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深層の滓(しんそうのおり)  作者: 麗 未生(うるう みお)
第一章 錯綜(さくそう)

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錯綜3-2-④:明星学園に転校!!

アメリカでは、近所の家で夕食を囲むことも多く、赴任当初から家にはメイドがいた。時にはそのメイドと一緒に食事をすることもあったため、一人の時間は意外と少なかった。明度と言うより、良き相談相手か友達のような感覚でもあった。


 こちらに帰って来たときに、父が家政婦を探していたが、寧々がそれは必要ないと言った。アメリカのように友達感覚になれるようなメイドはこちらにはいないような気がしたのもある。それに寧々ももう高校生である。父が殆ど家にいないため家事をするにしても、大方寧々の分だけである。アメリカのようにホームパーティーをすることもないだろう。一人暮らしとさほど変わらない生活に家政婦が必要とは思えなかった。


 明星学園の偏差値は想像以上に高かったが、なんとかなると思った。途中編入の例は稀だったが、受け入れ自体は可能らしい。寧々は自分で願書を取り寄せ、試験要項を読み込み、手続きを進めた。できれば新学期のタイミングで転入したかったが、父との会話の機会が取れず、結局は一学期の途中からの転入となった。


 アメリカ在住時には、日本の高校教育と同等のレベルを維持するために家庭教師を付けられていた。そのおかげで、編入試験は思ったよりも難しくなかった。それもいつ日本に帰ることになるか分からないから、父は不器用なりに、ちゃんと寧々の将来を考えてくれている。そう思えたことが、唯一の救いだった。


 登校初日。寧々は新しい制服に袖を通し、気持ちを奮い立たせた。父は「時間が取れれば一緒に挨拶に行く」と言っていたが、起きて部屋を出た時には、リビングにすでにその姿はなかった。テーブルの上に、短く一言。


「仕事が抜けられなくなった。申し訳ない」


 書き置きが置かれていた。


(仕事だから仕方ない)


寧々は、そう自分に言い聞かせた。元々期待なんてしていなかった、それでも今日のリビングはやけにガランとしているように感じた。


 明星学園の正門をくぐった瞬間、寧々はこの高校が前に通っていた公立高校とは、全然違う、という空気を感じた。生徒の自主性を尊重する校風と書かれてはあったが、どこかピリッとした規律が感じられる。伝統と進取の精神が共存している、職員室に入り、学園長と話した時にそんな印象を受けた。


 寧々は「目的がある」からこの学校に来た。学校の雰囲気など二の次のつもりだったが、それを差し引いても、この学校を選んだのは間違いではなかったと思えた。何より、生徒たちの表情が明るく、前にいた高校の生徒たちよりずっと生き生きとしていた。


 職員室で、彼女はこれから編入するクラスの学級委員帳を紹介された。顔を見た瞬間、心臓が小さく跳ねた。


(お母さん……に似てる?)


 そう感じた。


「深見です」

「紫園寧々。去年までアメリカにいたから、日本の学校のことはよく知らないの。よろしくね」


そう言って握手を求めるように手を差し出したが、彼女は、軽く頭を下げただけだった。どこか取っつきにくい印象。


 寧々はまず、優斗から聞いた「佐藤和」という生徒を探した。だが、「佐藤」と言う姓の同級生はいたが、1人は男子で1人は名前が違っていた。


(おかしい……確かに優斗は“佐藤和”って言ってた。もう退学したとか?)


だが面接の際、校長は「創立以来、退学者は一人もいない」と語っていた。でもしばらくしたら、委員長の深見が「和」と否であることが分かった。苗字は違うが、「和」を「まどか」と読む名はそう多くはないような気がした。


 そして“インテリ女史”、“ガリ勉タイプ”といった優斗の言葉が、彼女の姿にぴたりと当てはまった。


(やっぱり……彼女が、佐藤和)


苗字が違うのは、きっと何らかの事情がある。母親が亡くなったと優斗も言っていたから、どこかに養子に出されたという可能性は大いにある。


(まさか、同じクラスになるなんて)


これはもう、運命が引き合わせてくれたとしか思えなかった。


 寧々はクラスにもすぐに馴染んだ。アメリカ生活が長かったせいか、人見知りは全くない。けれど、深見和はいつも一人。誰とも群れず、近寄りがたい雰囲気を漂わせていた。話しかけても余分なことは一切言わない。取り付く島がない、と言った感じだ。


(どうやったら仲良くなれるかな?)


本音は山下岳のことを知りたいだけだが、殺された男のことをいきなり聞いても警戒されるだけだ。まずは親しくなることが先決だと思われた。


 寧々は、電車通学をしているのだが何度か同じ電車で和を見たことがある。ということは同じ方面に帰っているということである。ただ、寧々が降りる駅では、和はまだ乗ったままだった。しかし、不思議なことに、朝は一度も会ったことがなかった。


 他の生徒に聞くと、和はいつも一番乗りで教室に来ているとのことだった。そこで寧々は、翌日、一本早い電車に乗ってみた。だが和はいなかった。さらに次の日は、もっと早い電車に。……それでも、いなかった。そして三日目の朝。


(いた!)

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