混沌2-2-⑦:家族という形の中で
「和って、叔父さん達と暮らし始めたの、中学からなんでしょう」
「うん、そうだよ」
「気を遣ったりしないの?」
寧々は少し言い淀みながら続ける。
「そりゃ、全く無いわけじゃないけど。でも、そんなに気にした事はないかな」
和は肩の力を抜いた様子で答える。
「そうなんだ」
寧々は頷くが、その答えがどこか遠く感じられる。
「どうしてそんな事聞くの?」
和が問い返す。
「うち、お父さんが忙しくて、今まで殆ど一人でご飯を食べていたんだけど、最近、たまに早く帰ってきて、一緒に食べるようになったの」
「良かったじゃない」
「うーん、そうなんだけど……ずっと一人に慣れていたから、何を話せば良いのか分からなくて、気付いたら無言になっている事も多いから」
「無言って、食べている間ずっと?」
和が少し驚いたように聞く。
「うん。すごく落ち着かなくて、つい急いで食べてしまう」
寧々は苦笑する。
「それじゃ、せっかく一緒に食べている意味がないね」
和はあっさりと言う。
「そうなの。ねえ、どうしたら良いと思う?」
寧々は少し前のめりになる。
「どうしたらって言われてもね……私、そういう事を改めて考えた事がないし。でも、普通で良いんじゃないの。変に気を遣わなくても、親子なんだし」
「そう、だね」
――本当の親子じゃない。
心の中で、そう言葉が返る。和は叔母と血が繋がっている。だからこそ、言葉にしなくても通じる部分があるのだろうと寧々は思う。それに比べて、自分と父は違う。本当は赤の他人なのだという感覚が、ふとした瞬間に顔を出す。普通ではない関係の中で、普通を求めても、それがどんなものなのか分からない。二人を繋いでいた筈の母は、もういない。
「お母さんが生きていたらって、思う事ある?」
寧々は少し間を置いてから尋ねた。和はその問いに、僅かに眉を寄せる。その反応は、寧々が予想していたものとはどこか違っていた。とても不快そうに見えた。
「あなたはあるの?」
和が静かに問い返す。
「あるよ。勿論。お母さんが生きていたら、今とはきっと違っていたと思うし……お父さんも」
寧々は言葉を探しながら続ける。父はもっと笑っていたのではないか、そんな思いが頭を過る。
「私は……思わないわ」
和は淡々と答えた。
「どうして?」
寧々は思わず聞き返す。
「お母さんは、変わってしまったから」
その言葉には感情の起伏がほとんどなかった。
「変わってしまったって、どういう事?」
寧々はさらに問いを重ねる。
「色々あったのよ……」
和はそれ以上語ろうとしない。その言い方に、踏み込んではいけない線が引かれたように感じられる。和は母親を恨んでいるのだろうか。それとも、別の感情なのか。寧々には判断がつかない。
「昔の事は、あまり考えないようにしているの」
付け足すようにそう言った和の表情は、まるでそれ以上踏み込ませまいとする壁のように固く閉ざされていた。寧々は和の過去について、凡そ把握している。断片的に聞いた話や、山下岳という人物の存在を繋ぎ合わせた推測に過ぎない部分もあるが、それでも何があったのかは想像出来てしまう。だから、寧々が想像していることが、もし現実に起こったのなら、和の抱く感情が理解できないでもない。
だが、その内容を言葉にする事は出来ない。それが和にとって、誰にも触れられたくない領域である事は十分に分かっているからだ。
「紫園さんのお母さんと妹さんは、どうして亡くなったの?病気?それとも事故?」
不意に、和がそう尋ねてきた。寧々はすぐには答えず、視線を落としたまま考える。嘘を吐こうと思えばいくらでも誤魔化せる質問だった。だが、この場でそれを選ぶ事に、どこか抵抗があった。
和の過去については知っているのに、自分だけが何も語らないままでいる事に、僅かな後ろめたさを覚える。それに、ある程度の事を話さなければ、寧々がここに来た意味も果たせないのではないかという思いが頭を過る。
「事故……じゃないかな。二人とも、殺されたんだ……」
寧々は静かに言った。和は驚いたように目を見開き、寧々の顔を凝視する。寧々は視線を逸らさず、そのまま受け止めた。
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