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深層の滓(しんそうのおり)  作者: 麗 未生(うるう みお)
第四章 混沌(こんとん)

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混沌1-3-②:揺れる鳴海―残された疑問と依智伽への懸念

 岡野は依智伽と何度も会っていた。あの子の口から、梗子がどんな母親なのか、色々と聞かされていたのかもしれない。だからいない方がいいと考えた。


 否、違う。確か依智伽は、母親の事はあまり語らなかったと言っていたはずだ。鳴海はその言葉を思い出す。岡野に対して依智伽は母親に関することは言葉を濁すような様子さえあったと。だから想像はできても、実際にどんな扱いをされていたのかは実際のところは知らないはずだ。その岡野が梗子を殺そうなどと思い立ったというのは、どこか腑に落ちない。


 一体、どういう経緯で岡野は梗子殺しの罪で逮捕されたのだろう。逮捕に至ったという事は、警察が無視出来ない何らかの証拠があったはずだ。だが、それは何なのか。決定的な証拠なのか、それとも状況証拠の積み重ねなのか。やはり理解出来ない。


 鳴海は桃香の携帯に電話を掛けてみた。だが呼び出し音が続くだけで、桃香は出ない。画面を見つめながら、鳴海は小さく息を吐く。きっとまだ仕事中なのだろう。手が空けば、折り返してくるに違いない。それを待つしかない。


 彼女は岡野の逮捕を知っていたのだろうか。担当している事件ではないのなら、知らなかった可能性もある。検事といえども、全ての事件を把握出来るわけではない。それに、桃香には桃香で担当している事件が山ほどあるはずだ。


 他の出来事ばかりに関わっているわけにはいかないだろう。それでも、桃香に聞けば何か分かる可能性は高い。調べる事にしても、人に話を聞くにしても、彼女の立場なら一般人よりは遥かに早い。鳴海はそう思った。ただいくら鳴海が岡野のことを知ってても、細部まで話してくれるかというと微妙だ。事件のことを部外者に話すことは難しいであろう。


 職業倫理、守秘義務、桃花にしても鳴海にしても色々と制約はある。


 依智伽は今、どうしているだろう。鳴海はふとその事が気になった。あの子はこのニュースを見ただろうか。依智伽は岡野に、「おじさんは私のお父さんなの?」と尋ねていたという話を聞いた事がある。もしそれが本当なら、あの子の胸の中には、岡野に対して複雑な感情があったはずだ。その男・父親が、母親を殺した容疑で逮捕された。そんなニュースを見て、依智伽は一体どう思っただろうか。


 普通の子供なら、相当動揺するはずだ。恐怖や混乱で泣き出してもおかしくない。だが依智伽に関しては、鳴海には想像出来なかった。あの子が取り乱す姿が、どうしても思い浮かばないのだ。


 依智伽は、あまり感情を表に出さない子供だった。喋り方も、態度も、どこか不自然なほど大人びている。あの年齢の子供特有の無邪気さが、殆ど感じられなかった。それは間違いなく、梗子の影響だろう。

鳴海はずっとそう思っている。


 梗子の依智伽に対する扱いは、ネグレクトに等しかった。但し、完全な放置ではない。梗子は家に帰らないわけではないし、食事や生活の最低限は与えている。その中途半端さこそが、梗子の狡猾なところだった。  


 周囲から責められない程度には面倒を見る。そうしていれば、表向きは「普通の母親」に見える。少なくとも、露骨に非難される事はない。梗子はその計算をしていたのだろう。 


 そして依智伽もまた、あの環境の中で生きる術を覚えていった。親に甘える事は出来ない。では、どうすればひもじくない生活が出来るのか。どうすれば大人の機嫌を損ねずに済むのか。そんな事を考えながら、依智伽は日々を過ごしていたのだ。本来なら、まだ甘えてもいい年齢だ。それなのに、あの子は既に大人の顔色を読む事を覚えていた。


 鳴海はその事を思うたび、胸の奥に重たい感情が湧いてくる。あの子供らしくない落ち着きは、生まれつきの性格ではない。あの生活が、あの環境が、依智伽をあんな風にしてしまったのだと、そう思わなくもない。ただ、生まれ持っていた性質が、環境によって引き出されることも少なくない。


 依智伽の本質は――。

お読みいただきありがとうございます。

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