混沌2-1-②:家族の罪と向き合う二人の告白
「あの時は……吃驚した」
浩太は少し考えてから、率直にそう答えた。和の真意を探るように、ゆっくりと言葉を選びながら。
「え?」
今度は和が驚いたように浩太を見返した。和はこんな質問に浩太が真面目に答えてくれるとは思っていなかったのだ。もしかしたら怒り出すかもしれないとも覚悟していた。しかし浩太の表情には怒りはない。ただ、少し困ったような色だけが浮かんでいた。
「そう答えると、なんかそれだけ?って思われそうだけど。本当に吃驚したんだ。あの時は、それだけでいっぱいいっぱいだった」
浩太は少し遠くを見るような目になりながら言った。
「まだ小学生だったしね。それに母親が死んだ後、しばらくは祖父母が俺達を預かってくれていたんだ。だから、まさかその祖父母が母親を殺した罪で捕まるなんて……想定外って言うか、有り得ないって感じでさ。もう、何が起こっているのか分からなかった」
浩太は当時の混乱を思い出すように言葉を続ける。あの頃の記憶は、今でもどこか現実味を欠いている。まるで他人の出来事を遠くから見ているような、そんな感覚が残っていた。
「そう……そうだよね。私の場合とは全然違うよね」
和は静かに頷いた。自分の話と浩太の経験を比べる事自体が間違っているような気がしていた。
「深見さんだって吃驚したんだろう。いくらずっと会っていなくても、父親が……その」
浩太は言葉を探すように口籠る。どう表現して良いのか分からなかった。
「うーん、吃驚してないって訳じゃないけど」
和は少し考えるように視線を上げた。
「なんで?って感じかな」
「なんで?」
浩太は首を傾げる。
「うん。なんでまた、って」
「また?」
「あ……うん」
和は僅かに苦笑した。
「恥ずかしい話だけど、あの人、母と離婚した後に傷害事件を起こして一度捕まっているの。だから……」
そこまで言って和は言葉を止めた。話を聞きながら浩太は、和がどうやら作り話をしている訳では無さそうだと思い始めていた。最初は冗談か試されているのかとも思ったが、今の和の表情にはそんな気配はない。淡々としているが、嘘をついている様子でもなかった。
「そうなんだ……」
浩太は小さく頷く。
「でも別に、深見さんが恥ずかしいと思う必要はないよ。親が何をしたって子供には関係ないんだから」
浩太はそう言ってから、少し苦笑した。
「……なんて言ってもさ。俺だって、そんな風に簡単には思えなかったけどね」
浩太の声には、僅かな苦味が混じっていた。
「現に事件当時は、人殺しの孫ってよく言われたし」
「あ……」
和は思わず声を漏らす。浩太とは通っていた学校が違う。だから当時の浩太の状況を和は殆ど知らない。浩太の家で起きた事件の事も、和が知ったのは随分後の事だった。
母親が殺された事件。それだけでも衝撃的なのに、犯人として捕まったのが祖母だった。世間が騒がない訳がない。寧ろ母親が被害者だったからこそ、余計に世間の注目を浴びたのかもしれないと和は思った。
人は自分と無関係な出来事に対して、驚くほど冷酷になれる。遠くから見ているだけだから、好き勝手な言葉を投げる事が出来るのだ。
「でも俺、信じていないから」
浩太は突然そう言った。
「信じてないって?」
和は顔を上げる。
「ばあちゃんが母さんを殺したなんてさ」
浩太の声は静かだったが、その言葉には確かな意志があった。
「殺ったのは、他の人間だって思っている」
「そうなの?じゃあ、おばあさんが捕まったのは間違いって事?」
「間違いに決まっている」
浩太は迷いなく言った。
「身内だからそう思う訳じゃないよ。……あ、でも違うかな。身内だから分かるんだ。ばあちゃんが母さんを殺す筈がないって」
浩太は少し苦笑した。
「でもさ、そんな事言っても誰も信じないよね。身内はそう思いたがるって言われるだけだから。だから、言ってもしょうがないって思ってた」
和は浩太の顔を見つめながら尋ねた。
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