表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
深層の滓(しんそうのおり)  作者: 麗 未生(うるう みお)
第四章 混沌(こんとん)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

370/409

混沌1-3-①:容疑者ー拭えぬ違和感の行方

(どういう事……?)


 テレビのニュースを見ていた鳴海は、思わず耳を疑った。岡野保人が逮捕された。しかも、三芳梗子殺害容疑だという。画面に映る名前とその顔写真。


 鳴海は、実際に会った岡野の顔を思い浮かべた。気が弱そうで、どこか神経質な印象はあったが、真面目そうな男に見えた。過去に傷害事件を起こした人物だとは、とても想像も出来なかった。ましてや殺人など、結び付かない。


 鳴海が岡野と会ったのは、梗子の事件の後である。もし報道が事実で、岡野が梗子を殺したのだとすれば、鳴海と対面した時点で既に人を殺していた事になる。


 確かに、何かを隠しているのではないかと感じた瞬間はあった。視線が泳ぐこともあったし、言葉を選ぶ間もあった。それでも、殺人を犯した男の空気には思えなかった。少なくとも鳴海の直感は、そこまでの凶気を感じ取ってはいない。


 鳴海は、岡野と会った日の記憶を辿る。梗子が亡くなった件を話題に出した時、岡野は僅かに落ち着きを失っていた。指先が微かに震えていたようにも思う。だが、かつて関わりのあった女性が殺されたと聞けば、動揺するのは自然とも言える。


 思い返せば、他の話の時はほぼ狼狽気味だった岡野が、梗子に関する質問には比較的はっきりと答えていた。もう関わりたくないと言い切っていた。依智伽に対して母親らしい事を何一つしない酷い女だとも口にした。


 「どう思いましたか」と、梗子が殺された事への感想を尋ねた時、岡野は一瞬黙り込んだ後でこう言った。


「自業自得だと思います」


 更に続けて、


「あれが、彼女の運命だったんでしょう」


淡々とした口調だった。その言葉を口にした時の表情が、鳴海の脳裏に蘇る。冷たいとまでは言えないが、同情の色は薄かった。人に殺される運命とは、どういう意味なのか。梗子もまた誰かを殺したという含意だったのか。岡野は、梗子の身辺で起きた別の殺人――浩太の母親が殺害された事件について、何かを知っていたのか。


 尤も、それは鳴海の受けた印象に過ぎない。実際、その事件の犯人は既に逮捕されている。公式見解は出ているのだ。岡野も敢えてその点には踏み込まなかった。鳴海も、深くは追及しなかった。でも岡野がそれを知っているという事は、出所してから梗子と何らかの接触していないと無理なのではないか。


 岡野は梗子とは直接会ってはいないと言ってた。もし岡野が本当に梗子を殺したのだとしたら、動機は何か。依智伽へのネグレクト。もしくは昔の恨み。梗子のせいで家庭を壊した。梗子のせいで前科者になった。でも、それは逆恨みだ。そういうことを根に持ちそうなタイプにも見えなかった。


 確かに岡野は依智伽の事を気に掛け、その将来を案じている様子だではあったが、それが梗子への殺意に代わるとは到底思えない。梗子を殺したところで、依智伽の境遇が好転する保証はない。母親を失えば、依智伽は孤児同然だ。常識的に考えれば、その方が心配ではないか。否、梗子のような母親ならいない方が依智伽のためと岡野が思ったとしたら……そこまで考えて鳴海は首を横に振る。


 岡野は新しい職に就き、生活を立て直していると話していた。漸く再出発した男が、今更過去への怨恨だけで全てを投げ打つだろうか。感情だけで動いてしまった?何だか釈然としない。


 画面の中では、事件の経緯が繰り返し報じられている。鳴海はリモコンを握り締めたまま、思考の渦から抜け出せずにいた。事実と印象が噛み合わない。理屈と直感が乖離している。岡野は本当に犯人なのか。それとも、何か別の事情があるのか。鳴海の胸に、拭い切れない違和感が静かに広がっていった。

お読みいただきありがとうございます。

リアクション・評価・ブックマーク&感想コメントなど頂けましたら大変励みになります。

今後ともよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ