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運命なんてお断り ~薔薇の瞳の魔道具師、虚弱体質の魔法使いを拾う  作者: 錫乃


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【51】夜更けの訪問者(4)

アルくんのセリフ部分をちょっと加筆しました。


「この旅が終わっても、僕はメルの傍に居たい。

そう言ったら、ローゼスさんはもうこれ以上彼女に近付くなと仰いますか?」


アルフレッドの視線を真正面から受け止め、ローゼスは逆に問いかけた。


「それはメイベルの能力が殿下の体調の安定のために有用だからですか?」

「…………僕がメルを利用するためだけに側に置こうとしているとでも?」


一瞬、アルフレッドの青い瞳に剣呑な光が宿る。だがすぐにいつものへらりと笑んだ表情に戻った。


「確かに、メルの浄化魔法は澱みに当たりやすい僕にはすっごく魅力的ではあります。

メルとローゼスさんを探して一緒に行動するよう指示したナザレにうっかり感謝しちゃいそうになるくらい」

「ですが浄化魔法が使える者なら他にもいるでしょう?」

「引きこもりのエルフ族とかですか?

まあ、彼らの喜ぶ対価を用意すれば招聘に応じてくれる者もいるかもしれませんけど」


小さく笑いをもらすアルフレッドをローゼスの藤色の瞳が静かに見つめていた。

軽薄な態度と物言いがこの若者の本心のすべてでないのはローゼスにも分かっていたが、今は敢えてはっきり問うべきだと考えた。たとえ、後にこのやり取りを知ったメイベルに恨まれることになろうとも。


「浄化魔法の使い手が必要なだけなら、メイベルである必要はないでしょう。

なにより貴方は王族、しかも一夫一妻制をとるフェアノスティ王国の王族です。

一夫多妻制をとる他国よりも、フェアノスティは直系の王族は希少な存在のはず。ならば子孫を残すのは王家の直系に生まれた者の大事な責務でしょう。

高位魔法使いの殿下なら、幼少時から婚約者候補として魔力の相性のいい方を選定しておられるのでは?」

「それが世にいう『運命の相手』ってやつのことを指してるなら、心配は不要です。

僕はもうとっくに、運命の人とやらには振られちゃってるので」

「……どういうことですか?」


ローゼスが怪訝な顔になって尋ねると、アルフレッドはおどけたように肩を竦めた。


「運命なんて大層な呼び方をされてますけど、要は相手の魔力を拒絶せずに受け入れられるか否かなんです。本来他人の魔力は拒絶反応が起きるからそのまま受け取ることはきない。高魔力保持者は特に固有魔力紋が特殊な場合が多くて、拒絶反応も苛烈なものになりがちです。でも稀にその拒絶反応が起きにくいケースがあって、そういう者同士の間では子を成せることが多かった。だから魔力保持者の多いフェアノスティ人は魔力の相性を見て婚姻相手を探すようになり、いつの間にかそれを『運命の相手』と呼ぶようになったと言われています。

中でも魔力の相性が良く拒絶反応が非常に少なかった場合には、双方の魔力がこの上なく安定して魔法使い的に見ても非常に長命になることもあるとか。まあ、普通はそこまでの相性を求めたりはしませんけど。

だから、年に一度、建国祭で開かれる王家主催の舞踏会と後日開かれる貴族間の交流会には、『運命の相手』とやらを探すため国中の子女が集まってきます」

「『運命の相手』というのは簡単に見つけられるものなのですか?」

「よほどの高魔力保持者でなければ、大抵は。ダメな場合の反応が苛烈だからこそ、ダメじゃない相手は分かりやすい。魔力持ちの子ばかり集めて交流させ、拒絶反応が少なかった子同士で縁組を交わすようです。

体調が落ち着いて浄室から出られるようになった頃、僕もその舞踏会に参加することになりました。まだまだ虚弱だった僕の身体では舞踏会に来た子全員と面談するなんて到底無理だというので、国中の未婚令嬢を対象に内密に僕の魔力との相性を見る事前調査をしたそうです。魔道具狂いのハーフエルフが造った、魔力紋を持ったままの魔力を閉じ込めることが可能な魔道具を使ってね。

幼すぎた僕は詳しいことは何も知らされてなくて。新しい玩具でも与えられたかのように、ただ言われるままいくつもの魔道具に魔力を込めたのを覚えています。

そうして国中の貴族家を探してようやく一人、僕の魔力に対して拒絶反応が比較的少ない令嬢が見つかりました。望んでいたような良好な結果ではなくとも可能性はあると、舞踏会でその令嬢との面談が行われることになりました。

でもね、その子、いざ僕を目の前にした途端、怖がって泣いちゃったんです」


『くろいかみのおうじさまは、おうひさまのいのちをすいとったんだって……

わたしのいのちも、きっとすいとられちゃうって……』


自分より少し幼い歳であろう女の子が、怯え切った表情で傍に居た母親らしき女性のドレスにしがみついて泣きじゃくっていた。その時の光景を思い出しながら、アルフレッドは困ったように笑った。


「当時、僕が母であった前王妃の魔力を吸い取ったっていう噂が、子供たちの間で流れてたんです。その子は噂を信じ、自分も魔力を吸い取られて死んでしまうんじゃないかと怯えていたようで。

何も知らないまま兄上にくっついて初めての舞踏会場に出向いたので、何かを期待してその子に会ったわけじゃなかった。だから別にがっかりもしなかったですけど、拒絶されたのだけは理解できました。

引き合わされたその子が僕の『運命』とやらだったらしいことも、その子が僕を見て泣いた理由も、その子以外には運命の相手の可能性がある子は王国内の貴族家では見つからなかったことも、後から知らされました。

自分の知らない間に『運命』を用意されて、おまけに怖がられて拒絶されて。ほんと、なんだそれって、思いましたよ」


その時点で見つからなかっただけで、後々生まれた子の中にいるかもしれないし、平民の中にいる可能性だってある。だから叔母には毎年の舞踏会に出席するよう何度も言われ、別の親族には貴族から平民まで優秀な子が集まる王立学院に顔を出してはどうかなんて言われることもあった。

可能性がゼロじゃないのはアルフレッドも理解していたが、どうしても『運命』を見つけなくてはいけないのだろうか、とも思っていた。


「僕は、最初に見つかったその子に拒絶されて、結果的にはよかったと思ってます。

王族の婚姻は、一度成立してしまえば離婚は難しい。ちょっと魔力の相性がいいってだけで、当人同士の人間性の相性は二の次で強制的に一生一緒に居るはめになるなんて。僕は、そんな『運命』は願い下げです」

「…………その後、そのご令嬢とは?」

「いろいろあった後、今現在は良き友人として交流してもらっていますよ」

「ご友人、ですか……」

「ええ」


アルフレッドがふと部屋の扉へと視線を遣った。ローゼスも背後を窺うように見て、扉の向こうにあった気配が離れて行ったのを感じて眉尻を下げた。


「……聞かれてしまったようですが、よろしかったのですか?」


ローゼスの問いかけに、アルフレッドは青い瞳で扉を眩しそうに見つめながら「そうですね」と薄く笑った。


「僕は、生まれてからずっと、自分のこの特殊な身体と向き合ってきました。

正直厄介な体質だと思いますけど慣れってのはすごいもので、少々の体調不良は平気だこれが平常運転だとやり過ごすのが普通になりました。

僕を生かすために周りの人たちがいろいろ心を砕いてくれているのも理解できるようになってきましたし、その人たちのためにも少々具合が悪いくらいで泣き言なんか言ってられない、自分に出来ることは多少無理してでも最大限頑張ろうって。

でも………」


アルフレッドは自分の手首にある銀色の腕輪に視線を落とし、愛しげにそれを撫でた。


「メルに会ってからずっと、彼女の浄化魔法で何度も助けられてきました。

彼女の傍なら僕は楽に息ができる。それは事実です。

でもそれだけじゃなくて、メルの隣では、頑張りすぎない自分も許してもらえてる気がして。そのままの僕でいられるみたいで。

年下の女の子相手に何甘えてるんだって、自分でもわかってるんですけど……すみません、なんかうまく言えないや」


言葉に詰まり、アルフレッドは少しだけ俯いた。でもすぐに顔を上げ、ローゼスに真っすぐ向き合った。


「最初のきっかけが魔力の相性を見た結果だったとして、そこから良好な関係に育っていくことだってあるでしょう。実際うちの兄や姉は、魔力の相性で選定されたお相手と互いに歩み寄って婚姻し、無事子供も生まれて、今現在とても幸せそうですし。王位継承権を持つ子も順調に育ってるから僕自身が是が非でも婚姻して子をもうけなきゃいけないわけじゃないし、なんなら婚姻するもしないも自由にしていいとまで言われてる。

僕を心配する一部の親族たちは、運命の相手が傍に居れば今より僕の身体が安定するんじゃないかって考えてるふしがあるみたいで、『運命』を探せっていまだに言いますけどね。

でも僕は、たとえ『運命』でなくとも僕自身が共に在りたいと思う人を、自分で選びたいです。

そしてその人にも、僕の厄介な性格も、僕がどんな生まれでどんな体質なのかも全部知った上で、僕自身を選び取ってもらえたら嬉しいと思います」


そこまで言ってから、アルフレッドは少しだけ頬を赤らめ上目遣いになってローゼスを見た。


「……思春期を脱していない子供の我儘だと、思いますか?」


どこか幼さが滲む仕草に、ローゼスは微笑みながらゆっくりと首を横に振った。


「本当は、メイベルに不用意に近づいてくれるなと申し上げるつもりだったんですけどね」

「あ……やっぱり?」

「ええ。でも……貴方には言うだけ無駄な気もしてきました。私が何と申し上げても、引く気はないのでしょう?」

「勿論です」


即答されて、ローゼスはにっこりと笑んで立ち上がった。


「まあ、決めるのはメイベル自身ですから、せいぜい精進なさってくださいませ。

あの子は自分の未来は、自分で選び取るでしょう。

なんてったって、うちの娘ですからね」


ものすごくいい笑顔で見てくる魔法人形に、アルフレッドは苦笑する。


「言われなくとも頑張りますよ────」


その時、言葉を途切れさせたアルフレッドが身体をびくりとふるわせた後、部屋の窓を勢いよく振り返って睨み据えた。視線の先、宵闇の中に浮かぶ白い何かと、それの傍に佇む細い後姿を見て驚愕に目を瞠る。

アルフレッドの視線の先を辿り、ローゼスの表情も凍り付いた。立ち竦んでいるように見えるメイベルの向こうに居たのは、白色の毛並みと頭にある一本角がぼうっと光っている大きな獣だった。


「メイベル……!」


ローゼスが娘の名を呼ぶのと、ベッドから降りながら銀の腕輪を抜き去ったアルフレッドが体当たりする勢いで窓から飛び出したのはほぼ同時だった。

そのままアルフレッドは魔力不足に眩暈を覚えながらも飛翔魔法を展開して空を駆け、少女と仄かに光る白い獣の間にその身を踊り込ませた。


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