表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
深層の滓(しんそうのおり)  作者: 麗 未生(うるう みお)
第三章 陰影(いんえい)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

293/405

陰影2-1-⑦:梗子の動機と不意の質問

「そんなの、しょうがないよ。おじいちゃんはただ、おばあちゃんを助けたかっただけなんだ。僕だって……おじいちゃんと同じ立場なら、きっと同じことをしていた」


桃香はしばらく二人の様子を見守ってから、静かに口を開いた。


「浩太さんは、お母様を殺したのがおばあ様ではないと考えていた。では、その場合……本当の犯人は誰だと思っていたのですか?」

「……検事さんは、もう分かっているんでしょう?」


桃香は浩太の口から三芳梗子の名を引き出そうとしている。浩太はそう感じた。逃げても意味がないと悟り、重く息をつきながら答えた。


「三芳……梗子さん、です」

「どうしてそう思われました?」

「検事さんも、理由はもうご存じなんじゃないんですか?梗子さんの名前を口にされた時点で……」

「いいえ。浩太さんがどう感じ、どう考えてそう思うようになったのか。そこを知りたいのです。何故、三芳梗子さんを疑ったのか。それを、あなたの言葉で教えてください」


浩太はしばらく唇を結んでいたが、やがて決意したように言葉を紡ぐ。


「……梗子さんは、僕の父が好きだったんです。だから、母が邪魔だった。母さえいなくなれば、父と一緒になれると思った……そう考えました」


こうして言葉にしてみると、あまりにも簡単であまりにもありきたりな殺人動機だ。よくある陳腐な三角関係。本当にただそれだけ、だったのだろうか、と浩太の胸に改めて疑問が湧いた。


「お母様が亡くなった直後に、すぐそう考えたのですか?」


桃香の問いに、浩太は力なく首を振った。


「すぐじゃありません。母が亡くなってから、梗子さんが急に家に来る回数が増えて……。最初はただ気遣ってくれているのかと思ったんです。でも、違和感があった。母の友達だったのに……少しも悲しそうじゃなかった。むしろ……どこか嬉しそうで」


桃香は小さく頷いた。


「つまり、梗子さんの振る舞いを見ているうちに、徐々にそう考えるようになった。そういうことですね」

「……はい」

「分かりました。不躾な質問が多く、失礼いたしました」


桃香は一度深く頭を下げ、続けた。


「ところで……お父様はどうお考えだったのでしょうか。本当は、お父様からも直接お話を伺いたかったのですが、今日はお帰りが遅いとのことで」


浩太は少し困ったように息を吐いた。


「父は、人を疑うことが苦手なんです。梗子さんのことも“いい人だ”って信じ込んでいました。だから……父に聞いても何も分からないと思います。父はいつも、目の前で起こったことをそのまま受け止めてしまう人だから」


そう、だから父は梗子の裏の顔には気づいていない。そして母の裏側にも。でもそれが長所でもあり、父の強さなのでもあると今は思っている。


「そうですか……。では、今日はここまでにしておきましょう」


桃香は席を立った。


「あ、あの!」


浩太が慌てて声を上げる。


「それで……おばあちゃんの、祖母の濡れ衣は……晴らしてもらえるんですか?」


桃香は一瞬だけ目を伏せ、そののち、誠実な声音で答えた。


「再審となると……正直、容易ではありません。まして、被疑者も、容疑者かもしれない人物も、すでに亡くなっていますし」

「それじゃ……」

「……ですが、できる限りのことはしたいと思います。私は司法に携わる者の一人です。もし誤りがあったのなら、正すべきです。時間はかかるかもしれませんが……必ず、動いてみます。ただ、申し訳ありませんが、真実が白日の下にさらされる日が来るという約束はできないです。私が動いたところでどうにかなるような壁ではない、それが現実です」


そう言い残し、桃香は玄関へ向かった。浩太たちも立ち上がり、その後を追う。居間を出ると、階段のところにはまだ舞奈が座っていた。ずっとこちらの様子を窺っていたのだろう。玄関を出ようとする桃花の背に視線を送る。


 桃香が玄関の扉に手をかけ、扉を半分開けた状態で、ふと何かを思い出したかのように振り返り、再び口を開いた。


「ところで……浩太さんは明星学園だと伺いましたが、同級生に“紫園寧々”さんという子は、いませんか?」


突然の質問に、浩太は思わず瞬きをした。

お読みいただきありがとうございます。

いいね・評価・ブックマーク&感想コメントなど頂けましたら大変励みになります。

今後ともよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ