、三日不在のことはあったが、二週間という長さは初めてだった。
「そうそう、ルイスが心配していたぞ。君が家のことも孤児院での仕事も頑張っていることを伝えておいた」
「ふふ...ルイス兄様は昔から私のことになると心配症なんです」
「......俺もだ」
「え?」
「俺も、二週間も君にこうして触れられないのがつらい。俺がいない間に何かあったら...」
「大丈夫です。私にはこれがありますし」
サラは左手の薬指に光るサファイアの指輪を見せた。二人の気持ちが通じ合った王城の中庭の花々のような可愛いらしい花のモチーフがあしらわれた指輪。
実はリアムはこの指輪に自身の魔力を込め、サラの身に危険が及んだ際に防護魔法が発動するようにしておいたのだ。
「...肌身離さずつけておくんだぞ」
サラの左手を取り、薬指にキスをする。
「はい。いってらっしゃい、あなた」
サラは照れながらも嬉しそうに返事をした。
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その夜、自身の腕の中で穏やかに寝息をたてるサラの髪を、リアムがやさしく撫でる。
今までは騎士団の仕事で長らく寮に戻らないことなどしょっちゅうあったのに、こんなにも離れがたくなるとは。
リアムはサラの寝顔を見つめて、「明日から大丈夫か...俺」と小声で呟いた。
翌朝、サラが目覚めるとリアムはすでに出立していた。昨晩リアムから、夜が明ける前に出るから見送りはしなくていいと言われていたのだ。
「...いってらっしゃい」
誰もいない部屋でサラは小さく呟く。
まだ眠い目をこすりながら、顔を洗おうと洗面台に向かった。
すると自分の首筋に赤いあざのようなものがあるのを見つけ、サラは一気に目が覚める。
「...これって...リアム様が...」
昨晩リアムがサラにつけたキスマークだった。
「もう...今日は孤児院で子どもたちと会うのに...」
困った顔をしながらも、サラはリアムがつけた印を手でなぞった。
「...大好きです、リアム様」
サラは首元が隠れる服を探して身支度をはじめたのだった。




